真知子と...
真知子との事です。もう終わり掛けた恋なんて、追いかけても仕方無い。
色々あった卒業迄の時間………。
まずは、真知子と正式にお別れをした事だ。もうお互い連絡を取らなくなってしまい、僕も真知子などどうでもいい、それより大学生活をどう楽しむのか、そればかりを考えていた頃に真知子から、わざわざ手紙をよこしてきた。
「もうお会いする事は出来ません、本当に申し訳ございませんでした。」
だとさ………。こっちも連絡など取る気は全く無かったが、一応真知子の事は気にしてはいた。しかしまぁ、最後くらいはお互いちゃんと話をして終わりにしたかった。僕は真知子に渡した色々な物が郵送で返ってきたのを一つ一つ確認して、すぐにゴミ箱に捨てた。そして部屋に戻って、ミスターチルドレンの『Allbymyself』を部屋中にガンガンに鳴らして、少しだけ泣いた。何もする事の出来ない情け無い自分の無力さを改めて感じた。
そんなある日、僕は柔道部の同級生と学校帰りにアメ横の屋台でラーメンを食べた。所詮は屋台のラーメンだからそんなに美味しくはなかったが………。そしてお互い満腹になったので帰ろうかと思って路地裏のその店から振り向いたら、ちょっと日焼けしたどう見ても“コギャル”っぽい女の子二人に声を掛けられた。前にいるパーマを掛けた女の子が、
「あのう、アタシ達楽しく遊べる所を探しているんですけどぉ。」
そして後ろの女の子が、
「どこか連れてってくれません?。」
と、続け様に声を掛けてきた。僕達二人は顔を見合わせて、
「はぁ、でもそんなに楽しい遊び場なんて俺ら知らないけれども。」
そうすると、
「いいんです。どこか私達だけになれる所に連れてって下さい。」
僕らはもう一度顔を見合わせて、
「そうか、じゃあ、取敢えずカラオケにでも行く?。」
そしてお互い合流した。正直僕らはびっくりした。いきなりの逆ナンパだったので、どうしたらいいのか、正直判らなかった。僕は普通に自己紹介をしたら、友達は、
「こいつ、もう大学に合格してやがるの、しかも二つも。だから今余裕なんだよな。」
と、舞い上がったように言ってきた。僕も少しだけ失恋?の憂さ晴らしのつもりでバカのようにはしゃいだフリをしていた。しかし心は陰鬱だった。そしてお互い柔道部員で筋トレの話がどうだとか、そんな話で盛り上がりながらラーメンを食べていた、という事などを話をした。
………そう言えば前にもこんな事があったな、満員電車の中でいきなり有名女子高の女の子が僕に近付いてきて、僕の手を握り、何かをしようとしていたが駅に到着すると、僕は急な出来事で恐ろしくなり、人の波に飲まれるようにしてその女の子から離れると、その女の子は近付いてきたが僕は知らん振りして、一言だけ、
「大丈夫ですか?。」
と、声を掛けた。するとその女の子は顔を赤らめてすぐに離れていった。僕はそのまま放っておいた。そんな事を思い出しながら近くのカラオケボックスに向かった。そして薄暗い部屋に入り、取敢えず一曲、ミスチルの曲を歌い始めたら、突然その女の子達は勝手に出て行った………。僕ら二人はそのまま、取り残された………。確かに部屋に入ると変な風に沈黙し始めたので何だかオカシナ雰囲気になったな、そう思った矢先だった………。
カラオケボックスに取り残された男二人………。変に盛り上がってしまい、ヤケクソになって二人で当時再放送して流行っていた、『シティーハンター』の曲を大声で二人で歌って二人で声を涸らした。外は何時の間にかいいお天気から、鉛色の空に変わっていた………。僕らは二人で、虚しい気持ちになって、何も喋らずにそのまま別々の家路に就いた。
その後、クリスマスのイルミネーション光る頃に地元で僕は真知子に偶然会ってしまった。
「久し振りだな。」
僕は堪らず声を掛けた。真知子はビクッとした表情でこちらを向いた。
「………はい。」
見ると真知子は前髪を垂らしていた。僕はその髪型に気が付いて、
「その髪型、………まぁ、いいんじゃねぇか?。」
真知子は俯いたままだった。
「………。」
僕はちょっとその表情に苛立ちを隠せずに、
「何か言わねぇのか?。」
すると少し、キッ、とした表情で、
「………大学、合格したの?。」
とだけ聴いて来た。僕は、
「一応な。もう自由だ。来年から八王子だよ。」
僕はそう言いながら、そうだった、何もその事を話してはいなかったんだ、そう思った。二人の離れすぎた距離をこんな所で感じた。
「そう………。」
するとそのまま、お互い変な沈黙が包んだ。たったの数秒だけれども、とてつもなく長い時間のように感じられた。仕方ナシに、
「まぁ、俺のどこがどうなのか、なんてよ、もういいから、どうでも良かったし。すまんな、期待に応えられなくて………。」
そう吐き捨てるように呟くと、
「違う………。それは違う。」
僕は心の中で、じゃあ、なんなんだ?、そう思って思わず真知子を逆に睨みそうになったがその表情を隠す為に口に手を当てて、
「そっか。まぁ、ちょっと安心したわ、今ので………。」
そう言って、またお互い少しだけ黙ってしまった。また、沈黙に耐えられずに、
「待ち合わせ?。」
僕は呟いた。
「………。」
すると真知子は俯きながらそうだ、という意味を表すように首を縦に振った。
「あっ、そっか。………なんて言うか、まっ、オシアワセニ。」
僕は吐き捨てるように言って、そのまま真知子に背を向けてその場から立ち去った。ベンチに座っている真知子は去って行った僕を見て、項垂れてしまった。泣いているようだった。けれども僕はもう、振り向かない。肌寒い十二月、鉛色の空、僕は白い息を吐いて深く溜息を付く。
………それからはもう、僕は真知子の事は努めて忘れるようにした。キスしようとして、オデコにした事も………。
一人、寂しいクリスマスをアルバイト先で迎えて、僕は心の中でいつも誰かに叫んでいた。
「何だ、この・・・虚しさはぁ。」
所詮、人間は一人ぼっちなのか?、そんな事を改めて思ったりして分厚い哲学書なんかを読んだりしていた。しかしの哲学書だって金が無いと買えない。結局何事も金の切れ目が縁の切れ目なのか?、そう思うとますます虚しくなってしまった。そうじゃない、そんな事無い、そう呟くもう一人の自分と向き合いながら………。
そうしてやっていたのはアルバイト、やっぱり僕は何かをやっていないと生きていけないみたいだ。
学校では僕に僻みの嵐だった。僕は苦しくてまた、学校を休むようになっていた。もう、その事も努めて忘れているので、今の私は忘れてしまった。だからアルバイトに専念しようと思った。
久々のアルバイトは工場でのアルバイトだった。そこでもちょっと可愛らしい女の子と仲が良くなったが何もお互いに言えずにたじろいだままだった。外国人労働者が僕らをくっつけようと色々としていたがけっきょくお互いにシャイな二人は何も出来ずに終わってしった………。
で、年も明け、2学期(僕の高校は2学期制で、所謂3学期の終わり、受験シーズンに入ると2学期が終わるのだ)も終わりを告げて学校に行かなくても良くなった。僕は解放されたみたいに、アルバイトに奔走した。理由は一人暮らし資金を自分で溜める為。
まず、テレアポのアルバイト。家庭教師派遣のテレアポだがタウンページとどこからか入手した怪しい卒業名簿を「あ」から「ん」迄、地域割り振りで徹底的に電話をする。朝の十時から夕方の六時迄。狂ったように電話を掛け捲る。最初の1ヶ月は週3日でこれを続けた。僕はそんな詐欺まがいのアルバイトに嫌気が差していた。そんな時に某新卒採用支援雑誌の編集のアルバイトで、原稿集配の役割だった。フロムエーを毎週二百円出して買って、何かいいアルバイトはないか、そんな風に探していた時に、フッ、と目に飛び込んだのが、
「スーツを着て、企業の人事担当者と打ち合わせ!!」
と大きく書いてある広告だった。ただ、年齢制限があり、18歳〜25歳迄、大学生歓迎。とありまた、高校生不可、とあった。つまり僕は無理なのだ。しかし駄目モトで電話をして(テレアポのアルバイトのお陰で度胸が座った)18歳である事だけを伝え、面接にこぎつけた。
何でこのアルバイトを選んだのか?。それはスーツを着たかったから、単純にそれだけだった。スーツ・・・学ランだった僕の高校ではブレザーでは無いのでネクタイの概念すらなかった。でも、大学の入学式では必須アイテムだし、どうせ買うならばいいヤツを買いたい、とアメ横で10万するスーツを即金で買った。親からの大学合格記念で、唯一許された買い物だったのだ。11年経った今もちゃんと着れるスーツなので本当にいいスーツだったと今の私は思っている。黒に少しラインの入った形で、所謂“ケン襟”のちょっとかっこいいスーツだ。僕はそのスーツを単純に着こなしていたかった。
よく、スーツを肩で着る、という表現があるが、あの野暮ったいスーツ姿を当時の僕は好きにはなれなかった。どうせ今迄未開発だった、おしゃれの中の、スーツ、は、ちゃんと着こなした状態で大学の入学式を迎えたかったのだ。
で・・・ドキドキしながら面接に挑んだら・・・。
受かってしまった!!。履歴書には“K大学入学予定”と書いただけだった。
そして僕は掛け持ちでアルバイトをするようになったのだが結局テレアポのアルバイトはその内ズル休みをするようになり、クビを言い渡された。最後は恫喝ばかりの毎日で、テレアポから営業のアルバイトに変われ、そしてお前が飛び込みで営業をやれ、とまで言われ、出勤する度に営業のロールプレイの連続で、その度に誹謗中傷をされたので本当に苦しくなっていた。なんで一介のアルバイトの俺がここ迄言われなきゃいけないんだ、冗談じゃない、こんな詐欺の片棒を担ぐような真似俺には例えどう否定されても出来る訳ねぇじゃねぇか、最後に辞める日にそんな事をボソッ、と呟いたら大口論に発展してしまった。………でも、お給料はちゃんと働いた分だけ貰った。
そして・・・ここ(スーツの着れるアルバイト)ではまた色々な体験をした。
廻りは皆大学生か卒業生ばかりで僕の目には“大人”に見えた。中には慶応や法政、早稲田大の人もいた。皆優秀な人ばかりだった。その中で偏差値四十台の高校生の僕はとてもではないが………。しかしそんな僕を皆、歓迎してくれた。採用を決めた課長サンは、働き始めの初日に何故、僕を雇ったかを訊ねた所、
「お前、俺がやる気はあるか?、と質問した時、“はい、あります”って答えただろう。だから採用したんだよ。高校生だって事位はすぐに分かっていたさ。でもまぁ、やる気のない奴よりはマシだと思ったんだ。」
との事。それからはそこで色々な体験をさせて貰った。
まずはネクタイの締め方、スーツの着こなし方。それからコピーの取り方、お茶出しの仕方、編集・校正記号を覚える事、パソコンをいじくる事。MacとWindows、どっちが優れているか、インターネットって何か?、という内部の事や人事課の人とお話をして色々と学んだ事や締切りに間に合わせる事の達成感、逆に間に合わなかった時の絶望感………などなど。その中で僕は唯一の高校生として。
また、某八丁堀の大企業に定刻迄に原稿を届けなければいけない事を課長さんはじめ、その場の皆が忘れていたので、残り二十分で飯田橋から八丁堀迄移動してその会社に間に合わせなければクレームになる、過去にも一度その会社にはクレーム騒ぎがあったので、大変な事になるから、と皆が大騒ぎしている時に、僕が、
「判りました。急いで、全速力で走って行きます。必ず届けますから。」
と、まだ足には自信があったのでそう言って、ギリギリで間に合わせた、なんて事があったので、それ以来、高校生だから、という事ではナシに、急ぎの仕事に関しては随分と振られるようになった。また、面倒なお客様の対応も、随分と振られて対応をちゃんとしたので一応の信頼を得る事も出来た。
だから、仕事をする事が楽しくなった。元々地下鉄には詳しかったがその乗り継ぎテクも更にそこで磨きが掛かった。そんなプチ知識が大いに役に立つような職場だったのだ。僕は毎日ニコニコしながら仕事をしていた。そんな僕の仕事以外では人間関係が課題だった。そこで僕は真知子と何故別れたのか、よく分かった。
………僕が未熟だったのだ。その事を人生の先輩たる大学生の皆様は細かく教えてくれた。女心をちっとも分かってはいなかったし、いい加減だった。その時にようやくそれが確信となったのだ。また、文学に生きる人との文学論争というまさに“青春”そのものだった。朝迄文学論争で明け暮れたり、年上の人とのつながりを維持する為に必死になった事や集団だから、若さだから起きるホレタハレタ云々………。
真知子との別れを皮切りにアルバイトに奔走する「僕」はそこで社会を知った。




