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骨迷路  作者: 堀川士朗
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第三話

おはようございます。第三話のお届けです。テンテンが突如別れを告げます。その時浮貝は…。お楽しみに!


 「骨迷路」(第三話)



          堀川士朗



ニ年後。



僕は『秋茄子は嫁に食わすなに隠された善意』というテーマで卒論を提出して学校を卒業して、一人暮らしを始めてカンパニーに入って働きだした。

そばにはテンテンもいるし、毎日が充実していて楽しい。

今が一番幸せだよ。

何も波が立っていない。

穏やかな凪の状態。

でも何か、気持ちが、予感がそわそわする。

草原のさわさわにもよく似た、予感のそわそわ。


「夜は豆腐だけしか食べないとむくまなくて良いわよ」

「わかった。やってみるよ」

「それと寝てる時に脚を伸ばすと膝腰が楽ちんになって気持ち良いよ」

「うん。そうだね。楽だ」

「ね」

「あと時々背中が痛いのは、どうすれば良いかな?」

「それは。それは自分で何とかして」


テンテンは僕に、確かなる福音の言葉を与えてくれる。

彼女はなくてはならない存在。

いなくなったらどうしたら良いのだろう。



その日は雨がふったりやんだりふったりした。

テンテンを連れて街に出た。

見知らぬおじさんが急に僕たちに向かって叫んだ。


「うぬらいまだアイシテマス眠らない眠らせないとか逝っておるのかーっ!くんぬらーっ!」

「きゃ」


テンテンは短い悲鳴を上げた。

僕らは走って逃げた。


「あのおじさん何か叫んでた。怖かったわ」

「そうだね。近寄らないに越した事はないよ」

「うん」

「きっと、僕らの若さに嫉妬していたんだろう」



二三日気配がなかったのに、例の近所のワライカワセミばばあがカンツォーネを歌って一人で笑っている。

カンツォーネと笑い声は街中に響き渡った。

何という事だ。

由々しき事態。

不吉な予感。



今日も「浮貝さあん。浮貝弥一さあん」と呼ばれて病院で診察を受け、四週間分の薬をもらう。

長くかかる病気だ。

一生の付き合いかもしれない。

生に執着し、這いつくばって生きていくしかない。

僕はこの、一生続く病気と毎日向き合っていて、それには多くの手助け、サポートが必要なんだ。

頭の中で夢が咲く病。



「好きな人が出来たの、会社で」

「え?」

「だから、身辺整理をしたいの。さよなら」

「え、えと」

「それにあなたの事はもう好きじゃないの。さよなら」

「さよならなんて言わないでくれ」

「言う。さよなら」


僕らは二人で暮らしていた。

その日、テンテンは夕飯の支度をしていなかった。

僕がカンパニーから疲れて帰ってきたというのに。

テンテンも働いてはいるが、それでも上がりの時間は彼女の方が早かったはずだ。

なのに……。

何も。

何も用意していなかった。

部屋の電気も、ついていなかった。


「何か、心を侵略される感じが嫌なの」

「侵略してきたのはどっちだよ」

「最初からいなければ良い」

「え?」

「私が最初からいなかったって思えば、弥一くん気持ち楽よ」


僕は激昂して、おのれの感情を吐き出した。

もう、駄目なんだって分かっていたから。


「テンテンはいつもそれだ!自分の都合しか考えていない。僕の気持ちなんか知ったこっちゃないんだ!寂しい時だけ僕の事相手にして利用して、勝手だよっ!」

「そうね。それで当たってるわ。さよなら」


最後に、僕はテンテンを一方的に抱き締めた。

テンテンは力ない子羊みたいに完全に脱力しきっていて、体温ばかり温かくて、その時僕は、ああ。これで本当に終わりなんだなと思った。


夜が来る前にテンテンは僕の部屋から出て行った。



          続く



ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう。

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