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82.入念に準備します(第一話)


 討伐に同行することを許してもらうという第一段階はクリアしたので、リデラインは討伐に向けた下調べに力を入れる必要があった。ストウ森に生息する魔物を始め、森の植物など、ストウ森の生態系を改めて確認するのだ。近年の討伐の記録も隅々まで読み込む予定である。

 大勢の犠牲者が出てしまうような事態を引き起こす可能性があるものを、とにかく洗い出したいという狙いだ。

 しかし、忘れてはならないことがもう一つあった。


「誕生日プレゼント?」


 森でのテストがあった翌日。リデライン、ジャレッド、オスニエルは、ジャレッドの部屋に集合していた。ベティを含め使用人たちがテーブルのセッティングをし、デザートや紅茶が並んでいる。

 そこで二人がオスニエルに相談したのが、ローレンスの誕生日プレゼントについてである。


(こんな状況じゃなかったらもっと時間をかけて考えるのに……っ)


 ローレンスの誕生日プレゼントを妥協なんてしたくない。しかし今は、討伐に向けた情報収集も手を抜けない状態だ。プレゼントに全力を注ぐ所存ではあるけれど、時間が限られてしまうのはどうしようもなかった。


「なるほどなるほど」


 オスニエルは顎に指を添えて、ふむ、と頷く。


「来月だから悩んでるわけね」


 悩んでいる間に、ローレンスの誕生日は着々と近づいている。


「何がいいと思う?」

「ローレンス兄さんなら、ジャレッドとリデラインから貰うものはなんでも嬉しがるでしょ」

「それはもういいんだよ」


 うんざり気味のジャレッドの反応に不思議そうにしたオスニエルは、納得したように「ああ」と零す。


「みんなに同じこと言われてる感じ? でも事実でしょ。そこら辺で拾った石ころとかでも絶対に喜ぶね」

(うーん、ありそう)


 弟妹にデレデレなローレンスなので、容易に想像ができた。リデラインとジャレッドがくれたという事実があれば、ローレンスは石どころか砂粒一つにも価値を見出すような人だ。リデラインもその気持ちはよくわかる。


「去年まではなんだっけ?」

「……去年は何もしてない」

「あ、ごめん」


 オスニエルの質問に、リデラインとジャレッドはどんよりとした空気を醸し出す。迂闊だったなとオスニエルは少し反省しつつ、咳払いで気を取り直した。


「前回まではなんだっけ?」

「……俺は消耗品だな。インクとか」

「あー、ローレンス兄さん、もったいなくて使えないとかで保管しようとしてたよね」

「使ってほしくて渡してたんだけどな」


 ジャレッドは無難にノートやペン、ローレンスが使うであろうものを小遣いから購入してプレゼントしていた。それをローレンスは丁重に保管しようとするので、使うよう説得に時間がかかっていたのが懐かしい。書き込まれたノート、空になったインク瓶など、使い終わったら当然のごとく保管しているそうだ。


「リデラインはカードと花だっけ。すごい自慢してきたなぁ、あれ」


 リデラインは『お誕生日おめでとうございます』カードと、庭師から教えてもらいながら庭園の花で作ったブーケや花冠をプレゼントするのが定番だった。ローレンスはそれも魔法で枯れないように加工して保管しているらしい。


「今回はもっと力入れたいんだ。……去年は色々あったからな」


 すっとジャレッドが視線を逸らしてまたどんよりしかけたので、オスニエルは「はいはい、落ち込まない」と声をかける。


「何がいいかって話だよね。せっかく魔物狩りして魔石が手に入ったから、それで何か魔道具とか発注すれば? ファングボアやコバルドッグの魔石だからあんまり高性能のは作れないだろうけど、ローレンス兄さんは相当喜ぶだろうね」


 ファングボアは現在、瘴気を抜いている作業中だ。そろそろ解体が始まる頃だろう。

 リデラインが倒したコバルドッグは森に置いてきたので今頃は跡形もなく溶けているだろうけれど、仕留めたかどうかを確認しに行った際、ヒューバートが魔石を取り出してくれていた。一度氷を消して、魔石を取り出して、また氷で覆ったのだ。

 採取できた魔石は小ぶりではあったものの、魔石は魔石である。魔道具の動力源として使うことは可能だ。


「魔道具か……いいかもな」


 ジャレッドは前向きのようだ。

 リデラインもジャレッドもまだ子供だ。今まではプレゼントというものは小遣いの範囲でやってきた。しかし今回は、二人が自らの手で入手した魔石がある。それを使うという提案はかなりいいアイディアだ。

 その魔石をプレゼントするだけでもローレンスは大いに喜びそうではあるけれど、せっかくなら魔道具のほうが便利だろう。


「じゃあ父さんに頼もうか」

「叔父上に?」

「忘れた? 父さんは魔道具開発に力入れてるでしょ」


 魔道具の作成には資格が必要で、ヒューバートは魔道具師の資格を持っている。閉鎖的なフロストからすでに王家と縁のある家に婿に入ったことも話題となったらしいけれど、魔道具師としての腕も国内外で非常に有名だ。フロスト領の魔道具店にも、ヒューバートが作成した魔道具が卸されているとか。


(あのカメラ、おじさまが作ったものだったりして)


 リデラインはローレンスに買ってもらった、ヨランダ退治用に使ったカメラを思い出す。


「問題は何にするかか」

「ファングボアもコバルドッグも無属性だから、魔道具もそうなるね」


 コンロには火属性の魔石、水道には水属性の魔石が使われているように、魔石には属性の偏りがある。魔物から採取できる魔石は魔物の属性どおりだ。


「カメラ……」


 ぽつりと呟いたジャレッドは、それからリデラインに視線をやった。


「お前、兄上の動画と写真飽きるほど見てるだろ」

「飽きないわ」

「そこはいいんだよ。とにかく、兄上もお前の写真をいつでも見たいんじゃないかってことだ」


 その言い方にはリデラインがむすっとした。


「私だけじゃなくて、ジャレッドお兄さまの写真もでしょう?」

「俺はいいよ」

「私をとるならお兄さまもよ」


 笑顔で圧をかけると、ジャレッドは「うっ」と言葉を詰まらせた。そんな兄妹を眺めていたオスニエルは、「んー」と首を捻る。


「あの魔石でカメラが作れるかはどうかな……父さんに確認してみないと」


 数時間後、ヒューバートがノリスマレーに戻る前にファングボアの魔石も持ってヒューバートに相談しに行った。記録できる容量は少なくなるけれど恐らく可能だろうとのことだったため、プレゼントはカメラに決まった。


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