~幻想の庭~
目が覚めると、まず青い空があった。太陽もあるのだろうか、とても眩しい。
「ここはどこだ? 夢か、現実か?」
いや、現実ではない。なぜなら太陽が3つある。
なるほど眩しいわけだ。
少し目がなれたのでまわりを見渡す。
一瞬何があるかまったくわからなかった。
そこにあったのは石版である。しかも地面に刺さっている。高さは1メートルほどのものから3メートルほどのものまでいろいろあった。しかも意味不明な文字が書いてある。
……まったく読めないぜ
ふと、人の気配を感じた。
「目が覚めたかい? おそいよ、まちくたびれちゃった」
凛として、どこまでも響き渡る声が聞こえた。
振り返ると、そこには黒髪、ロング、ストレートの綺麗でかわいい女性。
あれ?どこかであったような気がする……ような、しないような……。
「お~い、聞いてるか~い? 私の話」
風が吹くと彼女の髪がゆれた。その状態もとても美しい。
彼女の目をまっすぐ見る。その目にはどこか悲しさが混じっていた……ようにかんじた。本当かは知りません!
「え~っと、あなたは? あと、ここはどこですか?」
「わかるよ~、質問したい気持ち。確かに疑問はたくさんあるよね。うんうん。でも、人に名乗るにはまず自分から。男ならしっかり名乗りなよ」
そうやって微笑みながら話しかけてくる。……やっぱり美しい。
「僕ですか。僕の名前は神岡翔。16歳の高校1年生です。というか入学したてです。そちらは」
歳がわからないので礼儀正しくしてみた。なれないしゃべりかたなのでなんか気持ち悪い……。
「私?水野時葉ね。よろしく。あ、わたしも高校1年生だからそうかしこまらなくてもいいよ。逆に困っちゃうから」
「こちらこそ、よろしくお願いします。じゃあ、敬語なしにします。」
「そうしてそうして~! で、ここがどこかって質問だよね。どこだと思う?」
「まさか、アニメみたいに起きたら異世界異次元に~、みたいなかんじだったりして」
「……、ぷっ」
ははははは、と大爆笑されてしまった。
何もそこまで笑わなくてもいいじゃん。泣いちゃうよ、僕ないちゃうよ!
必死に目で訴えたのが伝わったのだろうか。笑い足りなさそうだったが話の続きをしてくれた。
「そうだね~、何から話したらいいかなぁ。」
う~んと指をあごに当てて数秒考えてから指をパチンと鳴らして説明を始めてくれた。
「この世界は現実じゃない。けど夢の中ってわけでもないんだよね。夢とも現実とも非なる存在、そして紙一重でもある。つまり……」
「つまり?」
つまりなんなんだー!
と、再度目で訴える。
「なんとなんと、幽体離脱した世界なので~す! すごくないすごくない?」
「ゆう、たいりだつ?」
「名前くらいは知ってるでしょ。体が金縛りにあって、気がつくと霊体が抜けてるってやつ」
「まぁ。でもまさか本当にできるとは知らなかった」
「そうだね、自力でやるとなると結構な難易度なんだよ。けどそれを補助するアイテムがあったはずだよ」
「そうか、あの音楽ファイル」
「そうそう、あれを聞いて寝ることによって強制的な幽体離脱が可能になるわけ。逆に言えば聞かなかったら離脱せずにすむわけよ」
なるほどなるほど。すげ~な~。けどそんな音楽ファイルならネットに流通しないのだろうか。絶対マニアとかいるだろうし。
この疑問をぶつけてみた。すると、
「他人に聞かせてみればわかると思うよ。というかその音楽ファイルの保持者以外は聞くことができない。そのひとごとの脳波に影響するようになってるらしい」
らしい、というところが気になったがもうひとつ気になった。
「じゃあ音楽ファイルをけしてしまったら一生聞けない、離脱できないってことになる、と?」
「そのとおり。けど、コピーすることはできるからPCやUSBメモリとかに入れとくといいよ。間違えって消してしまっても修復できるから」
なるほど、そうしよう、帰ったらすぐに。
ん? 帰ったらって……帰れるのか?
「今、帰れるのかって思ったでしょう。帰れるよ、帰れなかったら現実世界の体、変なことになっちゃうし。」
「で、その帰り方は??」
「帰り方は2通りある。そのまえに、このこと説明しないといけないかな。 この世界と現実世界では時間軸が違います。具体的には、現実の1時間がこっちでは7時間になる。そして天気も時間によって急に変わることもあればゆっくり変わることがある。だから地上とはるか上空でも時間軸が違う。まあ上に言ってみればわかるさ」
はい、また上とか意味わかりませんが今は帰ることが重要なのでスルーします。
「帰る方法1つ目はここで7時間すごすこと。そうすると強制的に現実世界に帰される」
「7時間って、またなんで? 現実世界で1時間しかたってないってこと?」
「おしいなぁ。いい線いってるよ、神岡君。」
「どうも……」
じゃあ、どういうことなんだ、いったい。
「つまり現実で1時間しかたってないんじゃなくて、1時間しかこの世界にこれないってこと。それもいろいろ調べた結果、現実時間午前3時から4時にしか。だから3時前に音楽を聴きながら寝ればこの世界に来ることができるし」
「4時以降に寝るとくることができない、そして3時半に寝ると3時間半しかこの世界にいられないってことだね」
「うん、理解が早くて助かるよ」
にっこり微笑んでくる。
はやく帰りたい。けどどのみち帰れないしな~。
「ここまで大丈夫?」
「もちろん」
親指をぐっと立てる。
本当のこというと自信ないです、はいすいません……。
「それで、2つ目ってなんですか」
「ふふ、おしえてあげなーい」
なんでそんな子悪魔的な笑みを浮かべているんですか……。
でも、いい!よすぎますよ、水野さん!
「いじわるしてるわけじゃないよ。今すぐ帰られても困るし、まだまだ説明することが多いからね」
「まあ、そういうことなら」
しょうがない。実際聞きたいことがあるし。
「じゃあ、この世界の存在目的でもはなしてあげるよ」
「はい、お願いします」
確かに、これはすごく疑問だった。
いったいどんな目的で、なぜこの世界があるのだろう?
そして、あのメールの意味っていったい……
それを水野さんは感づいたのだろうか。そのことから話してくれた。
「え~っと、メールの中身はどんなのだったか、憶えてるかな?」
「絶望がなんちゃらかんちゃらとか、神を見つけろ、とかだったかな」
「そうそう。すっごく簡単にまとめると、この世界で神を見つけることができたらどんな願いでも叶えることができるのですよ」
ドヤ顔で水野さんが見てきた。
ここで心の中でひとつツッコミを入れた。
あなたがドヤ顔する必要ないだろ! はい、ごめんなさい。
「もう見つけた人はいるんですか?」
水野さんは首を横に振った。
まあ、そうだよな。何人も見つけてたら大変だしな~。
「じゃあ、いったいどうやって見つけるんだよ?」
「まあまあ焦るな、少年。その前にメールの絶望についてふれておこう。」
うん、すっかり忘れてました。
「この世界に呼ばれたってことは、君には絶対に叶えたい願いがあるはずなんだよね。しかもメールが来るちょっと前に強く願った」
そう言われると、心当たりがある。そう、あのイジメられていた瞬間。あいつにも同じ、いやそれ以上の苦しみをあじあわせたいと。
「と、考えられると、僕の願いは多分」
願いを言おうとすると、水野さんはそれを遮った。
「いい、いいよ、言わなくて。絶望ってことはつらいことがあったってことだし、自分で言うのも辛いだろうし」
「あ、ありがとう」
優しいなぁ 、水野さんは。
「ひとによって願いの種類はいろいろあるはず。けどこの世界にくる人はだいたい絶望が多い」
「ってことは」
水野さんにも、絶望による願いがあるということですか?
そう言おうとしたが、向こうが聞かなかったのに聞くのは悪いと思って、途中でやめた。
しかし、
「うん、わたしにも、ね」
少し場を暗くしてしまった。
やばい、なんとか場をなごまさないと!
「すいません、聞いちゃいけなかったことですよね。いや~、よくデリカシーないって言われるんですよ。空気が読めなくて。ははは」
「そうだよ。女の子にはデリカシーもって接しないと、めっ、だよ!」
人差し指を立てながら注意してきた。
あぁかわいすぎる!
「なんか、変なこと考えてない?」
「いえいえ、そんなことありませんよ、ホント」
やばい、鋭い。気をつけよう。
「話を戻すよ。要するに、神はその願いを叶えてくれる。けど神を見つけないといけない」
「ヒントはないんですか?」
「ヒントじゃないけど、みつける方法はある。この世界には私たちみたいな離脱者、みんなはセパレーターってよんでるけど、そのセパレーターとノンプレイヤーキャラクター、NPCがいます。そしてNPCにはいろいろなことに悩んでいるものもいる。そういうひとたちの依頼を遂行することによって、すこしずつ情報がもらえるわけね。けど、いい情報を得るためにはもちろん危険な依頼を達成しなくちゃいけない」
「例えばどんな依頼?」
「まあ、あとで町に言ったら教えてあげるけど、化物退治とか、何かを採って来いとか。よくあるオンラインゲームのクエストみたいな感じ」
よし、ここまでは何とかついていけてるぞ。頑張れ、自分!
「けど、まだ神を誰も見つけていないから大変なんだよね~。それであきらめた人はこの世界から去っていってるわけだし。」
「去るってことは、音楽ファイルを削除するってこと」
「それだけじゃないよ。あ、あとこの音楽ファイルはOut Form Sound、OFSって呼ばれてるから憶えておいて。他の人に初心者っておもわれると危ないし。」
「危ないって、なぜ?」
「その理由はね、NPCじゃない人、つまりセパレーターにこの世界で殺されると二度と来れなくなるから」
「へ~、……え、まじかよ」
「うん、まじまじ」
微笑みながら僕の言葉をまねしていた。
こんな人にも絶望した願いがあるんだな……。
「だから、絶対に気をつけてね。弱いそぶりをみせないことがこの世界の鉄則だから。もちろん、みんながみんなセパレーターを狙ってるわけじゃないけどね」
安心させるためだろうか、ウインクをしてくれた。
何故か、顔が赤くなった。
ばれないように次の質問をした。
「じゃあ化物に殺されたら?」
「それは大丈夫。けど、その時点で現実世界に帰って、その日の間は離脱できないルールがあるけど」
「その場合って次来る場所はそこからに?」
「いや、その前に訪れた町からスタート。話をもどすけど、去る方法二つ目は、離脱した日から7日間離脱しないこと。そうするとOFSをかけてもこれなくなる。」
なるほどなるほど。
「7日間は長いから現実のほうの人を監禁してってこともできないんだよね~。全く神もよく考えてるよ」
けど、おかしくないか。この世界ではセパレーターに殺されたらもうこれなくなる。そして願いを叶えたいなら敵は絶対に少ないほうがいい。それなのになぜこの人はこんなにも僕に優しいんだ?
一応警戒して聞いてみた。
「ところで、なぜ、水野さんは僕にそんなに親切に説明してくれるんだ?」
「それはもちろん、もうひとつ大きなルールあるからだよ」
ニコッと笑った顔に悪意をないと感じたので警戒を解いた。
「数人、もしくは集団に属さないといけない、みたいな?」
「おしい、80点! ペアが必須なんだよ。だからみんな絶対にペアで活動しているわけ」
「じゃあ願いはどうなるんだ?」
「……それがわかんないんだよね」
「ま、そうだよね……」
ここでもうひとつ疑問事項が出てくる。
こんなに詳しいってことは少なくとも何ヶ月かはここにいるってことだろう。
けれど、今はひとりで僕とペアだ。
その間のペアはいなかったのか、それとも僕に嘘をついているのか。
もちろん、この人を疑いたくない。
そこでふとイジメられていたことを思い出した。
そう、人を簡単に信用してはいけない。一歩距離をあけて関わらなければならない。
これ以上、自分が傷つかないために。
だから今納得したふりをして、しばらく様子をみよう。
それから決めても、遅くはないさ。
「じゃあ、あらかた説明も終わったし、町に行きましょうか」
「現実世界にもどるためですか?」
「いやいや、キャパシティーを決めるためだよ」
「へ?キャパシティーって?」
「まあ、歩きながら話しましょう」
そういって水野さんは淡々と歩き出すので、僕は急いでついて行った。
「キャパシティーってのは、この世界で戦っていく能力のこと。化物と戦ったりするわけだからそれなりの装備は必要ってわけよ。そして人それぞれに適正がある。それを町の武器屋さんにみてもらうのよ」
「その人もNPCだよね」
「そう。いろいろなタイプがあってね」
「水野さんはどんなタイプなの?」
「さあ、なんでしょう?」
なぜ、そこで問題なんだ!
しかも可愛くアピールしてくるし。
だんだん僕の中で美しいより可愛いメーターが上がってきている……。
軽く二重人格だったりして。
「む、考えてる?」
そうか、外見は美人かつかわいいタイプだけど、中身はかわいいタイプのほうがつよいのか。
……あれ、なんか考えてるタイプが違うな。
よし、真剣に考えよう。
「う~ん」
わざとらしく唸ってみる。
水野さんを観察すると特に何かを装備しているわけでは無さそうである。
服も鎧のように見えない。
つまり、
「近接戦闘型、とか?」
「うん、あってるよ。今、服装とか持っているものから考えたでしょ? そういうふうに相手を観察してタイプを判断すること。もし、プレイヤー狩りにあったら、絶対にそれを最初にやってね。そうじゃないと、死 ぬ か ら」
今のは美しかった。けど、その笑みが怖い……。
そんなふうに話しつつ町についた。
「この町はすべてのプレイヤーの始まりの町。ソーリャ。なにかとこの町にくることあるから、しっかり町の名前憶えておいてね」
ここでウインク。周りにハートが散らばっている……気がした。
この町、ソーリャはさっきみた石版のようなもので囲まれている、いわゆる石造りの町だ。そして広い。
ここから大きな時計台も見える。
中に入って数分歩き武器屋に入った。
水野さんは外で待っているらしく、僕はひとりで入った。
ごほん。
一応NPCでも美しい女性を期待しますよね。いや~期待していました。
けど、武器屋の主人の定番って絶対…………ムキムキマッチョスキンヘッドのおじさんなんだよね~。しかも無駄にゴツイ。
あ~、カタカナ多くて嫌になるよ。
「おや、新人さんかい?キャパシティーチェックするかい?」
やはりNPCなのだろう、定型文で話しかけてくる。
「はい、お願いします」
いったいどんなことをするのか。不思議でしょうがなかった。
「では、これをはめてください」
そういって渡されたのは白い腕輪。
それをはめた瞬間、白い腕輪は青色に変わった。
なんだなんだ、何か悪いことしたのか?
「君は近接戦闘型だな」
近接戦闘型か。まあ遠距離よりは好みかな。
「ちょっと待っててくれ」
そういって店の奥に入り、すぐ出てきた。
「じゃあ、この日本刀がきみの武器だ」
「えっ……?」
……日本刀って。
さわったことまったくないし、あつかい知らないし!
「これはいい日本刀だ。大事にしてくれ」
「変更……無理ですか?」
「ムリ」
「ダメ?」
「ムリ」
……しょうがないか。
「ありがとうございました」
そういって武器屋をでた。
そとで待っていてくれた水野さんと合流し、中の出来事をはなした。
「お~、予想通り近接か。しかも日本刀って。やるね~、神岡君」
「水野さんは武器持ってないから素手で戦うわけ?」
「そのとおりだよ~」
「けど危なくないの? 武器もっている人、特に遠距離攻撃されたら」
「大丈夫。近接戦闘型は体が丈夫にできてるんだよ、逆に遠距離は弱い。そこら辺も平等になってる」
「ただ、基本この服も薄いけど鎧みたいなもんだから、よっぽど強くない限り君の日本刀も貫通しないんだけどね」
水野さんは長袖長ズボンで普通の私服のような服を着ている。
それでも、鎧なのか、すげ~な、この世界。
「さて、今一番君にとって必要なことはわかるかい?」
「剣術の強化、とか」
「うん。まったく知らない武器だし。数日は絶対修行だね。大丈夫、私が修行をつけてあげるから」
そのほほえみはとても美しかった。
「ありがとうございます!」
「じゃあさっそく修行!と行きたいところだけど、今日はいきなりで疲れたでしょう?今日はもう現実世界にもどるとしましょうか」
確かに、もう頭がいっぱいいっぱいです……。
「どうやって帰るんですか?」
「どの町にもシンボルがあるから、そこにはいるだけ」
そういって歩き始める。
「この世界の名前はね、“幻想の庭”PHANTOM GARDEN」
「なんか壮大な名前だ」
「本当に壮大だよね。私は結構気に入ってるんだよ、かっこいいし。そして、この町のシンボルはあの時計台」
時計台につくと、そこに手をつけた。
「ここでDROP OUTっていうだけ。それで帰れるよ。じゃあ、また会いましょう、すぐ後に」
「へ? すぐあとって?」
「すぐわかるよ。DROP OUT」
そう言うとにっこり笑っていた水野さんが緑の光に包まれてあっという間に消えてしまった。
「すぐあとって、現実? それともPGの中でかな~。まあ疲れたし、帰るとするか。」
水野さんと同じようにする。
すると、体は不思議な浮遊感に包まれ、目の前が真っ暗になった。
その最中、僕は少ない意識で自分の願いをつぶやいた。
これからが楽しみだ、と。
* * *