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PHANTOM GARDEN  作者: shinohihou
16/17

終結する戦


 目を開けると、梨香が右ストレートをうとうとしていた。

 体を左にねじって避けると、刀を振り、距離をとった。

「あ~あ~、そのまま気絶してたら楽に死ねたのに」

「死んでたまるか!」

 あと数秒起きるのが遅かったら完璧に死んでた。ありがとう、父さん母さん。

 ただ、現状が変わったわけではない。

 相変わらず不利のまま。

 相手の隙をつかなければ勝てないことは確かである。

 さて、どうしたものか。

 相手が一歩こちらに近づく。

 同時に一歩下がる。

 それを繰り返すと、木にぶつかった。

 あ、思いついた。思いついてしまったよ、勝つ方法。

 僕は全身に力を入れた。

「その目は、そろそろ決着をつけるつもりの目だね」

「さあね」

「そんなにあの人は大切?」

「そりゃ、もうすごく。あの人といると楽しいし、飽きないし、好きだから。守りたいから。だから、倒させてもらうよ」

「やれるものならどうぞ」

 集中する。そして今までの修行を信じる。

 木に背中を預けている僕が先に動いたほうが圧倒的にいい。しかし、あえてそうしないで、梨香に先手を与える。

 そして、

「ごふっ」

 あえて腹をうたせた。

 梨香はびっくりしている。

 絶対数本折れてるな。

ギリッと奥歯を噛み、痛みをおさせ、最初で最後の隙に全力で刀を振り下ろす。

 梨香は距離をとりながら防御をしようとする。

 しかし、それは心力で伸ばした刀の間合いの中だった。

 梨香の防御より先に、最初で最後の隙に渾身の一撃をいれた。


 勝ったと思った。しかし、梨香は立ち上がった。そして間合いを再度取る。

 どちらも渾身の一撃をいれて、いれられて、ふらふらである。

 あと、できても一振り。心力も限界である。まあ、むこうも同じだろう。

 

 距離はだいたい6メートル。

 刀をしまい、中腰にして構える。

 居合いの構え。

 本で見た型を見よう見まねでする。

 居合いは一斬必殺の技。

刀を抜くときの速度は、普通の振り下ろしより速い。そして思力が合わされば互角。

梨香を見るとスタンダードな構えだった。

 きっとこちらの攻撃を防ぎ、カウンターをねらうつもりなのだろう。

 普段の梨香の思力なら腕の硬化で僕の思力を防ぐことも可能だろう。しかし、今はわからない。

 攻撃が通ったら僕の勝ち。防がれたら梨香の勝ち。

ここでの勝負の境目は心力だ。

 梨香は僕を殺すことを心の力にしている。

 僕は……。

 その先、守ることを力にしよう。

 水野時葉を守る。

そう心に深く誓った。

「オォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 僕は吼えた。この一撃にすべてを賭けるために。


 そして、勝負は一瞬で決まった。

 僕の思いは、梨香の思いを超え、思力を打ち破った。



……僕は梨香を殺さなかった。

 梨香は気絶している。

「心の迷いがあったからかな……」

 自虐的に空を見上げる。

 しかし、余裕はそこまでなく腹へ打たれたこぶしは効いているので、立っていられなかった。そして、その場に座って、水野さんがくるのを信じて再度目を瞑った。

 ……ごめんなさい、助けにいけませんでした。

 けれど、あなたが迎えに来てくれることを信じています。


* * *


「……くん、翔君!」

 自分の名前を呼ばれて目を開ける。

 そこには、大切な人の姿があった。

「勝ったんです、ね」

「うん、楽勝だったよ」

 あ、嘘をついてる。僕を安心させるために。服はぼろぼろだし、そこら中にあざがあるし。

 まだまだ、強くならないといけないなー。

「翔君こそ、むちゃして! 目を覚まさなかったらどうしようかとおもったじゃん!」

 抱きついてきた。

 あたたかい。人のぬくもりが幸せに感じる。

「……けど、ありがとう」

 水野さんが泣いていた。

 これが悲しみの涙じゃなくて本当によかった。

「好き……です」

「ほぇ?」

 水野さんがちょっとまぬけな声を出した。

 思わず苦笑する。

「僕、神岡翔は、水野時葉さん。あなたのことが大好きです」

 水野さんは顔を真っ赤にしてうつむいている。

「……私が坂西誠に勝てたのは翔君のおかげなんだよ。お昼のときに話していた心の力を見つけることができたから」

「なんですか、それは」

「それはね、殺す、じゃなくて、守る、だったんだ。殺すってことはそこで終わり。けど、守るって事はその先まで頑張るってこと。それがわかったから勝てたんだよ」

「僕も同じこと思いました」

「そっか」

 また、泣き出す。

「あいつらは?」

「殺さなかったよ。縛り付けてある」

「なんで……」

「翔君が殺さなかったんだから、殺せないよ。復讐はできたし」

「疲れたな~」

「じゃあ疲れがふっとぶおまじないをしてあげるよ」

「へ?」

 今度は僕がまぬけな声を出してしまった。

「目を瞑って」

 これは、あれですか、キスですか、ご褒美ですか!

「はやく!」

「はい!」

 思わず声が裏返ってしまった。

 顔が真っ赤になり、しばらく時間がたつ。

 心臓も激しく鼓動を打っている。

 そして次の瞬間、

「ふに~」

「あにふふんへふか!」

 ほっぺを引っ張られた。

 しかも可愛い擬音つきです。

「今、キスされるとおもったんでしょ。顔真っ赤だよ」

「……確かに、期待したけど」

 そりゃ、ないだろー。

 思わず空を仰いだ。

 もっとずっとしゃべっていたかった。

しかし、強制的にDROP OUTした。

「私も……」

 最後に何かいわれた気がしたが、聞き取ることができなかった。


* * *


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