悪夢の果て 4
ベルニエが完全に封印されると、役目をおえた穴も消えてなくなりました。
「今度こそ、おわったんですね」
「そう。すべてがおわったんだ」
そのとき、先生のからだが光につつまれました。
「先生、からだが――」
「どうやら、このすがたもおわりみたいだね」
光が消えたとき、そこに人間の月読ソウマはいませんでした。
その代わり、足元でウサギのぬいぐるみが、ぐったりとうなだれていました。
「先生! だいじょうぶですか?」
「ああ、少しムリをしすぎたみたいだね。それよりアリナくん、あれを見てごらん」
ふわふわの手で、先生が空をさします。
「みんなのたましいがもどっていくよ」
ベルニエが封印されたことで旧倉庫のとびらが消え、青白い火の玉(解放されたたましい)が体育館に飛んでいきます。その光景は、まるで青空に降る流星群のようでした。
「ところでアリナくん、なぜきみが魔導筆をもっていたんだい?」
「え? あ、ええと、その――」
「ぼくは金庫に保管しておいてくれと頼んだはずだよ」
「ごめんなさい。もしかしたら、わたしも魔導筆をつかえるんじゃないかと思ったんです。それで練習するために、金庫じゃなくて、ペンダントのなかに入れておいたんです」
「なるほど。それで魔導筆はつかえたかい?」
「ええと、それは……」
「アリナくん、残念だけど悪魔に魔導筆をつかえないよ。それをつかえるのは魔力をもった人間だけさ」
先生はわたしの目のまえで○を描き、こわれた壁やガラスを直しました。
「きみのおかげでベルニエを封印することができた。けど、それと命令違反とは別の問題だ。アリナくん、きみに罰をあたえる」
「はい。覚悟はできてます」
「まずは反省文を書いて、それを始末書として提出してもらう」
「はい」
「あと黒霧中学校の文化祭にも参加してもらうよ」
「はい――え?」
わたしは何度もまばたきしながら、先生に訊き返しました。
「参加……ですか?」
「もちろん客としてね。たましいを入れ替えたことによって、被害者になにかしらの後遺症があるかもしれない。アリナくん、その調査をきみに命じる」
先生が、必死に笑いをこらえながら説明します。
「それらが、きみへの罰だよ」
先生がうしろを向きました。きっと笑いをこらえることができなくなったのでしょう。
「そうだ。この学校の文化祭には屋台も出るみたいだね。よかったら、フランクフルトやフライドポテトなんかも買ってきてくれないかな」
「それも調査ですか?」
「もちろんさ。もしかしたら『め~め~めふぃすと』に新メニューが追加されるかもしれないからね」
うしろを向いていた先生が、こちらをふりむきます。
「アリナくん、最後の仕事をしようか」
「はい」
「つらいのはわかっている。けど、やってくれるね?」
「やります。いえ、やらなくちゃいけないんです。みんなのためにも」
ハルカさん、そして1組の仲間たち。
みんなの顔を思い浮かべながら、わたしは指をならしました。
パチン。
その瞬間、学校にいるみんなの記憶から日向アリナの存在は消えました。
時間停止以外でわたしがつかえる魔法。それが記憶消去です。
事件解決後、封魔探偵は依頼者と事件関係者から、自分たちにかんする記憶を消さなければいけない。それがルールなのです。
「ユリさんの記憶も消さないといけない。アリナくん、いそいで帰りの支度をしよう」
時間が動きだすまで、あと3分。
いそいで支度をすませると、わたしは、疲れ果てて動くことのできない先生をかばんに入れて、だれにも知られることなく学校をあとにしました。
校門を出たときです。
ふたたび時間が動きだし、ふぅっとすずしい風が背中をなでていきました。
さよなら。
なんだか学校が、そういってくれたようでした。
★ ★ ★ ★
……あなただけに教えますね。
じつは、練習のために魔導筆をペンダントに入れていたというのはウソなんです。
悪魔が魔導筆をつかえないことぐらい、わたしだって知っています。
では、どうして魔導筆をペンダントに入れていたのか。
それはーー。
「いつでも、どんなときでも先生と一緒にいたいから!」
いまは、まだはずかしくて本当の気持ちをつたえることができません。
でも、いつか。
たとえ、それが数十年先の未来だとしても、いつかかならず自分の口で先生につたえたいと思います。
だから、先生。そのときまで、わたしは、ずっとあなたのとなりにいますからね!
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※次回は、いよいよ最終回! このあと20時に最終回のエピソードを投稿します。




