~変わらない現実、変わる世界~
冷蔵庫を開けてみるとこれまたビックリ。何もない。つまり、買いに行かないといけない。
服を着替えてお金をもち、出発。お金は余計な分はもっていかない主義なので二千円だけにしておいた。
ここから近くのスーパーまでは自転車で5分。夜も11時までやっているのでとても便利である。
今日のご飯はなににしようかな~。といってもレパートリー少ないし。
ふいに横から蹴りが来て自転車が転倒した。受身を上手く取れたのでそこまで大きな怪我はなかったが、何が起きたのか状況を理解できなかった。
「何が起きたん……」
目の前を見て、言葉が途中で止まった。
そこにいたのはかつて僕のことをいじめていたグループでリーダーだったやつだ。名前は植野。正直見たくないし思い出したくもなかった。
中学校の頃は黒髪だったが今では金髪に耳ピアス。足も速いので逃げることができない。
多分殴られるのだろう。金も持っているからとられるのだろうか。そう思いながら僕は路地裏につれてかれた。
* * *
痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い。
なぜ?なぜ僕なんだ?僕がいったいなにをした? 僕はなにもしていない。小学生の頃からいじめてきやがって。
親がいないからあの頃はいじめてきた。きっかけはそれだけ。飽きてきたらやめればいいのに。最初は無視されるだけ、暴言を吐くだけ。それだけならまだよかった。
途中からは殴られた。ひとのめったにこない場所につれていかれた。顔や腕など見えるところは目立つので殴らなかった。けど腹をなんどもなんども殴ってきた。
今はどうだろう。顔を主に殴ってくる、蹴ってくる。やつあたりなのだろうか。
こいつらと離れるために僕は一人暮らしを始めた。もうあうことはない。そう思っていた。せっかく楽しい暮らしができると思ったのに。
なんでおまえらみたいのがいるんだよ。せっかく忘れられていたのに。もう少しで人を信頼できるとおもっていたのに。なんで邪魔するんだよ。
僕は信じたい。人を信じたい。けど信じられない。おまえのせいだ。おまえのせいだ。
普通に暮らしていけたら、それだけでいいのに。なぜ僕なんだ。なぜ神はいない?
憎い壊したいすべてを壊したいおまえらにも僕の絶望を味あわせたい。
そんなことを考え続けながら30分近く殴られ続けた。最後に金がもってかれた。
二千円だけしかいれなくてよかった。
こいつは金の有難さをしらない。それは僕が働いてやっともらったものなんだ。
そんなふうにいってみたかったが言えなかった。怖かった。
やつが去ったと、10分くらい路地裏に座って、……泣いていた。
帰ってからもう一度買い物にいく気もなく、昨日とおなじようにカップラーメンですませた。
その後は何もすることがなかった。
ふと携帯電話をみると、緑の光が点滅していた。
「めんどいなー」
そうつぶやいて携帯をとり、メールを開けた。
* * *
世界は希望と絶望が溢れている。今君が感じているのは絶望だろう。
世界に対する絶望
他人に対する絶望
自分に対する絶望
神に対する絶望
さぞかしすべてが憎いだろう。
すべてを壊したいだろう。
それを叶える手段があったら君はどうする?
いや、あるのだよ。神にさえなるとこができる。
何故かって?
それはもちろん、私自身が神だからだよ。
君には今どうしても叶えたい望みがあるはずだ。
だからわたしは君にこの言葉を授けよう。
神を見つけろ‼さすれば、願いは叶わん
* * *
興奮した。何度も読み返した。
今は嘘の可能性などどうでもよかった。ただそこにすがれるものがあるなら、すがり
かった。
メールの下のほうには音声ファイルと使い方が書いてあった。
どうやら音声ファイルを聞きながら寝ると何かが起こるらしい。
ためしに聞いてみると、不思議な音だった。心が休まるような、暖まるような。クラシック音楽を聴いているようだった。
なにもおこるはずがない、そう思う傍ら、期待しないでいられなかった。
現在時刻は夜の7時。
「やべ、今日バイトじゃん。行く気はないけど、自分の金を稼ぐって決めたしな」
そう思って8時からのバイトに向かった。
* * *
「疲れた、いやまじで……」
「おつかれさん」
先輩が労いの言葉をくれた。
僕はまだバイトを始めたばかりなので研修の身である。
ここにはやさしい人が多いのでとても楽しい。
僕はこの場所を無くしたくなかった。
「ところで体中怪我してるけど、大丈夫かい?」
「大丈夫っすよ。ちょっと自転車でこけただけです」
ははは、と苦笑いしてなんとかごまかした。
うん、いったことは間違ってないよな。これ以上この話するとなんか自分がおかしくなる気がするし。
「ん?」
先輩は不思議そうな顔をしたが、空気を察してくれたのだろう。それ以上この話をしなかった。
時刻は11時。帰っていろいろしてたら12時だな。そろそろ帰るか。
「今日もありがとうございました。おつかれさまです」
「「「おつかれ~」」」
* * *
よし、予定通り12時か。音楽かけたし、寝るか。
何が起こるのか楽しみだな。
ベッドに入ったら、疲れていたのだろうか。それとも曲のおかげだろうか。あっという間に意識が沈んでいった。
* * *