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解き放たれる瞬間

試験前日、「僕」はとんでもない体験をする。そうして迎えた試験当日、僕は・・・。

入試前日、僕は父親と大喧嘩をした。理由は自分の進路に付いて、本気で考えているのか、W大学の願書提出は明日が期限だったが僕はW大学の願書を書けなかった。理由は課題にあった小論文のテーマを深く考え過ぎてしまい、チャッチャと書き上げられなかったのだ。その事と他にも普段だらしない僕の姿を見て父はいつも苦い顔をしていたその鬱憤が爆発したのだった。

 大喧嘩は夜中の四時迄続いた。僕は早く眠りたかったが父親の言う事が許せなかったので(中身はもう忘れた)それに必死に答えていたのだ。父親は僕が翌朝にはK大学の入試がある事を知らなかったので、思いっきり僕を罵倒して、僕は牙を向いていた。終わり際、やっとK大学の入試が翌朝にある事を告げて、すると父親はびっくりしていた。早く寝ろ、となって一時間だけ眠った。

 



 ・・・そして殆ど眠れずに始発に乗って船橋で総武快速に、錦糸町で総武緩行線に、御茶ノ水で中央特快に乗り換えて八王子に向った。この間の時間が長い長い。しかし僕はとてつもない集中力を発揮して参考書にある英語をほぼ全てマスターしてしまった。頭の中に殆どをインプットしたのだ。これは今でも忘れられない。こんなに集中をした体験など過去にも、十年過ぎた今でも全く無いのだから。そして八王子に到着してバスに乗り、そのバスも前回間違えて乗ったのだが今回は間違えなかった。バスに揺られる事一時間。K大学に到着した。・・・すると急に僕のお腹がゴロゴロと言い出した。思い出したのは昨夜親父と喧嘩をした時に僕は勢

いを付ける為、お酒を少し飲んでいた。しかもリザーブか何かをロックで飲んだのだ。ホッとしたのか、急にお腹が動き出してすぐにトイレに向かった。案の定下っていたのでさぁ、大変だった。しかしそんな時も英語の参考書を片手にジッとトイレに座りながら眺めていた。

 そして試験開始。質問も英文で回答も英文だ。ひゃー。今ではまともにとても読めやしないだろうに。でも不思議と読めてしまったのだ。日本語のように・・・参考書が全てインプットされていたのでどこが引っ掛けで、どこが問題点なのか、すぐに把握出来た。不思議な感覚だった。そしてよくよく見ると選択問題ばかりだったのがラッキーで、筆記は少なかった。何だかスラスラと解いてしまい、次いで面接。これも英語での面接だがその後に日本語で訳をしなければならない。一緒に面接をしたのは女の子で随分アバタだった。顔はもう28にもなり、私は忘れたがアバタだけは覚えている。あと、横浜から来た、という事、何だかお嬢様っぽかった事、横浜というこちらの勝手なイメージで、なぜかお嬢様に見えたのでそれも不思議だった。違う世界の人に見えたような気がした。で、まぁ、スラスラ英語で話す彼女。ホームスティもしたとかしなかったとか。そりゃ有利だ。

「この女の子は間違いなく受かるだろうなぁ。いいなぁ。俺も英語喋りたい・・・。」

そう思った。それに比較してこっちはどうだ?。ホームスティも無いし、相手をしていたのは上野の乞食とアルバイトで知り合ったオバちゃんばかりだ。スマートさなど何一つ無い。ばた臭さしかない。一番困ったのは入学の目的は?、といきなり外国の講師に日本語で聞かれて、ビクッ、としながら、全く目的など考えてもいなかったので、まさか、日程が丁度良かったからなど言える訳も無く、一応は、頭の片隅に考えていた答えを出した。最初英語で答えた。喋ってるじゃん、えっ、嘘じゃねぇか?、自分で自分を疑った。どんな事を喋っていたかといえば、

「私は将来、文章関係の仕事に就ければいいと考えております。その為には正しい日本語をマスターし、人に伝えられる能力が必要不可欠です。その為貴校を志望しました。」

という事だったような気がする。頭にスイッチがポチッ、と押されたような感覚だった。そのまま日本語に訳して日本人の講師に訴えるような雰囲気で伝えた。するとその日本人の講師であるおばちゃんは、

「だったらうちじゃなくてもいいじゃない。」

と言われ、僕は凍り付いた。そっ、そんな、ごむたいな・・・。暫くダラダラ冷や汗脂汗を流した僕は苦しまみれに、

「確かに仰る通りですね。しかし僕は今日改めて実感しました。やっぱりここで良かったと。」

思い付いた言葉をそのまま日本語で必死に答えた。脂汗ダラダラ状態だった。

一瞬怪訝な顔をしたそのおばちゃんは、静かに・・・

「それは?。」

いや〜な質問だ。僕は思わずそこで眼に映ったのは、白い校舎と秋の終わりを告げる穏やかな緑だった。そして道に迷いながら学校見学に行った事も走馬燈のように頭に走った。

(0.2秒東京大学物語風に・・・)

「えぇ。この美しい校舎、静かな環境、この緑に囲まれた穏やかで澄んだ空気はここでないと出せません。僕の今迄の住んでいた世界とは全く違うので………。」

そこで言葉に詰ったがそれを知られないフリをした。するとおばちゃんは表情が変わって、

「分かったわ。」

そう言ってこの日本人の講師は外国の講師に英語で何やらペラペラ喋っている。そうすると、外国の講師は、笑顔で、

「オォー、イエェース、グゥート。」

と頷いた。僕はある程度は予測はしていたが、本当にたじろいでしまった自分に、もう視界はチリヂリに乱れ、足はガクガクに震えてしまい、どうにもならなかった。


 そしてそれなりの世間話を終えて、試験終了。

帰りの道、僕はそのアバタの子と何も話をする事も出来なかった。みっともない姿を見られたので、彼女の前を歩いてただ黙々とバス停に向った。僕は一気に緊張が解けてしまい、帰りの電車ではグテェーとしてしまった。学校にも寄らず、そのまま家に帰ろうとしたが一応、予備校に立ち寄り、また赤本を解いていた。けれどももう、僕は英語を喋れなくなっている自分に気が付いて・・・。


 ハッ・・・とした。


 お腹がゴロゴロと鳴り出した・・・。また、ハッ・・・とした。電車の中だ・・・。そんな事を何度も繰り返して漸く家に辿り着いた・・・。滅茶苦茶な一日だった。



 

それから・・・


このK大学の合格発表がある迄の間、僕は針のムシロ状態だった。何しろ予定をしていたW大

学の文章を書き上げる事が出来ないままで消印の日を過ぎてしまい、とうとうこの時点でW大学の推薦入試の権利を失ったのだ。と、なるともう僕にはあとはTY大学の推薦入試しか残っていない。後は一般入試で頑張る為にずっと勉強しなければならない。浪人は出来ないから、T大学に行くのか、それは望まないぞー、と思っていた。



 そしてK大学の合格発表日………。



 職員室に僕は呼び出された………。



「お前、受かったぞ。」

と先生は言う。僕は自分の耳を疑った。とっさに先生へ早退願の旨を伝えた。

「合格発表を八王子迄見に行かせて下さい。」

僕は堪らず、そう答えた。僕はこの針のムシロみたいな生活からは早く脱却したかった。合格通知を見たら少しでも脱却出来るのでは、と思った。

「お前、受かったんだろう。いちいち見に行く必要なんてねぇじゃねぇか。」

担任の先生はそう言う。そりゃそうだ。無駄な事だから。

「本当かどうか、見に行きたいのです。」

「こっちが騙したとでも言うのか?。」

面倒な事をしたがる僕の心境を理解出来なかったみたいだ。

「いえ、そうでは無くて、自分の眼で見たいのです。」

僕は先生の前でブルブルと震えながらそう答えた。先生は僕の柔道の先生だ。だから力でも逆らえない。

「それが疑っている、って言うんだよ。」

苛々しながら先生はそう続けた。しかし僕はオドオドしながら、

「だから違います。自分で確認したいのです。」

そう必死の形相で応えると、

「………、分かった。いいだろう。ったく、後で校長先生に俺が絞られるんだからな。分かっているのか?。」

先生は何だかただならぬ気配を感じたようで、そう答えた。

「はい、済みません。」

僕は一礼した。

「いいよ、行って来い。」

「有難うございます。」

僕はまた一礼をしてすぐに職員室を出た。緊張したのだろう。そしてイソイソと八王子に向った。


八王子はやけに曇っていた。バスは一時間に一度しか来ない。近くのS大学は二十分に一本バスが来るのに………。西東京バス、どうなっているんだ?。少し肌寒くなり、僕と僕の後ろに並んだブレザー姿の女の子二人がポツン、と残った。当時は煙草も吸っていなかったので、しかもいつもバックに入れているSの全集もこの日は忘れた。何もする事無く一時間を過してようやくバスが来た。この女の子の顔は妙に覚えている。ちょっと可愛らしい女の子で、ショートカットで色白で背の小さな女の子だった。髪の毛は真っ黒で眼は小さい。けれども顔全体がよく整っている。強いて上げれば、モデルのHanaに似ている感じの女の子だった。(そんなには似ていないけど)この子はとても不安そうにしていたが、僕はウキウキしている。もう結果が分かっているんだから。けれども何だか声も掛けられなくて、そのままバスに乗っかった。

 そしてバスの中で僕はアングリ口を開けて眠ってしまい、涎も垂らしたようだった。学ランに涎の跡が残ったのに起きた後気が付いた。合格発表のある掲示板に行き、僕は自分の合格番号を確認した。何度も何度も受験票と照らし合わせた。そして四回目位でようやく本当だと気が付き、僕は思わずガッツポーズを取った。これで受験勉強ともオサラバだ!!。

 しかし気が付くと、さっきの女の子は、何だか浮かない顔をしている。

 僕はピィーンと来た。………落ちたんだ。しかも違う学部の掲示板の前で項垂れている。僕はちょっと………何とも言えない気分になった。しかしまぁ、合格した事は嬉しい事だ。僕は思わず、

「真知子、やったぞ。」

と呟いた。彼女の家に電話をしようかと電話ボックスに入ったが………。もう終わりなんだ、これで………。僕の心は完全に真知子から離れた瞬間だった。

 そして帰りのバス。………先程の女の子も一緒で、しかし僕はちょっと、複雑な気持ちになっていた。そのまま、何だか言葉に出せない気持ちのままで千葉の方向へ帰った。そして予備校に立ち寄り、もう来ない旨を伝え、そのまま家に帰った。

 翌日、学校へ行くと大騒ぎだった。………何しろ進学コースではない僕が、しかも今回は英語だけの力で、はるかにレベルアップした大学に合格をしてしまったのだから。まぐれでも合格は合格だ。皆、僕の力を認めざる得なかった。特に悔しかっただろう、と思われるのは、進学コースの担任で、僕に色々嫌味を言ったりした例の先生だ。もう彼も何も言えなくなっていた。業者テスト学校一位の僕を、ムザムザ進学コースから、私念だけで外した事を僕は思いっ切り後悔させた瞬間だった。


 ………それから卒業する迄、色々起きた。

合格し、これからルンルンの生活が待っている、にも関らず何だか浮かない「僕」。これからどうなるのかまず、真知子との関係だ。それがどうなるのか、今後に出て来ます。

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