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PHANTOM GARDEN  作者: shinohihou
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きっかけひとつ、イメージひとつ!


 気がつくと、岩の前。

「やっぱり、岩は何もかわっていない……な」

 あんなに頑張っても傷ひとつついていなかった。

 ふと、体をみると、昨日キョンシーによって破られた服は直っていた。

「こんな、システムなんだな」

 と、感心して周りをみまわす。

 今日は水野さんはいなかった。

 考えられるのはPGにきていないか、それとも町にいるか。

 昨日、水野さんは町から帰ってったしな。

「ま、いっか。水野さんはいても暇だろうし。それに、これは自分の問題だ」

 自分の頬をパンと叩き、気合をいれる。

 刀を抜き、構えて、息を整える。

「ふぅ~。 は!」

 45度を心がけて振る。

 シュン

 キィン

「ま、斬れないわな」


 数回繰り返す。

シュン

 キィン


 シュン

 キィン


 ここで、僕は違和感を感じた。

「あ、そうか! 痛みを昨日より感じていない!」

 昨日なら、一回ごとに激痛を感じた。

 けれど、今は、連続でやっても大丈夫だった。

 それだけじゃない。刀を振るときにする風きり音だ。

 これまではなかったのに今日はある。

 なぜか?

 きっと、筋力が上がっているからだ。

 昨日、最後は刀を上げるだけで精一杯だった。

それだけの筋肉疲労があるはずなのに、それがない。

 ということは、PGでは、やればやったぶん鍛えられる。それも次の日に反映されるというすばらしいシステムなのだ。

 僕にとって、キョンシー戦で足りないと感じたもの。それは体力と腕力。

 この岩きり修行では、その両方を鍛えることができる。

「さすが水野さん。すべて見越した上でこの修行をやらせているのか」

 だとしたら、今日の7時間でやることは、昨日よりハイペースで刀を振り続けること。

 そしてぶったおれる。

 いつ斬れるかはわからない。

 けれど、水野さんは確実に7日以内で斬れるとふんでいるのだろう。

 その期待に応えよう。

 もう一度、自分に気合を入れなおし笑みを浮かべ、目の前の岩に向き直る。


 これを遠くで見ていた水野時葉が、笑みを浮かべていたことを、神岡翔は知らなかった。


 7時間後、岩をみていると、少し斬れていた。

それをみて、両者は再度笑みを浮かべた。


       * * *


 夢を見た。

 母と父が幸せそうに笑っている。

 ちいさい僕は必死に呼びかけた。

 けれど彼らはこっちにきてくれない。

 それならばと僕が母と父の元へ向かう。

 進んでいるはずなのに近づかない。近づけない。

 誰かによって阻止されている、いや僕と母と父の関係を断とうとしているように思われる。

 どんなに走っても近づけない。

 泣く。

 大きな声で泣く。

 それでも来てくれない。

 笑ったまま。

 なんで?

 僕を見ているの?

 誰を見ているの?

 ねぇ!



 ピピピピピーーーーーガチャ

 正直、最悪の目覚めである。

 まさか4時から7時までの3時間で夢をみるとは……。

 修行とあわせて二重に疲れた。

 

 

 今日も朝から図書館に訪れる。

 刀について、ではなく武術についてだ。なにかきっかけになるものがないか見るだけであって、収穫があれば運がよい。その程度だ。

 さっさっさっと流し読みしていく。

「ん?」

 目が止まったのは空手の力の出し方、という点だ。

 

 僕が力をだす瞬間は常に全力で力を入れている。

 つまり、刀を振り下ろす前から力をいれ、振り下ろすまで力を入れっぱなしにしている。

 このほうが力が多く使われるように思われるかもしれない。

 けれど、正しい力の出しかたは違う。

 脱力、力を完全に抜いて構える。そして一瞬で筋肉を絞り上げ動かす。

 つまり、筋肉を爆発させるのだ。

 わかりにくいならば握力を測るときを考えるとよい。

 握力計を握りっぱなしにしたからといって握力の数値はあがらない。むしろ無駄に疲れる。

 あのときも脱力から一気に力を入れる。

 それが今までの僕にはできていなかった。

「難しいな、刀を一回振るだけなのに」

 けれど、調べれば調べるほどいろいろなことを見つけられる。

 これはとてもおもしろい。

「今日の夜が楽しみだ!」


 昨日は先生に本がばれたので、今日は借りずそのまま返した。



 下駄箱から図書館に直行したので今日初の教室に行き、すでに来ている優にあいさつをした。

「おはよう」

「おはようさん。今日も図書館か?」

「あぁ。まあな」

「その顔は『借りたかったけど、また先生に怒られたくないから借りなかった』って顔ですな」

「……まったくそのとおりです」

「ばれないようにやればいいのに、隣の人みたいにさ」

「隣って、……あぁ、ゲームやってたことね」

「あれは、すごいよね」

「ホント、びっくりした。びっくりしたといえば、昨日のテレビ見た?」

「へ? テレビ?」

「うん。びっくりする番組見たんだよ」

「どんなやつ?」

「災害とかでさ、よくとじこめられたりするじゃんか?」

「あぁ」

「で、ある母親がいたんだよ。息子だけ瓦礫の下に閉じ込められちゃって。さらに、ひとりではどけられない重さでさ。どうなったと思う?」

「他の人呼んだんじゃないの?」

「それが確か数百kgあった瓦礫をひとりで持ち上げた」

「なにそれ? ムキムキだったの?お母さん」

「そんなわけないじゃん。普通の人。よくいう馬鹿力ってやつ」

「あれって、体のリミッターが外れることによってそれ以上の力がでるんだよね」

「そう。そして、そのときお母さんはすっごく強く『助けたい』って望んだんだって」

「ようするに意志が強かったから助けられたと?」

「うん。『意志の強さ』。これのおかげで息子と、自分自身の運命を変えたんだよ」

「意志の強さ……ね」

「ホントにびっくりした。嘘かとおもってネットで調べたけどやっぱり実話だったんだよ」

「世の中わからないことばっかりだな」

「まったくだ」

 ここでタイミングよく予鈴がなった。

 自分の席につき、再度意志、つまり思いの力はすごいんだなと思った。


       * * *


 何事もなく一日を過ごして、再度PGへ。

 最初に水野さんに会い、「がんばってね」と優しく激励の言葉をかけてもらって岩きり修行3日目をスタートさせた。

 予想通り、昨日も限界まで刀を振ったので、さらに刀をふるスピードが上がっていた。

 また、腕力もあがっていた。

「本日1発目!」

 そう言って気合をいれ振る。

「おっし!」

 昨日は切れても数ミリではじかれたが、今回は1発目にして、刀の刃がうまるほど斬れていた。

「この調子なら今日中にいけるかな!」

 刀を抜く。

 岩とキョンシーの体にささった刀。どちらが抜きにくいかと考えると前者である。

 よって、ここでも自分の成長を感じることができた。


       * * *


「はぁ、はぁ、はぁ」

 ………………なぜだ、なぜ斬れない?

 あれから3時間後。刀身は埋まる。

 しかし端から端まで70cmほどある岩を斬りきることはできない。

 単純に力が足りないだけかと思ったが、水野さんが力は足りていると教えてくれたので違う原因があるらしい。

 しっかりと朝学んだ、振る瞬間に力を入れて、筋肉を爆発させることはやっている。45度で斬っている。

 ……もう、無理なんじゃないの? 才能ないんじゃないの?

 そうささやく自分がいる。

 何か忘れていることはないか。

 ……優と会話していた、あの馬鹿力を出せればいいんだけどな~。

 あれを出すためには意志の強さが必要である。

 まあ、無理だろうとおもいつつ、試してみた。

「僕は岩を斬れる。僕は岩を斬れる。僕は岩を斬れる」

 3回唱えて刀を振り下ろす。

「お」

 さっきより斬れていた。

 この程度の思いで馬鹿力が出せるとは思わない。

 ということはこれは馬鹿力ではない。意志、思いを口に出したことにより、それが、実現しやすくなったということじゃないか。

 それが確かなら今足りないものは純粋な意志。

 だから『無理だろう』という思いを捨てて全力で斬ることだけを考える。

 目をつぶる。

 脱力する。

 刀を振る、振り切るイメージをつくる。

 心の中で『斬れる』と何回も唱える。

 そして心を落ちつける。

 目をあけると、斬れる、という確証はないが、自信があった。

 刀を振り上げる。

 もう何百回、何千回とやっている動作を再度やる。

「はぁぁぁぁぁ!」

 今までで一番大きな声を出し、振り下ろす。


 ……斬れなかった。

 けれどあと20cmほどだった。

 意志をもつようになってから格段に斬れるようになっている。

 今斬れなかったのはまだ意志が強くなりきっていなかったからだろう。

 一回一回集中して、その後も何回と挑戦した。




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