僕の気持ち
2度寝して目が覚めるとメールが来ていた。
どうやら水野さんかららしい。
『今日の昼、屋上で』
僕は迷った。
正直顔をあわせることが怖かった。
信じたい、けれど信じることができない。
『わかりました』
そう文面をうったが、送信することはできなかった。
* * *
いつもよりすこし急ぎ気味で準備をして出発し、着いたのは予鈴と同時だった。
学校にきたら授業を受けるのが当たり前。
しかし、もちろん授業を受ける気にもならない。
やることといったらぼーっと外の雲を眺めることだけである。
2時間目が終わると優がこっちに来た。
「翔君、どないしたん?」
「……なぜに関西弁」
「なんとなく、だ。けど、ホントにどうしたんだよ。いつもは学校に余裕を持ってくるし、授業だって上の空じゃないか」
「まあな。ちょっと大きな悩みを抱えているだけだ」
「あ~、例の彼女関係か!」
「彼女じゃない。ただの友達!」
「それでどうしたの? 相談乗るよ」
「う~ん。……なんというかさー、説明が難しいんだよ」
一回整理しよう。
あの男が嘘をついていないとするとペア制度は存在しない。それは自分にとって大きな嘘をつかれたということになる。
PG内では神に願いを叶えてもらうために人々は頑張っている。だから人と組むということにあまり利点を見出せない。百歩譲って何かのイベントでペアを必要とすることがあるかもしれない。
けれど僕は教えてもらっていなかった。
はじめて町に来たときに7人しかいないという、つまり奇数というところに違和感を感じたのはそのためだったと、今なら考えられる。
ここからひとつの可能性が考えられる。
……水野さんは協力するふりをして、神に近づいたときに僕を殺し、願いを独り占めする、というものだ。
できればこの可能性を信じたくない。けれど、自然と考えてしまう。
だんだん自分が嫌になってくる。
「裏切られた……のかな」
「と、いいますと?」
優は茶化さず、真剣に聞いている。
「僕って結構普通というか平凡じゃん。そんな僕とあんなきれいな人が関わったのにはある理由があったわけだけど……」
「その理由に裏があって信じられなくなってしまった、と」
「そう、そんなかんじ」
「……その裏があったってのは本人に直接聞いたのか?」
「…………いや、聞いてない」
「じゃあなんでそう判断したの?」
「他の男がそういったときに否定しなかったんだよ。けど、その男をすっごく恨みを含んだ目で見てた。だから余計わけがわからなくなって……」
「今日は昼休みに会うの?」
「会おうってメール着たけど、正直迷ってる」
そこで、少しの沈黙があった。
「翔君はさ、何に迷ってるの?」
「何って、もちろん……」
会うこと、と間を空けて言った。
「そうかもしれない。けれど心の奥では違うことに迷ってるはず」
優のいっていることの意味が最初はわからなかった。
けれど数秒考えてすこしずつわかり始めてきた。
つまり、水野さんを信じるか信じないかで迷っているのだ。
「翔君にとって、あの人は何? 本当にただの友達なの?」
あの人は、どういう存在なのだろうか。
PG内での恩人。僕にとって手の届かない人。いつもお昼を一緒に食べてくれる優しい人。守ってもらっている人。いつか守りたい人。いつか、隣にたって、認めてもらいたい人。信じたい人。
……なんだ。答え、出てるじゃん。
…………好きな人。
そうか、知らない間に好きになっていたのか。
それに気がつかない僕って馬鹿だな。
「答えがでたようだね」
「あぁ。それもとびっきりのやつが、な」
「それはよかったよ。じゃあ次の授業をうけて、……しっかりやってこいよ」
背中をパーンと叩かれる。
「もちろん!」
暗い顔じゃなく、笑顔で言った。
* * *
キーンコーンカーンコーン
4時間目が終わって、僕はまっすぐ屋上に向かっていた。
そして屋上の扉を開ける。
空は曇っていた。
いつもの場所の水野さんは座っていた。
こっちを見て手招きをしてくれるので、それに従い、近寄っていく。
「こんにちは、神岡君」
「どうも」
隣に座る。
「……」
「……」
しばらく無言が続く。
どうしようか、と考えていたら、むこうから話を始めてきた。
「昨日は、本当にごめんなさい……。頭に血が上って、他のことがわからなくなったこともそうだし、やっぱり君をだましていたこと。怒ってるよね……」
今にも泣きそうな顔になっている。
「もちろん、すっごく怒っています。そうした理由を教えていただけますか」
信用してはいるけれど、やはり怒ってはいるんですよ、はい。
「そうだね。順番に説明していくよ。あいつらのことと、なぜ騙すことをしたのか、ということを。
……ちょっと、昔話をするね」
* * *