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78.放置はできません(第四話)


 自室に戻って動きやすい服装に着替えたリデラインは、テーブルの上に置かれている護身用の魔道具である髪飾りとブローチに視線をやった。

 念のため、テストはこの二つを身につけて行うことになる。リデラインが魔物の対処を誤ってこの二つがリデラインの身を守ろうと勝手に発動した瞬間、リデラインは今回のテストでは不合格だ。そうならないように気をつけなければいけない。


「お嬢様……」


 ベティが心配そうに呼ぶので、リデラインはベティを安心させるように落ち着いた笑顔を見せる。


「大丈夫よ、ベティ」

「とても危ないのですよ」

「わかってるわ」


 ベティの表情は変わらなかった。リデラインが魔物を見たことがないというのをベティは知っているので、こんなにも心配しているのだ。

 魔道具があるし、試験官としてヒューバートたちもいるのだから、リデラインが怪我を負ってしまう可能性は限りなく低い。それでもゼロではないし、魔物に対する恐怖や実戦の厳しさでリデラインがショックを受けることなど、考えれば考えるほど不安が膨らんでいくのだろう。

 その気持ちは素直に嬉しい。ベティがそれほどリデラインを大切に思ってくれているということだから。けれど、ここで折れてやっぱりやめたはできないし、したくない。


「絶対にね、やらなきゃいけないことがあるの。そのために必要なの」


 これは記憶があるからこその責任であり、フロストの一員であるからこその責任でもある。


「……お気をつけくださいね」

「ええ」


 不安そうにしながらも笑顔で送り出してくれるベティを、リデラインはぎゅっと抱きしめた。





 デイヴィッド、ヒューバート、オスニエル、ジャレッド、そしてリデラインが乗った馬車が、フロスト公爵領の領都から数十分ほどの距離にある森の前に到着した。

 フロスト騎士団の騎士も数人同行しており、二人は馬車のそばで待機、もう一人は――。


「今更ですけど、俺でいいんですか? 副団長とかのほうが適任だと思うんですけど」


 ケヴィンはデイヴィッドと共に、ジャレッドのテストの試験官の役目を担うことになった。どうもそのことに疑問を持っているようだ。


「君の腕前を買っているから頼んだんだ。忖度なく判断してくれ」

「副団長がお忙しいからですよね? 王都の後始末で……っと、いえ、なんでもありません」


 リデラインと目が合ったケヴィンが不自然に話を終わらせたので、リデラインは首を傾げた。すると別の騎士がケヴィンの頭を叩き、デイヴィッドが頭痛を覚えたように額に手を当てる。

 どうやら騎士団のことで、何かリデラインたちには知られたくないことがあるらしい。とりあえず見ないふりをしておいたほうがよさそうだ。


「リデライン」


 呼ばれて振り向くと、ジャレッドが眉間にしわを作ってリデラインを見下ろしていた。ジャレッドもリデラインの討伐参加には反対の雰囲気である。


「ほんとにやるのか?」

「実際に森に来たら怖気づくと思った?」

「それを期待した」


 正直だ。兄として、妹の安全を考えれば当然なのだろう。


「お前は魔物を見たことがないから、狩りや討伐の怖さをわかってない。体力だってないのに」

「わかってないことはわかってる」

「だったら……!」

「お兄さまは自分のことに集中したほうがいいと思うわ」


 リデラインがそう言うと、ジャレッドは言葉を詰まらせた。そこにオスニエルが入ってくる。


「そうだね。リデラインのことに気を取られて失敗したら、ジャレッドだって不合格だし」


 そのオスニエルにジャレッドは怒りを孕んだ視線を向けた。リデラインがこのテストに参加させてほしいと申し出た時、オスニエルが真っ先に賛成して後押ししたからだろう。

 オスニエルはそのことを承知していながら、わざとジャレッドを煽っているように見える。


「お兄さま、お兄さま」


 リデラインの呼ぶ声に応えて、ジャレッドの空色の瞳が再びリデラインを映した。


「心配してくれてありがとう」


 リデラインが笑うと、ジャレッドは一度顔を顰めて、それから諦めたように表情を緩める。


「自分の安全を何よりも優先するって約束しろ」

「わかったわ。お兄さまもね」

「ああ」


 ジャレッドはリデラインの頭にぽん、と手を置くと、オスニエルに向き直る。


「怪我させるなよ」

「それはもう、しっかり厳格に審査するよ。少しでも危ないと判断したら速攻で介入する勢いで」


 無駄にキラキラした笑顔で、オスニエルはそう宣言した。ヒューバートが苦笑している。

 介入するとはつまり、魔道具の発動と同じで不合格ということである。

 ジャレッドの評価をするのがデイヴィッドとケヴィンであるように、リデラインの評価をするのはオスニエルとヒューバートなのだ。リデラインの合格は二人の判断次第となる。


「そろそろ始めよう」


 デイヴィッドの声がかかり、まずはジャレッドとデイヴィッド、ケヴィンが森に入っていく。

 ジャレッドは森の西側に進み、リデラインは東側に進んでそれぞれ魔物を狩ることになっている。


「ずいぶん余裕だね」


 手を振って三人を見送ったリデラインに、オスニエルからそんな一言が飛んだ。ヒューバートが微妙な顔をしている。


「そう見えますか?」

「うん」

「緊張してますよ。それに、普通に怖いです」

「へぇ」


 オスニエルは興味がなさそうに冷たい声だ。怖いのは間違いなくリデラインの本音なのだけれど、少し疑っている気がする。


「昨日は意外でした。オスニエルお兄さまが後押ししてくれて」

「現実を教えるには一番だからね」


 取り繕うことなく、迂遠な言い回しはせず、本当に正直でトゲトゲしい。


「必要以上に厳しい基準で見るつもりでしょう?」

「気づいた?」

「隠す気があったんですか?」

「ないね」


 おそらく、デイヴィッドとヘンリエッタからもそう注文が出ているはずだ。


「文句のつけようもないくらい完璧に終わらせます」


 リデラインが挑戦的に宣言すると、オスニエルは目を丸くして、それから口角を上げた。


「それは楽しみだ」


 森は当然ながら道が悪く、体力がないリデラインに長期戦は不向きだ。短期決戦でいきたい。

 一度深呼吸をしたリデラインは、気合を入れて前を見据えた。



  ◇◇◇


ヒューバート(仲良くしてほしいんだけどなぁ)

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