真実の糸 1
「アリナさんのしあわせを願って」
女性スタッフが、結婚式場のとびらをいきおいよく開けます。
その瞬間、ステンドグラスの七色の輝きと教会のように神秘的な白い内装が、わたしの目に飛びこんできました。
「アリナちゃん、おめでとー」
「おしあわせにー」
たくさんの列席者のお祝いの言葉をあびながら、わたしは父親役の大門マスターと、うでを組んで人間の先生が待つ聖壇に歩きはじめました。
……純白のウェディングドレスに身をつつんで。
そう。そうなのです。
なにを隠そう今日は――。
わたしと先生の結婚式の日なのです!
ああ、この日がくることをどれだけ願い、そして待ったことでしょう。
わたしと先生は、夫婦という名のもとに、ついに本当の意味で家族になることができたのです。
わたしとマスターは歩幅を合わせながら、バージンロードとよばれる青いじゅうたんがしかれた道を、ゆっくりと歩きました。
父親にまもられて育ってきた新婦が、これからは新郎とともにあたらしい人生を歩んでいく。
新婦と父親が一緒にバージンロードを歩いて新郎のもとへ向かうのには、そんな意味がこめられているのです。
「アリナちゃん、おめでとー」
「ウェディングドレス、すごく似合ってるよー」
式場に流れる『結婚行進曲』に負けじと、たくさんの列席者が大声で、お祝いの言葉をかけてくれます。
「あーりん、おめでとー」
「ソウマさんと、いつまでもおしあわせにー」
ハルカさん、ユリさん、ありがとうございます。
わたし、絶対にしあわせになりますからね。
「アリナちゃん、おめでとう!」
あ、常連客の米田さん。ありがとうございます。
「今度、お祝いがてら、家族全員で『め~め~めふぃすと』に行くからね」
はい。みなさんがくるのを、よろこんでお待ちしています。
「うう……ううう……」
お祝いの言葉に感極まったマスターが、泣きはじめてしまいました。
もう、マスター。うれしいのはわかりますけど、お祝いの席なんですから、泣かないでくださいよ。
それに……あなたに泣かれたら、こっちまで泣きそうになっちゃうじゃないですか。
お店の常連さん、クラスメイト、そして50体以上もいるウサギのぬいぐるみ。
みんなのやさしい想いと言葉をシャワーのように浴びながら、わたしたちは真っ白なタキシードを着た先生のもとにたどりつきました。
いよいよです。
いよいよ、わたしと先生の愛を神さまに誓うときがきたのです。
「きれいだよ、アリナくん」
そういって、先生はわたしのとなりに並びました。
――わたし、本当に先生と家族になるんだ。
――とうとう夢がかなうんだ。
そのうれしさで体がふるえます。
「だいじょうぶ、ぼくがそばにいるよ」
先生が、わたしの手を握ります。
ウェディンググローブ越しに絡むふたりの指。
その指をとおして、どんなことがあってもわたしのそばをはなれないという、先生のつよいやさしさが流れこんできます。
そのやさしさのおかげで、キュンキュンとしたときめきが胸に芽生えてしまい、ふるえはおさまるどころか、さらに大きくなってしまいました。
★ ★ ★ ★
愛の誓いは、まず新郎から。
しずまりかえった式場に牧師さんの声がひびきます。
「岩根タクミ、あなたは日向アリナを妻とし、夫として生涯、愛と忠実をつくすことを誓いますか?」
ん? 岩根タクミ?
「ちょっと、牧師さん!」
わたしはあわてて、口をはさみました。
「こんなときにふざけるのはよしてください。わたしが結婚するのはタクミくんじゃなくて先生です」
「いや、おまえと結婚するのは、おれだよ」
耳元で聞こえるタクミくんの声。
それが気になり、となりを見ると……。
「え……ええええええ!?」
なんと、わたしのとなりにいるのはタキシードを着たタクミくん。
いつのまにか、先生がタクミくんと入れ替わっていたのです。
「ウソウソウソ。なんでタクミくんが――」
「牧師さん。おれ、アリナをしあわせにする。神さまに誓うぜ」
「勝手に誓わないでください! わたしが結婚するのはあなたじゃなくて先生です」
そのとき、式場のうしろから、
「その愛の誓い、待った」
とびらをバーンと開けたのは、背が高くて、女の子のようにうつくしい顔をした美少年。
それはまさしく、わたしの愛する月読ソウマ先生でした。
列席者みんながざわめくなか、先生はバージンロードを歩いて、わたしのもとにやってきました。
「先生、誤解です。わたしが愛しているのは――」
「岩根タクミ。ぼくと勝負だ」
先生はわたしの言葉も聞かず、タクミくんにいいました。
「アリナくんにふさわしい男はどちらか。それを勝負で決めようじゃないか」
「ちょっと先生、なにをいって――」
「いいぜ。その勝負うけてやるよ」
「勝手にうけないでください! ってか、わたし、そもそもタクミくんと結婚する気はありませんからね」
でも、イケメンたちはわたしを無視して話を進めます。
「で、なんの勝負をするんだ?」
目をつぶり、深呼吸する先生。
みんなの視線が先生にあつまります。
「勝負の内容は……」
極限まで高まった緊張のなか、先生が重々しく口を開きました。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※このあと20時に『真実の糸 2』を投稿します。




