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43.祖父母登場です(第一話)


 ローレンスが王都に行って数日。相変わらずどよんとした空気を纏っているリデラインは、自室のベッドの上でうつ伏せになっていた。抱きしめている枕に顎を置き、小説の展開をまとめたノートを開いて置いて読んでいる。

 ヨランダの排除は成功し、ジャレッドとの関係も修復できた。

 死んでしまうことがないよう、そして王太子との接点をなるべく回避できるよう、やるべきことを改めて整理している。


(ええと、王太子と初めて会うのは九歳の時だけど、回避はわりと簡単なやつだからひとまず放っておいてもいいはず)


 フロスト家の娘というのは王家からしても魅力的な結婚相手。しかし、魔力が平均以下となってしまったリデラインを王太子妃として迎えては後世への影響が懸念されるため、文句なしの相手とは言えなくなった。

 それでも、可能性が低くなったものの、まったくなしということになるわけではない。フロストの魔法や魔法に関する知識、魔石鉱山など、リデラインを妃にすると王家のメリットになることはいくらでもある。


 ローレンスはリデラインに政略結婚はさせないと言ってくれた。両親も王家との縁を特別持ちたいとは考えていないはずなので、気にしすぎなのかもしれない。

 けれど、フロストが特権階級にあるとは言っても、王家は結局は目上の立場にある。摩擦は減らしておけるなら可能な限り少なくしたい。

 だから、目をつけられないように関わらないのが一番なのである。


 いずれはローレンスが継ぐフロスト公爵家。政略結婚は家の利益につながる手段の一つだ。それはローレンス、ジャレッド、リデラインの全員に言えることで、傍系が口出ししてこないはずがない。

 魔力が少なくなったリデラインの場合は、傍系の誰か――魔力が比較的多い者と結婚させて氷の魔法を継承させようと周囲が動くことが予想できる。そちらも面倒だ。


「はぁぁぁぁ」


 憂鬱な気分になって長いため息を吐いて、ぐるんと仰向けになる。天蓋をただただ眺めた。

 貴族、そして魔法の名門。権力欲はない家なのでゆったり暮らせるはずなのに、周りのせいで面倒なしがらみが多い。

 すべての傍系が口うるさいわけではなく、本家寄りな穏健派も存在する。しかし、フロストの名声を更に、それこそ王家よりも上げるべきだと主張する派閥のほうが圧倒的に多い。フロスト公爵家(本家)に強制できるほどの力を持つ(傍系)はいないけれど、数が多いからとにかく面倒なのだ。結託されると非常に厄介で、デイヴィッドも頭を悩ませている。


(……そういえば、先代の頃は傍系も相当大人しかったんだっけ)


 先代は当主として家門を取り仕切っていた期間はあまり長くない。それでも、フロスト家始まって以来、最高の魔法使いであり当主だと称されていたらしい。十三歳で一級魔法使いの資格を得て、他にも数々の功績をあげた天才。

 そして、そんな先代をも凌ぐ才能を持つ未来の当主がローレンス・フロストだ。


(お兄様……)


 長兄の顔が脳裏に浮かび、寂しさがまた湧く。

 しかし、気落ちしているだけではいられない。

 リデラインには前世の知識がある。小説と現実がすでにずれてしまっているので、前世で得た知識に頼りすぎるのは危険だ。けれど、役に立つことに変わりはない。

 フロスト家でののんびり生活のためには、フロスト家――領地などで起こる問題を解決することも必要になってくる。


 思考を巡らせていたところでノックの音に遮られた。

 ノートを片付けてから入室の許可を出すと、扉を開けて入ってきたベティは、ニコニコとしながら持っているものをリデラインに差し出す。


「……手紙?」

「ローレンス様からです」


 リデラインは手を伸ばしてベティから手紙を受け取る。

 王都に到着してすぐに手紙を出したのだろうか。送られてくるのが早い。


「それと、本日ご連絡があったそうで、三日後に大旦那様と大奥様がいらっしゃるそうです」


 早速手紙を開けようとしていたリデラインは手を止めた。

 祖父母――隠居生活を送っている先々代公爵夫妻とは、もう長いこと会っていない。

 引退した夫妻は、基本的に家門のことにはあまり干渉することなく生活している。そういう方針なのだろう。デイヴィッドが持っている伯爵領で暮らしているので、そちらの管理に最低限手を貸しているくらいのものだと聞く。


「一週間ほどご滞在なさると」

「そう」


 祖父母が来る際は邸が忙しくなる。リデラインは特にすることもないけれど、おもてなしの準備で使用人たちには緊張感が流れるのだ。

 祖母は穏やかでありながら厳しさも持ち合わせた人で、祖父も優しさはあるものの、当主だったこともあり厳格な面のほうが顕著だ。

 使用人は祖父母の代からいる者も多く、祖父母を尊敬しており、だからこそ気合が入るのだろう。もちろん普段の仕事を疎かにしているのではないだろうけれど、一層気を配って取り組むのだ。


(ヨランダのことかな)


 このタイミングでわざわざ祖父母が公爵邸に出向くということは、その可能性が高い。ただ、それにしては動きが遅いとも思える。

 手紙のやりとりはされていて、ヨランダの件もすぐに共有されて、ヨランダの処分には祖父の要望も考慮された。とっくに解決している。事情を把握していながらこれまで何もなかったのに、今更こちらに来るだろうか。


(……あ。来ようとしてたけど日程が合わなかったってこともありえるのか)


 色々と一人で考えても仕方のないことだ。

 それよりも、祖父母が一週間も公爵邸に滞在する、というのは困るのが正直な気持ちである。

 祖父母とはあまり交流がない。よって、どう接していいのかがわからない。人見知りが発動してしまう相手なのだ。

 だからといって避けるわけにもいかない。挨拶はしなければならないし、食事も一緒にとることになる。


 前世では母親が違うのだと知ったあと、親戚の集まりのたびに居心地が悪かったことを思い出す。そうでなくとも、年に数回しか顔を合わせない大人たちにはいつまで経っても慣れなかった。


(大丈夫かなぁ)


 不安が払拭されるはずもなく、とうとうその日を迎えた。


※「ありえる」は許容されている表現です。誤字報告はおやめください。

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