~出会い~
僕たちのいる教室は1年6組で一年生棟3階にある。1階は下駄箱と1~3組があるだけなので用はない。
まず2階に降りる。するとそこには職員室。職員室を左にみてあるくとメディアアベニューというとてもひろい廊下にでる。
この廊下が唯一特別棟、一年生棟、二年生棟、三年生棟をつないでいる。
「ここを使ってみんな移動するんだな」
そのためだろうか、人が多い。
広い廊下にたち、左右を数回見る。
「よし、右に行くか。何があるかなーっと」
少し歩くとそこには図書館と自由に使えるPCルームがあった。
「お、翔くんは図書館に興味をもったと?」
「そういうわけじゃないけど、なんとなく目についただけだよ」
校舎が新しくなったから図書館も新しくなったのだろう。白を基調に目立ちすぎず、しかししっかりとした存在感があった。
「入ってみるか」
中に入ってみると本棚がたくさんあった。
……手をあげてもまったく届かない。
奥までいき、曲がった瞬間ひとにぶつかった。
「きゃ!」
「あ、すいません。大丈夫ですか?」
やば、本ばっかりみてて気がつかなかった。
「こちらこそ、すいません。本に夢中だったもので」
「あなたもですか? 僕もなんです。すっげーたくさんあるなーと上ばっかり見てて……」
お互い顔を見合わせると、自然とわらいがこみ上げてきた。
そのとき初めてその人の顔をみた。
「……かわいい」
「え?」
言ってからマジで後悔した。
状況を整理しよう。
曲がり角で見知らぬ女生徒とぶつかる。
お互い本に夢中だったと会話する。
……かわいい、と言う。
ヤバイヤバイ、これはヤバイ。ただの変人じゃないか。初対面の人にかわいいって……。絶対心の中で“この人、危ない人だ"って思ってる。
なんとか、なんとか言い訳探さないと!
はい、ここまでコンマ3秒。
「か、か、かみ。そう、髪、綺麗ですね!」
ごまかすためにかわいいから綺麗に変更。
実際、綺麗かつかわいい人なんだけど。
「あ、紙ですか。ホント綺麗ですよね。手入れしっかりしてるからなんですよ」
お、のってくれた!ここまできたらいけるとこまでいってやる!
「やっぱりですか?手入れはご自分で?」
「いえ、私は図書委員ではないので。というか一年生なのでまだ何にも部活やっていないので」
あれ、あれれ〜。なんか話しが噛み合ってない気がする。
「あ、僕も一年生ですよ。……えーっと、ところで何の話してます?」
「紙じゃないんですか?ペーパーの」
そうか。そうきたか。確かに“かみ”としか言っていない。
このまま誤魔化すか、とっさにいったとはいえ髪の毛の話は……恥ずかしい。
「ですよねー。ホント紙綺麗ですよね」
は、はやく去りたい。
「じゃあ、僕もう行きます。また会えるといいですね」
「そうですね、また」
そうやってニッコリ笑って手を振ってくれた。
図書館の中で優を探し、廊下にでた。
「ねぇ翔くん。さっきのかわいい子、だれ⁇」
……そうだ。あの子、すごいかわいかった。
言い訳で忘れてたー‼
冷静に思い出して見る。
夜空を思わせるような、しかしどこか優しさのある黒髪。
さわったら絶対にサラサラであるだろう、いやサラサラに決まっている。そんなロングヘア。かつストレート。
そして男心をくすぐる黒のニーソックス。
制服とあわさって彼女は真っ黒だった。
しかしあの笑顔はとても眩しくて、ずっと見ていたかった。
綺麗、かわいいという言葉は彼女のために存在すると断言できる。
それでいて性格は謙虚で優しい。
まさに非の打ち所がないと言っても過言ではない。
あんな人と付き合えたら高校生活バラ色だろうなぁ。
ここで僕はひとつとんでもないことをしたと気がついた。
「しまった…… 名前聞いとけばよかった!マジでショックだーーーーーーーーー!」
絶叫したら周りの人に注目されたので、すいませんと謝り、優のほうを向いた。
「もったいないことしたな。あんなにかわいい子、いないよ⁇」
「はい、ごめんなさい」
なぜか、謝っていた。そして、目からは一筋の涙がおちていた。
いや、汗だ。目から汗が出てきたぜ、がんばれ僕。
テンションが下がってきたので探検はやめ、2人で学食に行き、一連の流れを話した。
「本当に残念なことしたな。可哀想に。頭なでてやろうか?」
「いえ、いいです結構です、全力で遠慮しておきます。逆に悲しくなります……」
本当にかわいかったなぁ。まあ、また会えるだろう。同じ学校だし、同じ学年だし。
「とりあえずこの話はここまでにしておいてっと。なあ翔くん。夢とかってある?」
「またなんでよ、唐突だな」
「高校生だし、将来そろそろ考えないといけないじゃない? 高校生活なんかあっという間だよ」
「将来、ね。特にないかな」
「う~ん、じゃあいまやりたいこととかは?」
「と。いわれましてもなぁ。……彼女ほしい」
「同感だ。つまり、特に今やりたいこともないし、夢もないわけだな」
「あ、料理上手くなりたい!」
「もういいや」
将来なんてまだまだ先だよ、なんて思いながら学食で30分ほど時間をつぶした。
その後、学校探検を続けるか続けないかで軽く話し合い、後者にした。
学校を出たところで腕時計をみた。
時刻は1時半。帰っても1時40分。
帰ってからどこかにいこうかなぁ。