こちらは月読封魔探偵事務所! (最終回)
事件から2か月がたちました。
黒霧中学校の生徒たちは、みんなもとにもどり、平和な学校生活を送っています……とは残念ながら、いえません。
2か月まえにくらべて、黒中でのイジメの数は2倍近く増えています。
また同僚の教師にひどい暴言を吐いたために、学校を辞めさせられた先生の話も、つい最近ニュースで聞きました。
ただ、すべてが悪いほうに動いているワケではありません。
熱血ぶりが原因で孤立していた大土先生ですが、その熱意に動かされた生徒たちが、だんだん彼にこころを開きはじめたのです。
「最初はウザいと思ってたけど、なんかああいう、まっすぐな先生もいいかなって思うようになっちゃった」
「おれ、ずっと母さんとふたりで暮らしてきただろ。だからさ、オッチーのことオヤジだと思って、母さんにいえないこと、いろいろと相談してるんだ」
これらは、お店にきてくれた黒中の生徒の言葉です。
みんながまるっと大家族。
もしかしたら、あと数年後には、本当に黒中の生徒と大土先生は家族のような関係になっているかもしれません。
そして、うれしいことは『め~め~めふぃすと』にもおきました。
なんとユリさんとハルカさんが、お店の常連客になってくれたのです。
あ、もちろん、ふたりともわたしのことはおぼえていませんよ。
でもクチコミでお店の評判を聞きつけたふたりは、すっかりここを気に入ってしまい、毎週きてくれるようになったのです。
「アリナさん、いつものお願いします」
「あーりん、わたしもー」
こんな調子で、毎回め~め~メガ盛りパフェを頼むので、ふたりともマスターから、メガパフェ王女とよばれています。
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11月11日。
月読封魔探偵事務所では、恒例となったあるトレーニングがおこなわれていました。
「先生、あと5秒で8分ですよ」
言葉と同時にポン!
先生の頭にウサミミがはえました。
「4、3、2、1……8分経過!」
その直後に、先生のからだは光につつまれ、もとのウサギのすがたにもどりました。
「アリナくん、飲み物を」
わたしは汗まみれの先生にイチゴミルク(先生の大好物!)をわたしました。
「先生、記録更新ですよ」
「ありがとう。けど、これ以上はさすがにきびしそうだね」
「そんなことありません。最初は5分だったのが、いまじゃ8分ですよ。トレーニングをつづければ、もっと長い時間、人間のすがたでいられるはずです」
「そうだね。継続は力なり。あしたは3秒でいいから、タイムをのばしてみようか」
先生が疲れ切ったよ様子で、ひじかけイスにすわります。
ベルニエとの戦い以降、先生はなんと自分の意志で人間のすがたに変身することができるようになったのです。
ただし変身できる時間は限られていて、体力もものすごくつかうので、トレーニングのあとは、いつもフラフラしています。
「先生、一時的とはいえ、どうしてあのとき呪いが解けたんでしょうか」
わたしは先生にたずねました。
「呪いは、かけた悪魔を封印しない限り、解かれることはないはずです。なのに、どうして、あのとき先生の呪いは解けたんでしょうか」
「それについて、はっきりとしたことはわからない。ただ、ぼくはある仮説を立てているんだ」
「仮説ですか?」
「うん。呪いというものは本来、恨みや憎しみといった負の感情をこめてかけるものなんだ。だけど、きみの呪いにはそういった負の感情が含まれていない。だから、呪いそのものが不完全だったんじゃないか。それがぼくの仮説だよ」
先生が2杯目のイチゴミルクを飲みます。
「ベルニエに黒板にたたきつけられたとき、衝撃でぼくのからだはほとんど動かなかった。けど、きみを助けたいと思う気持ちだけは、けっして消えなかった」
先生が空になったコップを置きます。
「そうして気づいたら、人間のすがたにもどっていた。もしかしたら、きみを助けたいという強い想いが、一時的とはいえ不完全な呪いを解いたのかもしれないね」
ちょうど、そのときテレビでは、男子中学生が父親を包丁で刺したというニュースがつたえられていました。
「ベルニエは生まれたときから、ずっとひとりぼっちだったのかもしれないね」
先生がテレビの画面を見ながら、つぶやきます。
「彼は、ずっとひとりぼっちで生きてきた。だからこそ家族というものに強い理想とあこがれをもっていたんじゃないかな」
ベルニエが封印されたいま、真相は文字どおり闇のなかです。
でも封印される直前の、どこか悲しそうベルニエの声を思いだすと、先生のいったことも、あながちまちがいではないような気がするのです。
「強すぎる理想とあこがれゆえに、彼は自分の求めるカンペキな家族をつくろうとしたのかもしれないね」
先生はリモコンをとると、
「家族だけじゃない。この世にカンペキなものなんてないんだ」
そういって、テレビの電源を切りました。
「アリナくん、もうそろそろ出発したほうがいいんじゃないかい」
時刻は午前9時30分。
あと30分で黒霧中学校の文化祭がはじまります。
「人の数も多いだろうからね。余裕をもって行ったほうがいいよ」
「そうですね。それでは先生、ただいまより黒霧中学校へ調査に行ってきます」
わたしは、わざとかしこまって、ビシッと敬礼のポーズをとりました。
「うん。しっかりたのしんで――失礼、言葉をまちがえた。しっかり調査をしてきてくれたまえ」
「はい」
「あとフランクフルトとフライドポテトも、わすれずに買ってきてくれたまえ」
「もちろんです」
わたしはかばんを手にとると、高鳴る胸をはずませながら、部屋を飛び出しました。
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最近、あなたのまわりで奇妙なできごとはおきていませんか?
恐ろしいウワサ、身の毛もよだつ都市伝説はささやかれていませんか?
もし、あなたがそれらでお悩みなら、ぜひわたしたちに相談してください。
月読封魔探偵事務所は、あなたがくるのを、いつでもお待ちしています!!
(完)
読者のみなさまへ
この物語を書いたのは2022年。
ちょうどロシアとウクライナの紛争がはじまった年です。
「人間は同じ人間同士で争う生き物かもしれない。けど種族の異なる者とだって、きっと手を取り合うことができるはず」
そのような想いで筆を執ったことを覚えています。
この物語のテーマは「異種族との絆」。
作者が、べつの作品でも度々テーマにしているものです。
自分たちと異なる者と手を取るということは想像の何倍も難しいこと。
でも勇気を持ってーーそして理解の種である興味の心を持って、手を伸ばせば、きっと世界が広がるはず。
そんな考えが、この物語を通して、みなさまの心にほんの少しでも残ってくれたら、犬山おはぎは大変うれしく思います。
今回で、この『ウサギとアクマの封魔録 ~こちらは月読封魔探偵事務所!~』はおしまいです。
約2週間の連載にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
※ちなみにベルニエという名前はイワガネグモの英名であるベルベットスパイダーとフランス語でクモを意味するアレニエから取ったものです。




