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PHANTOM GARDEN  作者: shinohihou
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そして、動き出す


 その後、座って休憩をしていたら、水野さんがやってきた。

「どう? できた? まだ、はやいか」

「できたけど?」

 できた僕、ドヤ顔。

「え……。ホント?」

「うん」

「もうあと2日くらいはかかると思っていたんだけどな。予想以上だよ、君は」

「ありがとう」

 ニコッと笑う水野さん。

 つられてわらう自分。

「じゃあ、見せてもらっていいかな?」

「もちろん!」

 待ってました、とばかりに翔は刀を握って立ち上がる。

 

 意志を強くする。そのために、心の中で念じる。

 斬れる。斬れる。斬れる。

 刀を振り上げる。

 そして45度に振り下ろすイメージをもって、振り下ろす。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 シャキン!

 そういって岩の上部分が斬れた。

「わあぉ。私は1週間くらいかかったんだけどな」

「それは素手だからじゃないの?」

「それもそっか。ところでこの数日で君は何を学べた? わかりやすく言うと、なにをしたから最初は斬れなかったものが斬れた?」

「主に2つ。ひとつは体力、とかかな。やっぱり、それまで刀など使ったことがなかったから刀をふる体力、体作りができていなかった。それを身につけたこと」

「うん。二つ目は?」

「意志の、そう、心の力。何をどうしたいか、それをはっきりと思い、唱えることで攻撃力があがっていた。」

「正解。合格だね。この修行では『心』、『体』を習得することが目標だった。あとひとつ、なにが足りないと思う?」

「技術。『心技体』の『技』でしょ?」

「これまた正解。今の修行では大雑把に岩を斬っていたけど、それだけじゃ狙いを定めることだできない。例えるなら弓で的を当てられても、真ん中にあてるのとそうでないとでは大きな違いがあるでしょ。つまりそういうことよ」

「ということは、これからは細かいものを斬るってことだね」

「うん。じゃあこっちにきて」

 そういわれてついていくと大きな丸い岩がずっと並んでいた。

「これ、何個あるの?」

「ざっと300個くらいかな」

「へ、へ~」

 え、なに?なにするの?斬れってか?

 すると心を見透かしたように水野さんが口を開いた。

「ただ斬るだけじゃないよ。岩の直径は1メートルくらい。そして、ここから10cm×10cmの正方形をつくって」

「わあぉ」

「ひとつの岩の球からひとつでいいから。一番いいやつ選んでね」

「つまり、合計300個つくりなさいと?」

「うん」

 にっこり笑う。

 けど、この笑顔は怖い。

 やらないと右ストレートが顔面にきそうである。

「どうやって10cmはかるの?」

「はい、定規」

 ……なんで、定規なんてもってるの(泣)

 これまた心を見透かしたように一言。

「買った」

 にっこり。


 ……ここまできたらやるしかないか。

「わかりました、がんばります」

「うん、頑張ってね」

 もう一度にっこり。

 最近気がつきました。

 ……この人、Sだな。

「なんかアドバイスないですか?」

「ない」

 まじか~。

「技術を高めるわけだからこればっかりはしょうがないよ。利き手の反対で漢字をいきなり書けって言われても、アドバイスのしようがないでしょ。それと同じ。まあ、どれくらい集中できるか、かな」

「ははは」

 乾いた笑いしかでなかった。


       * * *


 翌日、学校の授業中。

 眠たくはない。けど授業に集中もできない。

 昨日あの後、休憩して2時間ほどやってみたが、これがなかなか難しかった。

 岩はやはり硬いので、というか最初斬ったものより硬いので全力で振り下ろさなければいけない。そして目印をつけたところにピンポイントでなければならない。

 ただ、岩が大きい分、やり直しが何回もできるのでよい。

 といっても、4個しかつくれなかったわけだが……。

 このペースじゃ何日かかるんだろうな……。


 まあ、授業に集中しようがしまいが時はすぎていくものである。

 あっという間に昼休み。



「こんにちは、神岡くん」

「どうも」

 そういって、屋上で待っていた水野さんのとなりに座る。

「そんなに落ち込まなくてもいいよ。十分はやいペースなんだから」

「そうはいっても、4個しかできなかったし」

「大丈夫。全部できたらすばらしいことできるようになってるから」

「え! まじで?」

「うん。きっと」

 よし、やる気がでてきた!



 あと、楽しい時間もあっという間にすぎるよね(泣)


       * * *


 目が覚めると、岩の前。

 できれば、水野さんの前がよかったです、はい。

「すばらしいことか。なんだろうな、なんだろうな」

 自分で、子供みたいだ、と思うほどひとりではしゃぐ。

 ただ、こうやって言うことでやる気が出るのも事実。

「よし、やるぞ!」



 その後もがんばりました。そりゃあもう来る日も来る日もキンキンカンカン。だって、コツないからひたすら頑張るしかないでしょ?



 なんやかんやで、その日は20個。

 次の日で60個。

 その次の日は100個。

 と、おもったら次の日は80個。

 そしてこの修行6日目に300個を斬り終わった。

「よっしゃーー!」

 叫んでばたんと寝転がった。

「おつかれだね」

「そりゃあもう目印つけて斬って失敗して、の繰り返しなんだもん。根性でやりきった感満々です!」

「じゃあ、いきなりすばらしいことやってみる?」

「疲れてるけど、……もちろん!」

 テンションMAXですから!

 今ならなんだってできる、そんな気がする!


 水野さんはまた別の岩の前に僕をつれていった。

 そして岩の前3メートルほどのところに立たせた。

 この距離では明らかに刀が届かない。

「この距離で斬ってみなさい」

「無理です」

「やりなさい」

「だって遠すぎでしょ?」

「いけるよ」

「刀とどきませんよ?」

「うん」

 話が、通じていない。

「神岡君、PGで大切なことは何?」

「心技体、でしょ」

「そう。この距離では技も体も関係ないよね。だから……」

「心の力で斬るってこと、ですか?」

「わかったんならやってみなさい。イメージ、イメージ!」


 ここはPG。現実世界とは違うんだ。

 そう心に念じて目を閉じ、刀を納める。

 斬れる、斬れる、僕は斬れる。イメージは……風圧、かな。


 刀を握る手に力を入れる。

 昔テレビで見た居合いの格好をする。

 

「…………ふぅ…………はっっ!」

シュン、と刀が風を斬る。

目を開けた先の岩は、……斬れていた。

「まじ?」

「うん。それが、心の力、心力の第2段階、思力。今、風とかイメージした?」

「風圧で斬る、みたいなかんじ」

「そう、考えたことを実際の現象にする。やっぱりセンスあるね」

「……ありがとうございます」

「この風圧の使い方わかる?」

「刀の距離を伸ばす、ってかんじ」

「うん。それだけじゃなくて、最初はのばさず、あとからのばしてダメージを与える、みたいにね」

「なるほど」

「ここでいい情報です! これにて君の修行は終わりです! うれしい?」

 パーンとどこから出したのかクラッカーを鳴らす。

「うれしい! まじうれしい!」

「……なんかショック」

「ご、ごめんなさい。けれど、ありがとうございました!」

「うん。じゃあ本格的に神攻略といきましょうか!」

「はい、水野さん」

「だけど、今日はもう時間終わりだし、町にもどろうか」

「は~い」



 修行がおわり、これからもっと楽しい時間が過ぎると思っていた。

 けれど、世の中そうそううまくはいかない。

僕はまだ、このあと起きることを知らなかった。


       * * *


ピピピピピーーーーー


 今日は目覚まし時計のチャイムを止める気にならなかった。

 目が覚めて最初に考えたことは昨日の状況。

「学校、さぼりたいな~」

 ボソッとつぶやく。

 僕は一人暮らし。さぼっても誰にも怒られない。

 時間に余裕はあったのでもう一度目を閉じた。

 するとあの後の光景が浮かんできた。


       * * *


 町に戻ってふたりでぶらぶらしていた。

 他愛のない会話をし、一緒に歩き、すごく幸せな瞬間だった。

 あるとき、水野さんは急にとまった。そして目がある人を一直線に向かっていた。

 とまっていたというよりフリーズしていたという表現のほうが正しかった。

 その時間は一瞬のはずだったのにすごく長く感じられた。

 フリーズが解けると水野さんは視線の先にいる男女の1ペアにむかって走り出し、咆哮をあげていた。

 何が起こったかわからない僕は動くことができない。

 水野さんは男に右ストレートをはなっていた。

 しかしそれはいとも簡単にかわされてしまい、その勢いで奥にある小屋に突っ込んでしまった。

 僕は駆け寄っていった。

 しかし、男に蹴りをもらい、数メートルとばされた。

「お前……は、誰……だ?」

 なんとか言葉をつむぎだした。

「お前こそ誰だよ? ましてそこの女なんて何にもしてないのにいきなり殴ってきやがったじゃないか。聞きたいのはこっちだぜ、まったく」

 息を吸い、立ち上がる。

「隣の女はペアなのか?」

「は? なんだよペアって。そんなもん知らないぜ。今はただ利害が一致して一緒に行動しているだけだ」

 どういう……こと?

 わけがわからない。

 わかりたくもない。


 水野さんを見ると、涙を目に浮かべて、しかし目線はこちらではなく、男にまっすぐ向かっていた。


 怖い。

 まただまされるのはいやだ。

 何か言ってよ、水野さん。

 お前こそ何言ってるんだ、ってその男に言ってください。

 なぜ、どうして!


 これらの言葉は口から出ず、心の中に響いた。

 何かを言いたかった。

 けれど、なにも言えず。

 数秒後、7時間経過し、強制DROP OUTした。


       * * *


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