~始まり~
僕、神岡翔は神を信じていない。
世界にはいろいろな信仰があり、人の思想も自由だ。否定はしない。ただ、神を信じ、毎日のように感謝の御祈りをする人がいるように、その逆、つまり、毎日神の存在に興味がなく、そもそもいないと思っている人もいる。。
僕のように。
* * *
「新入生、入学おめでとう。」
今日は私立渚高校の入学式である。今日から僕も高校生であるわけだが、さして何かに期待するわけでもなく、むしろ今すぐ帰りたい気分である。
なぜ、校長の話はこんなにも長いのか、という誰もが思う事を考えながら周りを見渡すと眼鏡をかけたいかにも勉強ができそうなやつから髪を赤く染めている不良的なやつもいる。
はたまた、周りの人に気さくに話しかけるムードメーカーだろう人もいる。自分はどう思われているのか、気にならないわけではないがまあ目立たないように生活しようと心に決めて、長い校長の話を聞いていた。
入学式がおわると各ホームルーム教室に行き、担任からあいさつと注意事項、その他もろもろを話され今日は解散になった。
さっさと帰ろうとすると、1人の男が声をかけてきた。
「やあ、翔君!同じクラスなんて嬉しいよ。暗い顔しないで楽しくいこうぜ、楽しく。ここには中学、小学の同級生は他にいないんだしさ。」
大声で話しかけてきたのは小学校からの腐れ縁である、杉下優である。
そんな大きな声で話したら目立つだろ、と心のなかで思いながら知らん顔するわけにもいかないので、一緒に帰ろう、と提案し、ひとまず教室をでた。
「とりあえず、クラスのやつらには伏せて置くんだろ?お前の親に何があったか。まあ、それが広まったせいで小、中と大変だったわけだしな。」
「あ、あぁ。まあな。」
小学生の頃は何でもない家族だった。ただ途中から家族がふたり減ってしまった。なぜいなくなったのか、僕には記憶がない。姉や親族に聞いても何も教えてもらえない。自分だけ除け者にされている焦燥感、親がいない理由を何事もなく聞いてくる同級生による苛立ち。そして、イジメを受けた。
イジメというものには2種類ある。直接肉体的に“コロス”ものと、精神的に“コロス”ものである。僕は後者を受けた。
原因がなかったわけではない。親を無くしたショックから誰とも話したくなくなった。だけど誰かに話しかけてほしかった。誰かにわかってもらいたかった。誰かに、認めてもらいたかった。
そんなとき優だけが飽きずに話しかけてくれた。返事はしなかった。
しかし少しずつ笑うことができるようになり、優とだけなら話せた。中学生になりイジメは減った。この頃には心の整理ができたので必要最低限の会話をしていたからだ。
同時にこのような運命にした神の存在を否定した。いたのならもう少しましな人生をくれるだろうと考えた。
「てか、姉さんはどうしたんだよ。今年から大学だろ?」
「1人暮らしなんだよ。バイトと掛け持ちらしいから大変だろうな。」
雑談しながら帰るのも久しぶりだな、と思いつつ途中で別れた。