表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4(最終話)





「――金を出せ! 早く詰めろ!」


 電灯の明かり。

 にわかな喧騒。



 目が覚めると、俺はコンビニにいた。

 血で濡れた床の上に、なぜだか横たわっている。


 長い夢を見ていた気もする。


 異世界に転生し、冬眠を決め込む夢。


 あれは何だったのだろう。


 こんな状況であんな夢を見るなんて、こんな、状況で……



 ふわふわとしていた俺の頭だったが、とあるものを目にすることで途端に現実へと引き戻された。


 ――あの子が、いた。

 甘栗色の髪を揺らし、涙目で手を挙げるあの天使の姿が。



 そうだ思い出した。

 なるほどあれは夢なんかじゃない。


 俺はここで一旦死に、天国へと行った。

 そこで出会った神の依頼で異世界に転生をした後、願いが叶い、再びここへと戻ってきたのだ。


「二度目の転生、ってことか……」


 俺は呟くとゆっくりと立ち上がった。

 いや、転生っていうか戻ってきただけだから蘇生って言ったほうが正しいのか? まぁ何だっていいや。まずはこれをどうにかしないとな。



 状況はあの時から全く変わっていなかった。


 一人の小太りの男が倒れていて、全身黒ずくめの強盗が、あの子に向かい拳銃を突きつけている。

 本当に俺が死んだ直後に復活したんだな。


 俺はそのままゆっくりと強盗の方へと近づいていく。


「あ? あ、て、てめぇ、なんで」


 強盗の方も俺の存在に気づいたのか、驚きの声を上げている。

 まぁさっき頭を撃ち抜いたばかりのやつが余裕な感じで近づいてきてたら普通はビビるよな。


「クソッ!!」


 男は再び俺へと向かい拳銃を構えてきた。

 だが――遅すぎる。



 パン! と再び放たれる銃声。

 しかし俺はその弾道を予め予測し、下にしゃがみ込むようにして避けていた。


 体が軽い。


 なるほど、どういうわけか異世界で手に入れた能力がそっくりそのまま引き継がれているようだった。


「おら!」


 俺は仕返しとばかりに素早く男へと駆けより、がら空きの下っ腹にボディーブローをぶち込んだ。


 男は信じられない速度で吹っ飛び、店のガラスを貫通し、外へと飛び出していった。


「ふぅ」


 手応えはあった。

 間違いなく内蔵はズタボロになり、修復不可能なレベルにまで壊れてしまっていることだろう。下手したら穴が空いてるかもな。



「さてと」



 騒ぎの元凶が滅び、これにて強盗事件も無事解決。

 やっと平穏な日々を取り戻すことができた。


 これでようやくあの時の続きができる。


 今思えば長かった。

 いや、地球の時間軸的には作戦を開始してまだ数分程度しか経っていないのかもしれないが、俺の体感時間はそんなものではない。

 いや、正直体感時間もそんなには経ってる感じもしないが、まぁ何だっていい。


 はるばる一万年の時を重ね、俺はここへとたどり着いた。


 終わりにしよう。


 次元を跨ぎ、世界を跨ぎ、生死をも塗り替えたこの俺のファイナルフィナーレが、今始まる。



 俺は確信を持った堂々とした歩みで、俺のハッピーエンドを飾る為の最後にして重要なピース――あの子の元へと向かう。


 その子はレジの向こう側で過呼吸を繰り返していた。


 ああ、やっぱり何度見ても美しい。


 甘栗色の柔らかな髪に、華奢な体。そして何と言っても顔。

 俺が何度となく見つめてきた、神に産み落とされた天使のような子。


 いや、神はそんなにろくな感じでもないから、仏に産み落とされた大仏のような子としておこうか。嫌だな。


 とにかくその少女の可愛さに間違いはなく、目尻に涙を一杯に溜めて、パニクってる顔もすごく素敵だった。


 そうしてレジを乗り越え、彼女の横に並ぶ。


 彼女はそんな俺を見てさらに困惑したような顔をしていたが、俺は安心させるようにして、優しくはにかんだ。


 さあ、行こうか。

 あの時の続きを。

 俺の人生の全てを掛けた、愛の告白――受け取ってくれ!



「ねぇ、怖かった?」


「え、えっ? あの、あな、た……は?」


「俺か? 俺はな……君をずっと見ていた者だよ」


「……え?」


「はは、いきなりでごめんね。でも俺、もう堪えられなくてさ、今日、君に伝えようって、決めてきたんだ」


「…………」


「ふふ、まぁいざ言おうってした時に、なんか邪魔が入っちゃったけどさ、これでやっと、俺の思い、伝えられるよ」


「…………」


「君が好きだ。髪も腕も足も、爪も産毛も全部好きだ。特に顔が好きだ。もし良かったら、俺と付き合ってくれないか? 僕が一生君を守り続けるよ。愛してる。結婚しよう」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………」




「…………あの……ごめんなさい。むりです」






























































 ――ピヨ、ピヨ。



 あ、小鳥だ。



 黄色い小鳥さんたちが空を飛んでる。



 可愛いな、何話してるのかな。友達になれないかな。



 あ、待って、どこいくの?



 こっち帰ってきて。

 お願いどこにもいかないで。


 僕を置いて、遠いところにいかないでよ。



 お願い。お願いだよ。お願い、お願い……













「ふっ」


 俺は静かに微笑んだ。


 俺は彼女に背を向けると、レジを再び乗り越え、アイスクリーム売り場へと向かった。




 そして目の前まで来ると、そこにあったアイスクリームをごっそりと外へと投げ出し、空いたスペースに俺は埋まる。




 能力を操作し、隠しコマンド『∞』を選択した。


 俺はそのままゆっくりと眠りについていく。






 生物の中には冬になると長い眠りにつく種がいるという。


 それは餌が少ない時季をやり過ごし、豊かなシーズンへと命をつなぐ行為だ。


 つまり希望に満ちた前向きな眠りといえる。



 しかし人間はどうだろう。


 嫌なことがあればすぐに逃避し、場合によっては人生を諦め、自殺という形で自ら命を落とす者もいる。


 それはあまりに滑稽な話ではないか。


 自ら命を諦める。

 そんな夢も希望もない、情けない行為は取りたくないと思ってしまう。



 だから俺は眠る。

 冬を越すため冬眠する生物と同様、未来の自分を信じて眠るのだ。



 果てしなく長い眠りにはなるだろう。

 しかし自殺なんかするような、心の弱いやつよりはずっとマシだ。



 そうして、いつかまたどこかで目覚めた時に、俺は愛を唄い、神話を奏でる英雄となるのだ。


 だからその時まで眠ろう。


 さようなら。地球。


 さようなら。愛しき人々。


 さようなら。俺の心を知る者たち……








































 さようなら。




END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ