~最悪~
「ただいま〜、と言っても誰もいないか。」
優と別れてから5分ほど歩き、僕は2階建てのきれいなアパートについた。
家には誰もいない。なぜかというと、その理由は簡単だ。そう、絶讃1人暮らし中なのだ
前は祖父母の家に姉さんと一緒に住んでいた。しかし今年から姉さんは大学生ということで1人暮らしを始め、僕もいつまでも世話になるわけにも行かないので1人暮らしを始めた。
まあ、金銭面的にはきついので家賃や電気代だけは払ってもらい、それ以外の食事代、小遣いは近くのファミレスでバイトをして稼いでいる。最初はやる気だったがこれがなかなか辛く、さすがに部活まではやれない。
「今日はシフトも入ってないし、何にもやることないな。いや……なさすぎる。」
と、独り言をつぶやくが当然誰も答えてくれないわけであって、ぼーっと天井を見つめていた。
引っ越してあまり日が経っていないので、部屋の中は閑散としていた。あるものといえば、ベッド、机、本棚、タンス、窓に両親の写真が飾ってあるくらいだ。
久々の学校につかれたからだろうか、ふいに眠気が襲ってきた。ベッドにいくのも面倒だったので仕方なくそのまま床で寝ることにした。
* * *
「ふぁぁ〜〜」
思いっきりのびをして、眠っている頭を無理矢理起こそうとした。
時計を見た瞬間に頭は完璧にさめた。
「ほほう、8時とな。おぬしもやりおるな、はっはっはー。」
と、意味のわからないことを棒読みで言っていた。
冷静にかんがえてみよう。帰ってきたのが4時半。そして今8時。ご飯はまだ。1人暮らし。つくる気力もない。ここから導きだされる結論はもちろん3分で料理できるあれしかない。
よくカップラーメンをつくりながら3分クッキングの曲を歌うひとが多いが実際3分以上かかる。特にお湯をわかすとき時間かかるんだよな~。
と、すごくすごくどうでもいいことを考えながら入学初日の夜がふけていった。
* * *
目が覚める。次の瞬間、
ピピピピピピピピピピー
よくありますよねー、目覚まし時計がなる数秒前に起きること。
「……最悪の目覚めだ。」
いやいや、ポジティブに考えろ。悪いスタートということは今日一日いいことだらけということだ!
そう思って外を見ると、…………おもいっきり雨だった。
天気予報あてになんねー! 最悪パート2じゃないか!
もう、学校いきたくない……。
8時になったので鍵をしめ、雨の中、仕方が無く出発した。
アパートから学校までは徒歩10分。数回角をまがると大きな道にでて、少し歩けばつくので迷うこともない。
今、目の前に見えるのは真っ白な、そしてとても大きな学校である。この私立渚高校は去年建て替えたばかりなのでとにかく綺麗である。また、まるで大学のような校舎であり、広いので迷いそうになる。……いや、きっと迷うだろう。
制服も今年からデザインが変わった。それも主に男子が嬉しくなるように。つまり可愛いのだ。特に夏! 黒のカッターに赤のネクタイ、赤のチェックのスカート。冬はそれに黒のブレザー。
男子はまあ面倒だったのだろうか。……学ランだ。
制服が目立つので大きな道にでればすぐわかる。
いつか女の子と一緒に登校したいな、できれば彼女と。
そう思いつつきっちり10分で登校した。
今日はクラス役員決め、教科書配布だ。
クラス役員決めは面倒である。僕は何もやるつもりはない。できればくじ引きとかにならないことを祈りたいぜ。もちろん神には祈りませんが。
「じゃあ、くじ引きいくぞー。文句はなしだ。」
はい、そうそう世の中上手くいきませんよねー。期待して損したな。まあ予想通りではあったけど。
クラスは40人。役職は4つ。確率10分の1。
心臓の鼓動が高鳴る。
あと5人。目を閉じる。
あと4人。手を合わせる。
あと3人。お願いします、と唱える。
あと2人。いや、神にじゃないよ。と心の中でフォローを入れる。
あと1人。目を開ける。
さあこい! もちろん何も書いてないくじのことだ。なんかひとりで言ってて紛らわしい。
くじをひく。
丁寧に四つ折りされた紙をひらいていく。
そして、中を見ると思わず笑みがこぼれてしまった。
* * *
「わかっていたよ。世の中上手くいかないことなんか。けど、ちょっとひどくないですか。……もういやだ、生きるのが辛い……。」
役員決めが終わってからさっそく優に愚痴をもらしていた。
「そんなこというなよ、しょうがないさ。まあ、たまには手伝うよ、委員長さん。」
そう、僕はよりによって1番面倒な役職、クラス委員長になってしまった。大変といっても放課後に残って仕事をやる、というわけではないのでバイトに支障はなかった。そこが唯一の救いと言えるだろう。
その後、休み時間をいっぱいに使って愚痴をいった。
次の時間、教科書配布が一通り終わり、担任のありがたい話を聞いて今日の授業は終わりとなった。
「なあ優。暇だしさぁ、学校探険しようぜ!」
「う〜ん。そうだな。ここは広くて迷いそうだし、確かめないとな。昼はどうする?」
「もちろん学食。結構気になる。」
「はは、了解。テンション上がってるな〜。」
「まあ、あげないとやってられないし。それに……。」
イジメてきた奴らもいない、そう言おうとしたが、こういうことはいう方も言われる方も暗くなるのでやめておいた。
「いや、気にしないでくれ。」
「?」
気づいてなさそうで安心した。
「よし、いくぞー!」