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32.仲直りしましょう(第八話)


 二色の光を放つ魔道具に、ジャレッドを含め皆が驚愕を露わにする。そんな中で、ヘクターだけが「やはり……」と腑に落ちたように呟いた。この結果が予想できていたようだ。


「なんで、これ……氷属性の反応だろ?」


 ジャレッドが困惑した声を零す。

 淡い水色の光。氷属性の適性を示すその光は、ジャレッドでは引き起こせないはずの反応だ。

 ジャレッドがずっと追い求めて、いつしか諦めた才能。フロスト公爵家の象徴である氷属性の適性。

 突然の情報に、自身の目を疑っていてもおかしくはない。


「魔力の量も増えていますね」


 魔道具に出された数値を確認したらしいヘクターの視線が、リデラインとローレンスのほうに向けられる。


「増えてはいますが、通常の感知では気づかない程度の違いです。よくお気づきになられましたね」

「最初に気づいたのはリデルだ。僕は言われて注視してようやくわかった」

「なるほど……」


 少し考え込んだヘクターを見て、ジャレッドは魔道具から手を離した。すると、魔道具の光が小さくなっていき、完全に消える。


「結界で囲われているはずの訓練場におられた坊ちゃんの魔力反応も、お嬢様が感知されたと聞き及んでおります。よほど感覚が鋭くなられたのでしょう。魔力制御の訓練の賜物でしょうかね」


 魔道具を持ったヘクターはリデラインとローレンスが座るベッドの傍らに来ると、魔道具をベッドに置いた。


「お嬢様にも精密検査を行います。よろしいですか?」

「ええ」


 ローレンスがベッドから離れ、リデラインはベッドに寝る。

 ヘクターは手をかざし、ジャレッドにしたように魔法を発動させた。その魔法が終わると、今度は魔道具を示す。


「こちらもお願いできますかな」

「……わかったわ」


 リデラインが水晶玉に触れると、程なくして淡い水色の光と白い光が放たれた。氷属性と風属性の適性を示している光だ。

 問題は、その適性ではなかった。


「魔力が六分の一ほどに減っておりますね」


 ヘクターの言葉に、ローレンスが疑問を投げかける。


「回復していないからじゃないのか?」

「いえ。これ以上は増えたとしても微量でしょう。今の段階で、お嬢様の魔力量はほぼ最大値と考えてよろしいかと」


 それが意味するところは、察しがつく。


「お嬢様の『器』の機能が低下したようです」


 魔力暴走や魔力欠乏症で体に負担がかかり、魔力が減る、という例は多くある。ただ今回は、少し違うようだ。


「ローレンス様とパーシーの見解では、お嬢様が魔力で強引に魔力変質の魔法を発動させていたということでしたね」

「ああ」

「お嬢様の症状だけであれば魔力欠乏症の後遺症と判断できますが、坊ちゃんのように魔力が増えることはありえませんし、魔法が原因と考えるのが自然だと思われます。無理に発動させた副作用、といったところでしょうか」


 顎を撫でながら、ヘクターは述べていく。


「実際に魔法を使った側のお嬢様は負荷に耐えられず魔力器官が弱まり、魔力を送り込まれた側の坊ちゃんは、余波で体質が変化し魔力器官が強まり大きくなったことに加え、氷属性の適性も得たのかと」


 到底、すぐに信じられることではなかった。そのような話は聞いたことがないからだ。

 ヘンリエッタが訝しげに訊ねる。


「そんなことがありえるの?」

「事例が確認されていませんのでなんとも……魔力の力押しで魔法を発動させる、ということ自体がかなり少ないですから。ただ、今はそれ以外の答えを私では導き出せません」


 魔法はまだ未知の部分が多い力で、ヘクターはすべてを把握していると驕ってはいない。自身が持っている知識を総動員して、一つの可能性として口にしているのだ。


「魔法で診た限り、坊ちゃんの魔力器官にはまだ魔力が溜まりきっておりませんでした。これから更に増えるのでしょう。おそらく元の魔力量の二倍程度が最大値だと推測されます」


 二倍。以前のリデラインやローレンスには及ばないけれど、かなり珍しい、とても多いと呼べる魔力量だろう。


 突然、ダンッ! と鈍い音が響き、皆の視線が音の発信源へと集まった。

 どうやらジャレッドがソファーの背もたれを叩いたようだ。


「こんなの、俺がリデラインから魔力を奪ったようなもんじゃねぇか……!」

「結果的にはそうなりますね」


 ヘクターは厳しい眼差しでジャレッドを見据えた。


「坊ちゃんの愚かな行いが招いたことです。それを肝に銘じなさい」

「っ……」


 言葉を詰まらせたジャレッドは立ち上がると、リデラインのそばまで歩み寄ってきた。


「ごめん、リデライン。ごめん……」


 ひたすら申し訳なさそうに謝罪を口にするジャレッドの姿に、リデラインは眉尻を下げる。

 リデラインは魔力が減ったことをまったく気にしていないのだ。こんなに必死に謝られるのがむしろ心苦しい。


「お兄さまの命の代価と思えば、魔力で済んだのは安いものです」

「そういう問題じゃねぇだろ!」


 ジャレッドは拳を震わせた。それは自分自身に対する怒りによるものだろう。

 魔力が多いというのは強い武器だ。特に魔法の功績が華々しいフロストでは、魔力量は魔法の才能と共に重要視されている。訓練をしたところで急激に増えることはない、生まれ持った才能。魔力が多いということは、それだけ魔法が多く使えることに直結し、ひいては魔法使いの強さの基準の一つとなる。

 ジャレッドは魔力がとても多いわけではなかった。だからこそ、その苦労を知っている。傍系たちがどれほど本家の()にうるさいのかを。


「でも、本当に気にしていません」


 そう訴え続けても、ジャレッドは更に眉根のしわを深くするだけだ。

 ただでさえ、ジャレッドはこれまでの関係でリデラインに負い目を抱えている。そこに魔力を奪ってしまったという罪悪感まで加算されては、感情がぐちゃぐちゃになっていることは想像に容易かった。

 リデラインは困りながらも、自分の気持ちをどう伝えればいいのかと考える。素直に気にしていないと告げても、ジャレッドは信じられないようだ。


「……あの、少し二人にしてもらえませんか?」


 考えた末にローレンスにそうお願いすれば、難しい顔つきになっていたローレンスは「わかったよ」と受け入れ、ヘクターたちを連れて部屋から出ていってくれた。


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