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骨迷路  作者: 堀川士朗
9/9

最終話

おはようございます。最終話のお届けです。老人になった浮貝。幻想の果てに彼が見たものとは。お楽しみに。


 「骨迷路」(最終話)



          堀川士朗



あの日の桂林厨房飯店に僕はいたんだ。

店の壁には男性ムード歌謡グループ『断裂』のメンバーの沖羅奈鳩詩(オキラナ・ハトシ)のサインが、まだ飾ってあった。

桂林そばを注文した。

ゴム味のそばを食べる。

何十年前とまるで同じ伝統の不味い味だったので、文句をつける気にもならなかった。

もう食べられないや。

いつからだろう。

満腹が充足ではなく、苦痛に感じるようになってしまったのは。


僕がこの世を去る前に、最後の食事として取りたいものは何だろうか?

寿司。

焼き肉。

鰻重。

ステーキ。

いや、もっと質素でしっくり来る毎日食べているようなものが良いな。

納豆ご飯。

いや、それでも贅沢な気がする。

冷奴。

うーん。もっとシンプルで、ギリギリまで削ぎ落とされたものが良いな。

どうせこの世からいなくなるんだから。

そうだな、水が良いや。

ただの水道水。

ミネラルウォーターとかでなく。

水道水。

『末期の水』って言うでしょ。

それで良い。

それに決めた。

一杯の水を最後に飲んで、僕は水の世界へと帰るのだ。



今日も「浮貝さあん。浮貝弥一さあん」と呼ばれて病院で診察を受け、四週間分の薬をもらう。

長くかかる病気だ。

一生の付き合いかもしれない。

生に執着し、這いつくばって生きていくしかない。

僕はこの、一生続く病気と毎日向き合っていて、それには多くの手助け、サポートが必要なんだ。

頭の中で夢が咲く病。



三十三年後。



はあ。

やっと静かになった。

僕はカンパニーを辞めて退職金をもらい、悠々自適の生活を送っていた。

でも、あんなに好きだったお酒を飲むのもやめてしまった。

あれだけ気にしていた自分の匂いも消えた。


ここは、骨迷路だよ。

いつまでさ迷うつもりだろうか、僕は。

出口はどこにも見えない。

誰もいないからとても静かだ。

無音無臭の永久迷路。

これも全て僕の独り言さ。

やっぱり、独り言って大事なんだ。だって独りで何でも話せれば孤独じゃないもんね。

はあ。

テンテン……。

今どこにいるの?

どこで何をしてるの?

同じ骨迷路の中にいるのかな。

それとも、とっくの昔に出口を見つけて出て行ってしまったのかな。

僕はおじいちゃんになったよ。

でも君は今でも少女のままなんだろうな。

また都電ニャラ川線に乗ってどこか行きたいね。

あはは。

ああ。

悲しい楽しい切ない人生だったなあ。

骨迷路をさ迷ってばかりの、短い生涯だった。

僕はとうとう子孫を残す事は出来なかった。

ごめんよ、お父さんお母さん。

猫のひとつも飼えなかった。

テンテンはこの腕の中にない。

浮貝弥一青年は老いて八十ニ歳になったよ。

でも、まだ終われない。

まだ、終わらない。

懸命に動く。

懸命に、生きてみる。

雨が降り続く。

骨迷路に深い水溜まりが出来ている。

僕はそこを、傘も差さずに飛び越える。

冒険をやめない。


頭の中で夢が咲いてる。



あ!テンテン!

来てくれたんだね!



            終



   (2023年6月~7月執筆)



最後までご覧頂きありがとうございました。少しお休みを頂いて、また来年から新作をアップ致しますので宜しくお願い致します。

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