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59.予想外の出会いです(第二話)

メンテ長引きましたね。

昨日の更新分です。


 ジャレッドの四級魔法使い試験一日目の朝、リデラインとローレンスは見送りで邸の外に出ていた。モーガンもいる。

 試験を受ける本人よりもそわそわしているリデラインは、ジャレッドの服の裾を少し引っ張った。


「体調は問題ない?」

「ああ」

「受験票持った?」

「持った」

「筆記試験はちゃんと解答見返してね」

「わかってる」

「解き直すだけじゃなくて、誤字とか解答欄がずれてないかとか、そういうのもチェックするんだよ。問題解く時間配分も気にして、ギリギリまで――」

「あーもうわかってるって」


 ジャレッドはリデラインの額をぺちっと軽く叩く。リデラインは額を押さえて唇を尖らせた。


「いたい」

「しつこいからだ」


 鬱陶しそうにされてリデラインが更に剥れていると、ローレンスが頭を撫でて慰めてくれる。


「緊張しすぎるのはよくないけど、気が緩みすぎるのもよくない。程よい緊張感を持つのは大事だよ」

「ああ」


 ローレンスのアドバイスに真剣な顔で頷いたジャレッドを見て、リデラインはもっと拗ねた。


「ジャレッド様なら大丈夫です、頑張ってください」

「ん」


 モーガンの激励に短く返事をして、ジャレッドは馬車に乗り込む。馬車が遠ざかっていき、門の外に出て見えなくなって、リデラインたちは邸の中に入った。


 四級試験は二日にわたって行われる。初日の今日は筆記試験と簡単な実技試験、二日目は初級レベルの魔物狩りが定番らしい。

 筆記試験は魔法の基礎的な知識を問うもので、リデラインとジャレッドが体験した魔力欠乏症や属性魔法の相性、初級魔法に関する問題に加え、魔法に関する法律系の問題が出題されるそうだ。自衛目的以外で攻撃魔法を使うのは違法だとか、そのような内容である。


(うーん、大丈夫だとは思うんだけど……)


 心配なものは心配なのだ。

 小説の中のジャレッドは十二歳で四級の試験に合格している。今は魔力が増えたり氷属性の適性も得たりと、小説とは色々と状況が異なるし、ローレンスたちからも太鼓判を押されている。

 魔法について勉強熱心なジャレッドは、魔法の知識がかなり身についている。先程リデラインが注意したような簡単なミスがなければ合格ラインは余裕で超えるだろう。実技試験もよっぽどのことがない限りは合格のはずなのだ。


「そんなに心配しなくてもジャレッドはきっと合格するよ」

「はい……」

「ほら、図書室で勉強でもして、ジャレッドの帰りを待っていよう。リデルもそのうち試験を受けることになるだろうからね」


 ローレンスから差し出された手を握って、リデラインはそういえばと長兄をまじまじと見つめる。


 魔法使い試験は級が上がるごとに試験の難易度が上がるのはもちろんのこと、それに伴ってかかる日数も増えていくという。

 一級魔法使い試験はかなり実践的な試験が続き魔力消費も激しくなるので、試験ごとに数日の休日を挟む日程が組まれ、トータルの試験日数は二週間から三週間ほどになるとか。


 ローレンスが一級試験を受けた際は、約一週間で試験が終了した。そして、その試験での合格者はローレンスただ一人。

 理由は簡単である。弟妹に早く会いたいがために、ローレンスが他の受験者を次々と脱落させていったからだ。


 その一級試験では、一次試験である筆記試験を終えた翌日から二次試験が行われた。二次試験の内容は、『指定の森でとある魔物から獲れる素材を回収する』というものだった。期限は五日間で、その間は森から出ることができないため、サバイバル能力も問われるもの。他の受験者への妨害行為、他の受験者が獲得した素材を奪い取るも自由、といった条件だった。

 そんな中でローレンスは早々に素材を手に入れ、他の受験者から狙われて返り討ちにし続けたのである。自分が素材を手に入れたことをわざと周知させ、狙われるよう誘導したのだ。

 そうして、二次試験の五日間でローレンス一人だけが残り、試験官たちもかなり困惑したという。しかし、ローレンス・フロストの名は当時すでに知れ渡っていたし、試験官たちが実力を認めてその時点で試験を終了し、ローレンス一人を合格としたのだ。


 それほど細かい情報をリデラインが持っているのは、小説に書かれていたためである。作者がSNSで補足もしていた。


 一級魔法使い試験の受験者は誰もが優秀な魔法使いだ。それをたった十二歳の子供が一人で返り討ちにしたなんて、まさに常軌を逸した実力を持つ天才。

 実際にこの世界で生きていると、その非凡さは本当にひしひしと実感できる。一級魔法使い試験は合格者が出ないこともざらなのだ。


(とってもすごい人なんだよね、お兄さまって)


 どうしてこのスペックで悪役令嬢と当て馬の兄という立ち位置だったのか。ヒーローでもよかったのではないだろうか。


(あ、それはちょっと複雑かも)


 ローレンスがヒーローなのであれば、前世の瑠璃があまり好きにはなれなかったあの主人公とくっつくということになるのだ。ヒーローポジションではなくてよかったと考えを改める。


「――そんなに僕のこと見つめてどうしたの?」


 リデラインが考えごとをしながら見つめすぎたせいで、ローレンスが楽しそうに首を傾げて問うた。惜しげもなく色気を爆発させている。

 ほんのり頬を染めてリデラインが「なんでもありません」と告げると、誤魔化されてくれたローレンスからの追及はなく、二人で図書室に向かう。


「今回の試験、リデルも受けてみてもよかったかもね」


 廊下を進みながら、ローレンスがそんなことを言った。


「私もですか?」

「うん。訓練が相当順調らしいし」


 本格的に魔法の訓練が始まったリデラインは、めきめきと腕を上げていった。その自覚はある。すでに初級魔法はひと通り試して、どれも問題なく発動できた。

 そして他にも、驚くべきことが発覚した。

 リデラインは魔力操作の技術が卓越しており、魔法を発動するために消費しなければならない魔力量が非常に少なく済んでいる。訓練を重ねるほど順調にその量は減っており、先日は『魔法を正常に発動させるために必要な魔力の最低量』と考えられている量を下回る魔力で、問題なく魔法を発動させてしまった。

 これは魔法の前提条件を覆す大きな出来事だ。

 魔力量が平均以下になってしまったけれど、これほどの魔力操作技術があれば、魔法使いとして生きていくうえで魔力量のハンデは大した問題にはならないと思われる。


(さすが性格以外は完璧な悪役令嬢のポテンシャル)


 とはいえ、小説ではリデラインの魔法について、こんなにも魔力消費が少ないなどという描写はなかった。リデラインは主人公たちの恋の障害となるメインキャラなので、単にそこまで詳細に書かれていなかったというのは考えにくい。

 小説のリデライン・フロストは膨大な魔力を持ったまま成長している。前世の記憶があり、魔力が少なくなったことで『魔力消費をなるべく抑えたい』と考えながら訓練に挑んでいたリデラインほど、魔力操作に意識を割いていなかったのかもしれない。

 この技術は、今のリデラインが努力の末に身につけたものなのだ。


「受験の申請、間に合ったと思うんだけどな」

「……私はまだしばらく試験はいいです」

「ジャレッドに気を遣ってる?」


 そう訊かれて、リデラインはぱちりと瞬きをした。ローレンスは柔らかい表情だ。


「今のジャレッドなら気にしないと思うよ」


 以前の関係性のままなら。リデラインが共に試験を受けて合格してしまえば、ジャレッドとの関係は悪化の一途を辿っていただろう。しかし今は違う。ジャレッドはきっと喜んでくれるはずだ。だからそこは気にしていない。


「気を遣ってるわけじゃないです」

「ならどうして?」


 リデラインはそっと目を伏せた。


「……人が、いっぱいいそうなので」


 深刻な顔で呟くように言うと、今度はローレンスが目を瞬かせた。


「……それこそ、ジャレッドと一緒なら心強いんじゃないかな」

「もう少し耐性をつけてからがいいです」

「そっか、なるほどね。うん。それなら仕方ない」


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