悪夢の果て 2
矢のように襲いかかるベルニエ。
それを避けて、先生が◇を描きます。
「炎撃陣・ヒショウ」
ベルニエが、炎を回避しようとジャンプします。
すかさず、わたしもジャンプ。
そして空中にいるベルニエのわきばらを蹴りました。
「いまです、先生」
床に落ちたベルニエめがけて、先生が飛びかかります。
「封魔陣――」
「させるかよ」
ベルニエが先生のちいさなからだをつかんで、黒板に投げつけました。
「先生!」
黒板にたたきつけられた先生が、声もあげずに床に落ちます。
「つぎはおまえだ」
わたしの手をつかむと、ベルニエはそのまま窓にダイブ。
窓ガラスとネットを突き破って、わたしたちは運動場に墜落しました。
「アリナ、もう一度いうぞ。おれの家族になれ」
ベルニエが馬乗りになって、わたしの首に手をのばします。
「家族になれ。そうすれば命だけは助けてやる」
「だれが、おまえの家族なんかに……」
「命が惜しくないみたいだな」
白くて針金みたいにほそい指。
でも、その力はダンプカー以上です。
ベルニエの指が、わたしの首に食いこみます。
もしわたしが人間なら、すでにのどはつぶされ、首の骨も折られているはずです。
「考えてみれば、家族なんていくらでもつくれるんだよな。悪魔って理由だけで、おまえにこだわる必要なんてねえんだよ」
ベルニエがあざけるような笑いをあげて、指の力を強めました。
★ ★ ★ ★
息ができない。
くるしくて全身に力が入らない。
くやしくて、くやしくて、くやしくて。
あふれたなみだが地面に垂れ落ちます。
でも、どうすることもできない。
立つことも、戦うこともできない。
のどをしめられ、助けを求めることさえできません。
――助けて、先生。
出せない声に代わって、救いを求める想いが心にあふれます。
「いまさら泣いてもムダだぜ。おまえの代わりなんて、いくらでもいるんだからな」
耳元で叫ぶベルニエの声が、意味をなさない音として耳のなかで反響します。
意識がなくなる。
想いが消える。
そして命が砕け散る。
まさに、その瞬間でした。
「光射陣・ヤジリ」
←の陣形をした光の矢。
それがベルニエの肩をつらぬいたのです。
かんだかい悲鳴をあげて飛び退くベルニエ。
からだの自由をとりもどしたわたしは、思いきり空気を吸いました。
意識も、想いも、そして命も。
とまった時間のなかで、ふたたび強く動きはじめます。
「アリナくんの代わりなんていない」
声のしたほうを見ましたが、そこにウサギのぬいぐるみはいません。
その代わり、背が高く、スタイルばつぐんで、女の子みたいにうつくしい顔をした少年が手に合わない、ちいさな魔導筆をかまえていました。
「ウソ……」
ついさっきまでとまりかけていた心臓が、今度は大きく跳ねあがります。
もう二度と会えないと思っていた人が目のまえにいる。
その奇跡に、わたしの目から、うれしなみだがボロボロこぼれ落ちました。
運動場にいたのは、なんと人間のすがたをした先生だったのです。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




