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欲望の化身  作者: 鳥串砂肝
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第3話  泰明とガリゴリ

お読みになる前に、区切るタイミングを見誤ってしまい、part毎に分けずに書いてしまいました。

30000文字以上なので、読み疲れてしまうかもしれません、すみません。

取り敢えず第3話は一本だけです、デスサイズのメンバー(依存者)との初バトルです。

よろしくお願いいたします。




第3話 泰明とガリゴリ



勝乎達は駅から少し離れた喫茶店ボボロン、で、昨夜のモール襲撃騒動の発端である、逃亡者達を探す為、窓際の席でコーヒーを飲みながら駅構内を見張る事にした。


観察する海老子駅は、商業施設と融合しており、施設内の2階、地上から5~6メートル位の高さに、一番広い改札口や券売機が設置されている、駅と各店舗を結ぶ連絡通路は、大きなアーケードになっており40~50メートル先の出入口まで真っ直ぐに伸びている。


勝乎達の出向いた、喫茶店ボボロンは、丁度3階に位置し、座った席からは都合良く改札口付近、駅前の広場を一望できる、残念ながら真正面ではないので、駅構内の奥の方までは見渡せないが、今回は仕方なしである。


可能性は低いが、例の依存者達を探すのと、サバイバルスキルの練習には打ってつけの条件である・・。


勝乎は、まずは席に着き、店員にコーヒーとショートケーキを注文し、マンチンの説明を聞いた。


(うん、いいか勝乎・・、さっき説明したよな?ノビシブルを使うと、魔羅を抑える事で他の魔羅を使ったアクションが出来なくなると、うん?。)


(魔羅を内側に閉じ込めて隠すんだよな?、他の魔羅を使ったアクション・・依存能力は勿論、魔羅を体に纏って戦うとか、抑え込みながら敵の気配を探る、なんてのも当然できないよな?。)


(うん・・普通の依存者ならな、お前は違う、俺達は融合してるんだ、他の化身と依存者とはそこが違う、普通の依存者と化身の関係は、体内に住まうか体表に這う様に共存するんだ、大半の依存者は、依存者の意思で依存能力や魔羅は使えても、サバイバルスキルを完璧には使いこなせない、依存者からの作戦指示や化身本体の本能によりスキルを行使するんだ、うん。)


(??・・えっ、どうゆうこと?。)


勝乎は理解が追い付かなかった、スキルを使いこなせないとは、意味が解らなかった。


(うん、俺達は融合して1つの体だから、俺が生成している魔羅をお前の意思で、女の体で使えるんだ、だが、他の依存者はそうはいかない、魔羅を貸し与えられてるとはいえ、必要なスキル使用時は意識を一度化身に向けなければならない、うん。)


(・・必要なスキルの発動の際に、1回1回確認してるってのか?、ないだろ?。)


(うん、イヤそうじゃない、どれだけ優れたパートナーでも、100%同調なんて出来やしないんだ、だからこそ、戦闘は依存者本人に任せるとか、日常のノビシブルなんかは化身に一任するとか、簡単に言うと役割分担だ、サバイバルスキルは化身、依存能力と体の操作は依存者、みたいな、うん。)


勝乎はなんとなくマンチンの言いたい事を察した・・つまりは、普通の依存者と化身の状況だと、魔羅を借りてるに過ぎない依存者は、魔羅のサバイバルスキルの様なエネルギーを出したり抑えたりする制御を行う事が、出来なくはないが困難で、使いたい場合は指示によりサバイバルスキルを行使する、つまり、殊、魔羅の制御に関しては通常の依存者達は完全な完成には至らないと・・。


(つまりよ、どんなにコミニュケーションとっても魔羅の制御には穴が出来るって事か?それに対して俺達は。)


(うん、そういう事だ、お前の部屋でも言ったが、俺はお前に全て任せてバックアップに専念するのが一番得策だと、今回の場合は全身の魔羅をノビシブルで抑えつつ、極少量、感知されない程度、瞳の表面に魔羅を膜の様に張ってミルセントを旨く調整してやる・・、これで隠匿も監視も両方出来るだろ・・うん。)


成程な、と勝乎は思った、そして同時に関心した。


(何と言うか・・お前実は凄い化身だったりしないか?、能力の特性とかじゃないよな?他の依存者とまだやりあった事ないからわかんねぇが・・、物凄く要領がいいよな?、他の化身はここまでサポート上手じゃないんだろ?。)


(うん、・・誉めてもなにも出ないぞ・・、それよりも、昨晩のモールでの一件の記憶を元に、例の2人組の魔羅の気配記録をお前の記憶に送ったからな・・ミルセントで2人の内の1人でも視認できたら、脳内から全身に感覚で伝わるようにしたからな、勿論、2人組以外の依存者が釣れる可能性もあるがな、・・うん。)


勝乎は直感で、マンチンが照れてると解かった、その時、店の店員が笑顔でコーヒーとショートケーキを運んできた、勝乎も軽く笑んで頷き、食器類の配置を確認してから監視作業に入った。


(定員にあんな愛想よくされるなんてめったにないな・・。)


勝乎は改めて、自身の肉体の精度の高さを感じていた・・窓際の席で、外の駅付近、役100メートル先の広場に注意を向けている最中、テーブルに置いてあるケーキとコーヒーを、ろくに見ずに口に運べるのだ、一度見た位置形状を記憶する力か、注意は外に向いているが、問題なくカップの取っ手をつかみ、あまつさえ視界外のフォークを持ち、ケーキを適量に切り分け、刺し、口に運ぶ・・、当たり前の基本動作で、これ程までに男性時との違いを、再確認させられるとは、心なしか味覚も普段より鋭敏に感じられた。


勝乎は普段、どちらかというと、1つの物事に集中すると周りが見えなくなる事が多かった、注意力が足りない、というよりかは、集中しすぎてしまう傾向にあるようだ、勝乎は少しずつ感じていた、マンチンと融合し女性の姿になると、自分がまるで第三者になってるような、自分を遠くから眺めているような、寂しいような、置いていかれるような、不思議な感じ・・。


(・・おい勝乎、聞いてんのか?うん。)


ハッ!


となり、勝乎は意識を外に向けつつ、マンチンに聞き直した。


(悪い、集中しすぎて飛んでた・・、ちゃんとしねぇとな、せっかくバックアップして貰ってんのに、これじゃ形無しだ。)


(うん、なんか気になる事でもあるのか?うん。)


少し心配気味にマンチンが聞いてきた。


(いや、悪い心配かけた大丈夫・・!?)


ざわっ・・。


背筋に何かが、走る感覚を覚えた勝乎、駅から広場へ降りる、下りエスカレーター、その中央部に、かなり柄の悪そうなガタイのいい男、ギャング帽をやや深めに被っている、ノビシブルを使っているのか、魔羅は右肩と、首の後ろ辺りに集まって、小さくなっている感覚だ、間違いない・・昨晩取り逃がした依存者の1人である。


(うん、勝乎、落ち着け・・先ずは支払いを済ませて外に出よう、アイツは広場の方に向かってるから人混みに紛れて追おう、うん。)


勝乎はテルセントで、視覚感知した依存者の魔羅を、感覚を研ぎ澄ませ、視界から外れた状態でも、逃さないように努めた、対象が依存者1人に絞れているだけあり、神経こそ使うものの、照準済みの依存者の追跡は、充分可能である、並の依存者にとっては、スキルの同時併用は、超難易度の神業に等しいが、1つの肉体を2人の人格で使える性愛種にとっては、多少困難ではあるが、決して不可能な領域ではない、これは性愛種の大きなメリットの1つである。


勝乎は会計を済ませ、一呼吸置いてから店を後にした。


感覚はまだ消えていない、広場を抜け、旧市街の方へ歩いている、勝乎は人混みや曲がり角を使い、上手く距離を取りながら尾行を開始したのだっだ。


ターゲットと同じスピードになる様に、上手く帳尻を合わせ尾行をする、距離は直線距離に換算すると、40~50メートル程まで詰めただろうか。


(うん、なかなかミルセントとテルミトの扱いが、始めてにしては上手いな・・、最初の内は視認した後に眼を離すと、大抵テンパって標準が解けちまうんだが、やはりお前は順応力がかなり優れてるな、うん。)


(テルミト?・・まあいいや、お前のバックアップが有能なんだろ?、お前に体内の魔羅を、コントロールしてもらえなければこんな事、まず出来ねぇからな、つーかよ、今尾行してるやつ、かなり魔羅の放出量?・・いや、抑えてるから放出量じゃねぇのかな・・なんつーか、存在感?でかくねぇか?。)


(うん、良くわかったな・・、ノビシブルで抑えてはいるが、有り余るエネルギー量を発散したがってる、アイツは間違いなく食生種(アピバル)の化身と契約した依存者だな、うん。)


(俺でも勘づくって事は、アイツはまだまだ未熟な依存者って考えていいのか?。)


(うん、未熟ではあるが、正直お前より格上だと思う、今のお前は感受性が敏感になっていて容易に勘づいたが、普通の依存者や化身なら、本来は悟れないレベルには抑えている、未熟だがなかなか才能がありそうだ、うん。)


(・・俺より強い感じか?。)


(うん、どうかな・・、魔羅の総量は間違いなく向こうが上だが、総合戦闘力の高い俺達なら、倒せないレベルじゃないと思う、要は相手の能力次第だな、あと状況、うん。)


暫くするとターゲットは、建設途中の工事現場に入っていった、何かの施設だろうか、内装の鉄筋コンクリート部分が露出し、所々、風化しており、長年手付かずである事が伺える。


外見上、4階建ての横長の施設だが、工事が遅行なり中止なりして、野晒しになっている様だ、ターゲットは寂れた廃墟に入っていった。


(・・マンチン止めんなよ、行くぜ。)


(うん、まずは廃墟の全体像を観察したい所だが・・囲いが邪魔だな、廃墟に敵が複数居ても、心理的に警戒はしてないだろう、恐らくテルセントの心配はない・・依存者である以上、必ず通らなければならない道だしな、最大限バックアップするよ、うん。)


勝乎は、工事現場の敷地前の歩道の端に、乗り捨ててあった壊れた原付から、サイドミラーを拝借した。


勝乎たちは意を決して、工事現場の廃墟に乗り込む事にしたのだ、もし仮に廃墟の中に依存者が複数人いる場合でも、テルセントでの警戒はあり得ないとマンチンは考える・・。


何故なら、大半の能力者は日常に於いて、テルセントやミルセントには重点を置かず、ノビシブルで普段から最大限警戒しているからだ。


テルセントやミルセントを使うと魔羅を使用するので、逆に探知されてしまう可能性が高く、日常生活を送る上で必要なのは、基本的には魔羅を体内に抑え込むノビシブルである。


勝乎の様に、単独で隠れながら相手を探り当て、追い詰める事が出来る依存者は、ほぼ、同じ性愛種に限られるであろう。


故に、実際の所は日常生活では、そこまで警戒しないのが、本来の依存者である、不意に戦闘が起こり魔羅を使用すると、当然周囲にいる依存者に察知される可能性が、極めて高くなる(周囲に居なければ話は別)。


故に、戦闘が終わったら、ほぼ間違いなくテルセントを行う、自身の戦闘を探知、観察していた他の依存者に、戦闘する意志が有る無しに関わらず、手傷を負っている場合や戦闘を避けたい場合は、他の依存者が、自身を察知出来ないで有ろう場所まで、考えうる最大限のやり方で逃げる・・それが基本である。


人目の無い場所に逃げ切って、安全を確認してから、ノビシブルで日常に溶け混むのである、ややこしく面倒な話だが、そういった警戒や駆け引きは依存者なら、だれもがやっていても不思議ではないのだが、多くの依存者達はそういった難題を別の方法で補う事が殆どである。


それは単純明解、組織で動く事である、単独より遥かに安全性は上がる。


協力共闘し、役割の分担を行えば、死角も全くと言っていい程無くなるのは当然である、だがそれは、上手い具合に組織が厳格に機能してればの話だが・・。


途中、標的依存者は後ろを振り返る事も無く、挙動もおかしくなかった、尾行に警戒してはいないようだ、廃墟に訪れた理由は不明だが、本当の意味で単独かもしれない。


状況や理由は不明だが、昨晩の騒動に関与しているのは間違いないのだ、多少の危険は覚悟で進むしかない。


勝乎は工事現場に入る前、拝借したサイドミラーを使い、囲いの裏側、廃墟の出入り口、廃墟の見える範囲を確認した、当然だが、見張りは立っていないようだ。


ミルセント時の標準はまだ有効、脳内にハッキリと位置が見てとれる、どうやら、最上階の奥の方の部屋に居るようだ。


敵陣に乗り込む為か、勝乎は柄にもなく緊張していた、その緊張を感じ取ったマンチンは、緊張を解す為、事実を諭す。


(うん、勝乎・・正直、廃墟の外に見張りが居ない時点で・・いや、群れで動いてると仮定しよう、その時点でそこまで警戒はしていない筈だ、何故なら防衛の為のテルセントやミルセントは殆ど意味が無いからだ、魔羅を表出させ、自身の居場所を申告するのと同義だ、テルセントとミルセントの本来の使い所は戦闘時だ、うん。)


(そういう話だったな、探る為に魔羅を周囲に知らしめるのは寧ろ逆効果だと、普通だったら警戒の為には出さねぇな。)


(うん、そうだ、本来は敵の襲撃を受けた時に、状況確認の為に使う能力なんだ、テルセントは周囲の害意有る敵数を認識する為に、ミルセントは強敵を隈無く観察する為の技術だ、ただ、俺達リブドーラは特性上、魔羅のコントロールが抜群に優れているから単独で、隠れながら追ったり、追いながら隠れたりが得意なだけで、他の系統はまず、そこまで重点を置かない、イヤ、置けないんだ・・うん。)


(つまりよ、襲撃ってのは完璧には防げねえから、最初から悟らせないのが重要って訳だな、俺達みたいに魔羅を隠しながら、絶妙なコントロールで探す何て芸当は、他の依存者には無理な訳だ、だから魔羅を極力使わない手段、仲間で協力だとか、日常は絶対に魔羅を表出しないだとかの、心掛けが重要・・、つうかそれでやってくしか無いって事だな?。)


(うん、そういう事だ、俺達リブドーラ種は圧倒的に数が少ない、故に俺達のような密偵探索が得意な化身や依存者というのは度外視されていると考えていい・・、だから、うん。)


(安心して潜入しろと・・、相手も暗黙の了解・・つーのはおかしいか・・、心理的に敵が攻めて来る事は無いと、高を括ってるから、迎撃は無いと、そうだな?。)


(うん、建造物の中だからな・・、出会い頭ってのは注意しなきゃならんが・・、まず建物内にいる奴らは、警戒してはいない筈だ、うん。)


(わかったよ・・お前を信じる、まぁ良くも悪くも、魔羅のサバイバルスキルは諸刃の剣だと、日常では多用できないから、潜入なんかは寧ろ、サバイバルスキルは、ノビシブル以外は役立たない訳だな、だから皆ノビシブルで隠れてると・・、探知はしてこないから、視覚や聴覚による情報漏洩に努めろと、そういう事だな?。)


(うんそうだ、耳タコかもしれんが、サバイバルスキルは正しい使い所がある、今の状況の様な潜入は、ノビシブルを使い、お前が今やってる様に、死角から鏡で確認しながら、とかが良いだろう、更にいうと潜入は控えて、徹底的に対象を調べあげる、それがセオリーだが何より・・、引く気はないんだろ?、うん。)


(ああ、まどろっこしいのは御免だ、とっととぶっ潰してやる、行くぜ!。)


マンチンは昨晩は止めたが、今回は止める気はなかった、今日1日過ごし、会話をし、彼の感受性の高さなら、自分のバックアップを併用すれば、格上相手や、多人数の依存者との戦闘も、可能だと考えたからである、なにより、どこかで踏ん切りをつけ、実戦闘は経験させなければならない、今のこの状況を、修業の一環として利用していかなければ、彼の成長はあり得ないと。


勝乎は指示通り、物陰に隠れつつ、警戒しながら進んでいった、やはり、敵の警戒は薄い様だ、外面通り廃墟は人の気配が無く伽藍としていた、薄暗く横に広い・・不気味な感じ・・。


人がたまに訪れるのか、壁には落書きが目立ち、ゴミが散乱しており不衛生だ。


奥に進み、階段が目の前に現れた、1階から最上階の4階まで警戒しつつ、石橋を叩く様に上がっていった、階段の途中、西日が差し込む小窓が、夕暮れを告げていた、4階に上がる途中、魔羅の感覚探知ではない、人間が本来持っている感受性が勝乎に信号を送った。


居る、かなりの数の気配が、上がりきって、直ぐ左、一番端の、通路に直面した部屋だ、勝乎はとりあえず通路を注視し、人が居ないのを確認した、そして、多数の気配を感じる部屋の前へ、流れる様に移動した、その部屋はそこそこ広いホールの様な一室になっていた。


室内をミルセントを使いながら、鏡で覗いた、一瞥した瞬間に理解した、室内の真ん中に並列する10人前後の男達、全員が寄生型の依存者だ、そして、彼らの前にいる2人、1人は言わずもがな、駅からつけてきた依存者だ、ガタイが良く色黒で、もの凄く強そうだ、年は勝乎より上で、透とタメといった所だろう、ギャング帽を被り、服装は俗に言う不良ファッションの出で立ちである。


そして・・もう1人を一瞥した瞬間、昨夜の気配を思いだした、モール内で非常通路の先にいた男、もう1人は。


・・ドクン・・っ・・。


知っている、勝乎はこの男を知っている、何度も争ってきた・・先日も学校で絡んできた男、勝乎とは浅からぬ因縁がある男、大和竜二である。


(嘘だろ・・大和!?、なんでアイツが・・依存者だったのか・・、アイツがモールを襲撃してやがったのか?、まさか知り合いが依存者だったなんてよ、夢にも思わなかった・・。)


マンチンが勝乎に尋ねた。


(うん?勝乎の知り合いか?、身内じゃないよな?、アイツとはどういう関係だ?うん?。)


(・・隣のクラスの大和竜二・・、俺達が以前からやりあってるグループの野郎だよ、アイツが依存者だったなんて、何時からだ・・?。)


勝乎は、鏡ごしにミルセントで大和竜二を観察した、右肘の裏辺りに魔羅が小さく集まっている、ノビシブルで抑えているのだ。


先日の朝、竜二は勝乎に突っかかっている、その際に見た彼とは、まるで別人に見えていた、抑えているが禍々しい程の気配を感じる、以前から危険な気配を漂わせていたが、依存者になってから観察する竜二は、以前にもまして黒々とした悪意を纏った男に見える。


(うん、勝乎、少し様子を見よう・・、並列している寄生型はともかく、着けて来た男と、お前の知人は能力が未知数だ、奴等が分断するのを待つか、いずれにせよ2対1はリスクが高過ぎる、会話を盗聴して作戦を考えよう、うん。)


(・・わかったよ。)


勝乎は室内の会話に耳を立てた・・。


マンチンは、勝乎の網膜に纏ったミルセント用の魔羅を、移動させ耳全体を魔羅で強化した、通常より聴覚も優れているし、まず問題ないが、万が一にも聞き漏らしが無いように、マンチンのサポートである、話の内容が耳に入ってくる。


「おう大和ぉ、お前のその能力は気味悪いし胸が悪くなるが、中々使いがってがいいな、健三さんが珍しく誉めてたぜ、あの人、お前とはタイプは違うが、同じドメニティーだからな。」


「そいつはどうも、つーか松田さん、そろそろ本題入りましょうよ、俺に何か用ですか?、昨晩、俺の能力を見ときたいってゆーんで、ワザワザ適当なカスども引き連れて、お見せしたじゃないっすか?まだ何かあんすか?。」


尾行男、ギャング帽の男は松田というらしい、オマケに大和はドメニティーの依存者確定、健三なる人物名も出てきた、話は続く。


「お前も知ってんだろ?、幹部の厚木沼健三を、アノ人からの直々の命令だ。」


ギャング帽の男、松田泰明(まつだやすあき)は懐から煙草を取り出し、火をつけて吸い始めた、煙を吐き出し、厳しい表情で鋭い眼光を光らせ、竜二に強い口調で質問を続けて投げた。


「大和ぉ・・てめえ、幹部に隠れて好き勝手にやってるみてぇじゃねーか、聞いたぜてめえ、薬流してるって話しじゃねぇか?どうゆう事だよ?あっ?。」


竜二は軽い口調で悪気無く答えた。


「だれに聞いたんすか?俺じゃないっすよ、松田さんの聞き間違いじゃないっすか?、俺は薬やんねぇし興味もねぇすよ、それに、俺が入る前から薬は出回ってましたよ・・俺は関係ないっすよ。」


「寝ぼけてんじゃねぇぞ大和・・、確かにうちは基本ルールは無ぇ、が、薬は暗黙の了解で禁じられてんだ、てめえが入ってから組織内の様子が一変しだした、特に下の連中はな、幹部はお前の事を使える人材と認識する反面、危険要素だとも考えてんだよ、わかるか?。」


「はぁ・・信用ねぇなぁー俺も、でもね松田さん、今言ってたじゃないっすか、ルールは無いって・・、くどい様ですけど俺は薬なんて流してないっすよ?、仮に他の人間が薬を組織内に持ち込んで蔓延させたとしても、それは本人達の問題なんじゃないですかねぇ?、断固たる意志で拒むのが、強い人間の証しですよ、そんなもん、売り手じゃなくて買い手が悪いんすよ、それに、俺達デスサイズの暗黙の了解、俺は他の幹部の人から聞いてますよ、デスサイズは余計なルールは無い、完璧な実力主義組織だって。」


泰明は蟀谷をヒクつかせながら、竜二を睨みながら言った。


「何言ってやがる・・、組織の土台である下のもんが崩れたら、組織全体の瓦解に繋がるぜ、そうなりゃあ俺達だって他人事じゃあ無くなんだぜ、わかってんのか?。」


竜二は面倒そうな表情で淡々と言った。


「松田さん・・、くどいっすねぇあんたも、いちいち気にしすぎじゃないっすか?別によぉ、下のカス共なんか、居たって大した役にもたたねぇじゃないっすか?、減ってもまた沸いてでて出きますよ・・クズだから、弱い奴等が悪いんすよ、それに・・。」


竜二は並列する、寄生型依存者の内の2人に指差しし、合図を送り、自身の前まで歩ませた、そして・・。


「幾らでも増やせますよ、道具なんてのはね・・。」


竜二が手を前に翳すと、その2体の依存者同士がぶつかった、ぶつかった状態から肉体が捻れ、一ヶ所に依り集まっていき、肉塊の様に変貌していく、竜二は邪悪に薄ら笑っている。


「うぎ・!!?・・ぎゃあビャあ~!!?いぎゅうぅあぁぁ~。」


ごちゅ・・ぐちゅ・・びじゅるぶじゅる。


・・肉塊は形を変えていく・・。


その物体は、人間であったであろう、面影を少しだけ残していた、ハンドル部分は両腕で、ライトのつもりだろうか、2人の寄生型依存者の眼球が、計4つ、正面に付いている、それ意外は、最早人間であったとは思いたくない、その位恐ろしく、禍々しく、悪意に満ちたフォルム形状をしていた、見ようによっては人間、また、見ようによっては、近未来のスカイバイクの様だった、車輪は付いていない・・グロテスクで非人間的な事この上ない。


「・・ちっ・・、相変わらず悪趣味な能力だ、俺もクズの部類だが、お前のは上限がねぇな、柄じゃねぇがそいつらに同情するぜ。」


「良い能力でしょ?、名付けてディスサイクル(人間リサイクル)俺の脅しに屈した人間を支配し操り、乗り物に変える能力・・、これでわかったでしょ?あんただって依存能力持ってんだからさ、弱い人間なんていちいち目を掛けるだけ無駄なんすよ、人数をどうしても欲しいなら、その辺にいるボンクラ共を脅しゃあいいんすよ、分かります?。」


「バカ野郎・・てめえは加減ってのを知らねぇのか?てめえの能力は目立ち過ぎんだよ、てめえみてぇに見境無くやってったら、直ぐにでも警察や他の組織が嗅ぎ回ってくるぞ、幹部連中もそれを気にしてんだ・・いいか・・。」


目の前で人間が、悲鳴を上げて異物に変換された・・、勝乎は込み上げてくる吐き気と、抑えようのない怒りで気が狂いそうになっていた・・。


(・・んだよ、あれ?人間が・・っえっ?あれ人・・だよな・・何で?えっ、許されんのかよ・・ざけんな・・。)


(うん、勝乎・・堪えろ、これは現実だ、アイツはドメニティーの依存能力で、支配した寄生型を自分の都合の良いものに変えて、服従させてるんだ、うん。)


(大和・・やろぉぉ・・。)


勝乎は今まで、幾度と無く竜二を蔑如してきた、1年前、まだ2人が中学3年生の頃、隣町に住んでいた竜二が勝乎の学校の女子生徒をカラオケボックスで、取り巻きの後輩達と輪姦した。


その報復に、勝乎は徹底的に大和竜二を追い込んだ、喧嘩では勝乎の方が明らかに強かった、何故なら、事件に関係した、竜二の後輩達全員を相手どり、5対1で5人共病院送りにしたのだ。


竜二には特に念入りに脅しをかけたが、最後まで屈しなかったので、気絶させて報復を終了したのだ、その事件は結局、女子生徒の事もあり、有耶無耶になって終わってしまった。


2人が再開したのは高校の入学式、奇しくも同じ学校に進学していたのだった、因縁の再開である、双方の間には取り払えない因縁、確執が渦巻いているが、竜二としては雪辱を晴らし勝乎に同じ苦しみを与え、リベンジしたい所ではあるが、学校には2つ上の葉山透がおり、大人しくする意外なかった。


勝乎も、経緯が経緯だけに、余り大事にはしたくなかった、故に今日まで、相互不干渉に徹していたのだ。


だが、それも今日で終わる、昨日、突然、宣戦布告とも取れる発言をしてきたのは、依存者になった事で勝乎と透を、始末出来ると考えたからであろう・・。


背景はどうであれ、勝乎は堪える事が出来なかった。


(マンチン・・悪いな、あの野郎は人間として許せねぇ、それに、隠れて様子伺ってるなんて今の状況、俺は認めたくねぇんだ。)


(!?勝乎!?。)


そう言いながら、勝乎は隠れるのを止め、2人の前に姿を表した、少しずつ歩み寄っていく。


・・突如現れた謎の美女・・、悪巧みをしていた2人は虚をつかれた、彼らの驚き様を見るとやはり尾行は完璧だった様だ。


マンチンは勝乎を、宥め切れなかった事を公開していた、話の内容からすると、連中は組織で動いている、その組織の情報、この2人のもっと詳しい情報を、聞きだしておきたかったのだ。


更に言えば、未確認という立場を利用し不意打ちするのが妥当である、自身の居場所を晒すなど、あってはならない愚行である、仕方なくマンチンはノビシブルを解き、テルセントに切り替えた。


「・・松田さん、この女だれっすか?松田さんの女じゃないっすよね?。」


「驚いたぜ・・どっから湧いて出やがった?、・・おい女、俺をつけてたのか?、そんな殺気立ててよ、偶然居合わせたわけじゃねえよな?。」


勝乎は、どす黒い感情に支配されつつあった、竜二の一連の残虐非道な行動、それを咎める事なく、怒る事も、止めようともしないこの男にも、自身の体の奥底から、マグマの様に静かに沸き上がるエネルギー、知恵ある化身、正規の依存者との戦闘はこの日が初である、が、すでに迷いや恐れ、遠慮は無く、脳ミソが命じるまま、暴れ回るだけである。


(うん、おい落ち着け勝乎!迂闊に近づくんじゃあないぞ、十分に警戒しながら近付くんだ・・うん!。)


マンチンの言葉は頭に入らなかった。


「おいおい・・この女マジでやる気だぜ!、おっ!?、おっかねぇ目付きしてるけど良く見るといい女じゃねぇか、松田さん、この女は殺さずに俺に下さいよ・・、いいでしょ?。」


「あっ?大和、てめえ何言ってやがる・・あんまり調子に・・。」


ヒュン・・。


瞬間、2人の意識、視界から勝乎が消えた、竜二は反射的に後ろに飛び退き、泰明は反応が遅れた、というより追いつかなかった、注意が竜二の方に向いていたからである、勿論、ある程度は意識していたが、突如自身の左横に現れた女、目にも止まらぬ高速の右ストレート。


ボッ・・。


泰明の左頬を撃ち抜いた。


ゴシャ・・。


泰明は部屋の入り口の外まで飛ばされていった、距離にして大体10メートル、勝乎は手応えを感じていた。


最悪、殺してしまったかもしれないが、その男も非道な人間、心は多少痛むが、沸き上がる、ドス黒い感情によって、そこまで罪悪感はなかった、死んでいないにしても、確実に気絶している筈だ、何れにしても、最早脅威にはなり得ない。


勝乎は怒りの元凶、竜二を睨みつけた、睨まれた竜二は、先程までの態度同様、悪びれる様子も無く、勝乎に話しかけた。


「へぇー・・やるじゃん・・、松田さんが反応出来ないなんて、女の身体能力じゃあねぇな、お前も依存者だろ?何が目的だよ?俺らに楯突いて無事に人生終えられると思ってんのか?あっ?。」


竜二は、勝乎をごく自然に観察しながら話をしだした、戦闘になり、ノビシブルを解き、自身の化身に指示し、魔羅を目に集約していたのだ。


この女の魔羅は少しおかしい、意識が外れていたとはいえ、あの武闘派の松田が反応できずに、10メートル近く吹き飛んだ、魔羅を腕に収束させるとかで出来る芸当ではない、その答えは直ぐに判明した。


竜二のミルセントはかなり優秀で、魔羅の流れや、強さの識別だけでなく、魔羅の反響や濃淡で肉体内部のフレーム(骨格)をうっすらと象り、知る事ができ、レントゲン写真とは言わないが、骨格の大体の形状や強さは理解できる。


魔羅が全体的に、肉体の内側に向かう様に静かに流れている、目を見張ったのは骨格の形状だ、恐らく普通の人間とは全く違う、改造された骨格だ、ボンヤリと見えているので断定は出来ないが、その骨格は非常に高濃度の魔羅を帯びている、否、魔羅を生成しているようにも見える・・導き出された結論は・・。


「心配すんなよ、ゲス野郎・・てめえも直ぐに粉々にしてやるからよ、二度と外歩けねぇぐらいに、面を崩壊させてやるよ。」


「強がんなよ・・糞アマ・・てめえの化身、リブドーラ種だろ?、性愛・・だっけ?ピッタリじゃん?女なんて男の玩具じゃねぇかよ、おめぇも男に股開いて喜んでる淫売の一人だろうがよ?。」


(うん、勝乎、アイツは中々に厄介なドメニティーだ、支配能力も高いし、洞察力もかなりの奴だ・・経験上、ここで奴を倒しちまったほうがいい、能力で人数集められたら厄介だ、ここは一気に、うん?勝乎?。)


勝乎はマンチンの話を聞いていなかった、自分を挑発した事にも怒りを覚えるが、非人間的な、人間の尊厳を、軽々踏みにじる行為や発言を、平気でする竜二に対する、怒りのボルテージが限界値を突破したのだ。


「だれがバカ女だって?あっ?女が全員てめえらみてえなクズに屈服してるわけじゃねぇんだよ、・・イカれたサイコ野郎が反吐がでるぜ、死ねよ、ゲス野郎が。」


勝乎は攻撃をする為のモーションに移った、流れるように恐ろしく素早く、

先程殴り飛ばした泰明の様に、右ストレートを叩き込む為の態勢である、尤も今度は真正面から・・顔面を潰す為に。


だが、ドメニティーの洞察力は流石である、勝乎が行動を開始するより前に、既に行動を起こしていたのだ、残りの寄生型8人を自身の前や横、勝乎の周囲にも数人呼び寄せ配置していたのだ、動きが緩慢な寄生型だが勝乎が怒りで焦燥し、周囲警戒を怠ってしまったのだ。


「・・大和てめえ、そこ動くんじゃねぇぞ、直ぐ面潰してやるからよ。」


竜二はニヤニヤしながら、おちょくる様に勝乎に警告した。


「おいおい糞アマぁ、この人数だぜ?無事に帰れると思うなよ・・それに・・、俺らとばっか遊んでていいのか?あ?。」


瞬間、勝乎はマンチンに感謝した、自分が怒りで感知を怠っていたのを、変わりに補ってくれていたのだ、マンチンから脳内に危険察知の感覚が送られてきた。


ピリッ・・。


自身の顔の約1メートル先、左横から何かが飛翔してくる、勝乎は人間離れした動体視力で飛翔物体を認識した。


・・石だ・・超高速で飛ばされた、その石は、先程来た通路の方向から、飛ばされてきたのだ、勝乎は顎を前に出し、頭を後ろに少し下げ、腰を前に出すやり方で何とか回避した、石は自身の眼前を高速で通過した。


バガーン!!・・ガラガラ・・。


右側の壁の一部が崩れ、大穴が空き、夕陽が射し込んでいる、その淡い夕陽を一瞥した勝乎は。


ゾクッ、


と、身震いした。


マンチンが、自分の意識外だったテルセントを保持してくれていた。


冷静に戦況を確認しており、自身の脳内に、直ぐ危険信号を送ってくれなければ、自身の顔面はぐちゃぐちゃになっていたであろう、息が弾み、冷や汗をかいた。


(悪いマンチン・・恩に切る・・。)


(うん、勝乎!あんまり自分の力を過信するな!怒りで我を忘れるなんて、一番あっちゃならない事だぞ!自身がまだ能力に目覚めたばかりだと自覚しろ!うん。)


マンチンは言葉では叱責したが、内面では凄く勝乎の事が誇らしかった、目の前で起こった惨劇による、嘔吐感を怒りで抑えこんだ戦闘向けの性格、無関係の人の命や尊厳の危機に抗いたいと願う人間味のある優しさ、彼の人格は間違いなく性愛種に適合したものである。


だが、感情的になるのは仕方ないが、感情のコントロールが身に付かなければ、到底戦い続ける事など出来ないのだ、彼をパートナーとして尊敬しているからこそ、時には叱ったり、叱られたり、意見を述べあったり、深く追及したり、しなければならないのだ。


勝乎は自身を恥じた、恥じた事で頭がスッキリしたようだ、直ぐにテルセントで周囲を警戒し、投石の方向を警戒しながら、竜二と、寄生型にも意識を向けた。


真後ろに立つ寄生型に、ひじ打ちを入れ気絶させた、そして周囲を囲む寄生型の攻撃を、後方に飛び回避した、間合いをとり視野を広げた。


前方には寄生型と、竜二、左奥前方は投石の飛んできた方向である、テルセントの感覚で寄生型には害意を感じるが、竜二からは悪意こそ感じるが、特に戦う意思は感じられなかった、問題はやはり・・投石の方向だろう、この方向はやはり。


「はっはっは・・松田さん、ビックリっすよ、一撃でやられちまったのかと思って心配してたんすよ、大丈夫すか?手伝いましょうか?。」


泰明だ、勝乎が入ってきた入り口から顔を出してきた、その顔は腫れ上がり、口を切ってるからか、かなりの量の出血を被っていた。


「うるせぇぞ、大和、ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねえ、ぶっ殺すぞ、それに。」


泰明は勝乎の方を見て余裕そうに言い放った。


「女にしてはやるな・・首が捻れ飛んだかと思ったぜ、大和の言う通り、リブドーラ種みてぇだな、気に入ったぜ。」


泰明はノーダメージではないが、全く応えていない、やはり4種類中、尤もタフガイである食生種(アピバル)の依存者である。


マンチンは焦っていた、如何に肉弾戦に優れたリブドーラでも9対1、否、寄生型は大した戦力にならないと仮定し、2体1でも、かなり不利な戦いになると容易に想像ができる、どうすれば圧倒的不利なこの状況を打破できるか、出来れば竜二を先に始末し、余裕を持った状態で泰明と戦いたい、マンチンはそう考えていた、だがここで、竜二が予想だにしない言葉を口にする。


「じゃあ松田さん、その女は松田さんに譲りますよ、その女ムカつくし、犯して泣かしてやりてぇけどあんたが始末するんすよね?、俺に手ぇ出すなと、そんな面してますよ、今のあんた。」


「わかってんじゃねぇか・・この女は俺の獲物だ、とりあえず今日の説教はここまでにしといてやるぜ、とっとと失せろ、だがな大和、肝に命じておけよ、あんまり調子に乗ってると、組織にてめえの居場所はなくなるぜ。」


獰猛な獣のような鋭い視線で、竜二に睨みをきかせる泰明、それに対し竜二は。


「そんなにツンケンしないで下さいよ松田さん、争わず仲良くやりましょうや、俺はあんたの顔を立てて退散するんですからね、そこは忘れないで下さいよ・・、って事で、そろそろ俺はお暇しますよ、精々、殺されないように頑張って下さいよ・・、女にやられたとあっちゃ笑い話しにもなんねぇすからね、それじゃ・・。」


竜二は先程、ディスサイクルで作った、人間スカイバイクに股がった、すると、そのバイクは不気味な呻き声と共に、エンジンの振動の様に震えだし浮き始めた、悪趣味だが、動かせる状態にしたらしい、その状態で右手で掴んだ方の腕、(ハンドル)をバイクのアクセルを開けるのと同じ要領で開くと、バイクは緩やかに動きだした。


(うん!?何だこれは、空飛ぶ乗り物か、悪趣味だが勝乎、今の状態で相手が引くと言うんだ、ここは相手の奢りや怠慢を利用しよう、アイツは学校の同級生で顔が割れてるって話しだから、後で始末できる訳だ・・分かるな?うん。)


勝乎は正直納得出来なかった・・が、マンチンの先程の叱責を思いだしていた、やはり、受け入れなければならない事も存在する、危機を救ってくれたマンチンの為にも、彼の考えに従う事にしたのだ。


(わかったよ、頭冷えたわ・・、さっきは御免な、そしてありがとよ、マンチン。)


(うん。いいさ、これからだ、うん。)


「じゃあな、糞アマ、もし生きてて、今度会う事があったら覚悟しとけや、女に生まれた事、後悔させてやるよ、けっ。」


「抜かしてろよ・・殺される覚悟もねぇゲス野郎が、このゴツいのぶっ飛ばしたら次は間違いなくてめえを殺す・・今日みたいに逃がしたりはしねぇからな・・。」


「バカか糞アマが、口の聞きかたに気を付けろよ・・そんじゃ、改めて、失礼しますよ松田さん・・ああ・・それとそこのカス共は餞別です、松田さんに死なれるとバツ悪いんで、上手く使ってやって下さいよ、別にぶっ壊しても構わないんで、それじゃ・・。」


そう言うと竜二は、先程の投石で空いた大穴から、スカイバイクで飛んで行ってしまった、これで8対1、寄生型は元々、大した脅威ではないので事実上、1対1である。


「大和・・あの小僧ぉ、調子にのりやがって、こんな雑魚共いらねぇよ・・おい女、待っててやるからコイツら片付けろ、それとも、俺がさっきみてえに石飛ばして、こいつらの頭吹っ飛ばして、手伝ってやろうか?・・どうする?。」


(うん、どっち道、寄生型は大した戦略にはならない筈、先に気絶させた方が後々有利に事を運べそうだ・・だが、一応、奴への警戒を怠るなよ、うん。)


(・・わかった、力貸してくれ。)


勝乎は、目にも止まらなぬ神速で、残りの寄生型7対を次々撃破していく、手刀に掌低、時には手の中指を曲げ人中を軽く突くなど、その一連動作は流麗で漫画で読む戦闘描写の様であった、泰明は理解した・・この女は強い・・殊、肉弾戦に置いては、先程までこの場にいた、生意気な竜二では、問題にならない領域である、ハッキリ言って肉弾戦なら自身より強いだろう。


だが、そこは世の中の常で、それだけでは勝敗は決しえない、何より依存者にとって一番重要なのは、依存能力と魔羅のサバイバルスキルの駆け引きであると、泰明は考えている、実戦向けの能力ではなくても、魔羅のサバイバルスキルを駆使したり、綿密に計画し、状況を整え、自力を最大限発揮しうる戦闘環境を作れば、例え自力の劣る者でも、強者を相手に勝利する事は、決して不可能ではない。


今回の場合は直感だが、肉弾戦は女、魔羅のサバイバルスキルや依存能力の優位は自身に分があると考えていた。


数秒先に起こるであろう戦闘に、少し高揚感を抱きつつ、泰明は勝乎と寄生型達の戦いを見守った・・。


ドサッ・・。


最後の寄生型が倒れた、寄生型は全員、依存者を解放し消滅していった、寄生されていた依存者は、まだ1人も目を覚まさない、これからサシでやる事を考えれば、少し心配ではあるが仕方がない。


勝乎は泰明を見た、泰明からは凄まじい程の魔羅が放たれている、自身の魔羅が内側で充実して流れているのに対して、泰明の魔羅は外に向け、体表を迸っているようだった、一見すれば、魔羅の総量では自身が劣っている感じだ。


「俺の名前は松田泰明・・デスサイズのメンバーだ、お前は名前なんてんだ?。」


「てめえらみてぇなクズに名のる理由はねぇよ・・。」


「ふん・・まぁいいだろ・・じゃあ女、準備はいいな?。」


「・・来いよ、いつでもいいぜ・・。」


泰明は笑みを浮かべた、その時だった、泰明の右肩と首の間から。


ゾゾゾ・・。


っと黒い影の様なモノが、うっすらと浮かんできた、その黒い影は、次第に実態を帯びて、勝乎の視界にもしっかりと顕現した。


姿型は寄生型の様に、液体や半液体のような印象だ、形は長いというよりも大きな感じだが、決定的に異なるのは表情である、寄生型は表情を例えると抽象的な、表情の無い能面の様な、ムンクの叫びの様な顔立ちだが、目の前の知恵ある化身は違う、こちらを見て目を合わせてきている、そして、表情豊かに笑っているのだ・・。


「コイツが俺のパートナーだ・・食生種(アピバル)の化身で、名前はガリゴリってんだ、コイツがお前の魔羅を貪りてぇとよ、悪く思うなよ?。」


(うん、勝乎気を付けろ・・今のまま、テルセントで範囲探知しつつ、先を予測しながら戦うんだ、魔羅の微調整は俺に任せて、目の前の攻撃を一つ一つ対処しろ・・、間違いなく先程の投石が今度は連続で来るぞ、お前なら処理出来る・・構えろ。)


瞬間、アピバルの化身ガリゴリは口をすぼめた・・。


来る!。


勝乎はテルセントの範囲探知を意識しつつ、自身の空間認識能力、動体視力、回避能力、等、感覚を研ぎ澄ませ、迎撃の態勢を取った・・。


勝乎は、研ぎ澄まされた過度な感覚の影響か、自身の存在する世界が、あたかも止まったかの様な錯覚に襲われていた、口をすぼめた化身の、口角付近の微かな動きの変化で、射出する飛翔物体の大体の大きさと速度を理解の外で理解した・・。


それはさながら、連続で吐き出される、西瓜の種飛ばしの様な光景だった、祖父と孫が縁側に座り会話を楽しみながら・・。


ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっ。


微笑ましい夏の風物詩・・・そんな事は無かった・・、それはさながらピストルの連射である。


シュパパパんパパパんパん!!


大小様々な、石やコンクリート片が、勝乎目掛けて飛んできた、それを勝乎は、華麗なステップで避け、やり過ごしたのだ、勝乎の後ろの壁には大穴が空いた。


バガーン!!。


ガラガラ・・。


「!?おいおい・・信じらんねぇぜ、10発近くぶっぱなしたのに、一発も当たってねぇのかよ、この女・・!?。」


泰明は勝乎の手を見た、その手には1つコンクリートの破片が握られていた、手の平から血が滴り落ちている、今し方ガリゴリが射出したコンクリートの破片である。


(バッ・・バカな!?この女、残りは全部避けてその1つだけ掴みやがったのか、何故・・!?。)


ボッ!。


勝乎は左手で取ったコンクリ片を、右手に持ち換えて、泰明の顔目掛けて全力で投げ返した、泰明は瞬間、死を覚悟した、が、パートナーであるガリゴリが、テルセントでしっかり警戒していた。


パクッ・・。


投げ返されたコンクリ片が消えた。


泰明の顔面スレスレで、ガリゴリは少し体を伸ばして、コンクリ片を呑みこんでしまったのだ、そして、勝乎の顔を見て笑いながら泰明に言葉を飛ばした。


「おい、ヤスぅ、ビビりすぎだぜ、そんなに心配すんなよな、俺がついてんだからよぉ・・大船に乗った気でいろよな、デケェ割には肝が小せぇな、おめぇはよ。」


勝乎にも聞こえた、化身ガリゴリの声が、どうやらシンパシーを使わない場合は周囲にも声が認識されるらしい、その声は中々にドスが聞いており、威圧的に聞こえたが、肝心の泰明本人は。


「ハッ、バカ野郎が、ちゃんと見えてたよ、ちょと虚を突かれただけであんなんどってこたぁねぇよ、直ぐに叩き伏せてやるぜ、ちーと待ってろや。」


泰明は少し強がりを見せたのだ。


「待てヤス、コイツの戦闘能力はかなりやべぇ、とりあえず有利な状況作らねぇと、俺達でもキツイぜ、俺に考えがある・・。」


そこからは2人は、シンパシーでの会話をはじめた様だ、会話は聞こえなくなった

が、警戒は怠ってはいない、ほどなくして、泰明は勝乎に告げた。


「女・・お前の力は認めてやるがな、お前は絶対俺には勝てない、今、逃げ帰るなら見逃してやるぞ?。」


勝乎とマンチンは警戒していた。


(うん勝乎、奴等は間違い無く何かを企んでいるぞ、相手の口車に乗ることは無い、投石は恐らく防がれちまう、やはり近距離からの攻撃しか無いな、うん。)


(ああ、わかってるよ・・つまりは・・。)


速攻あるのみである、勝乎は真正面からではなく、左右に飛び交いながら泰明に接近した、松田のすぐ左に移動し、お決まりの右ストレートで。


今度こそ終わると確信したその瞬間、右肩付近にいるガリゴリが、石ではなく、石やコンクリを細かくし、粉塵の様にして吹き散らしてきたのだ、砂埃を部屋一面に撒き散らす・・。


勢いこそ凄まじいが、全くと言っていいほどダメージは無い・・が、部屋中が砂埃に包まれる、当然視界が悪くなり、虚を突かれた事もあり、泰明を見失ってしまった、恐らく通路に出て、態勢を立て直したのであろう。


「っち!あの野郎、追うぜマンチン!。」


勝乎は通路に出た、テルセントで探ると、泰明とガリゴリは魔羅を抑えていないようだ、つまりはノビシブルを使用していない、直ぐそこの階段を使い、1つ下のフロアに向かっている、勝乎は警戒しながら泰明達の後を追い、3階の中央にあるやや広い部屋に到着した。


その部屋は先程の部屋同様かなり広い、学校の教室3クラス分程ではなかろうか、部屋の中を見ると、中央の方に泰明が居る、出入り口は奥にも1つある、勝乎は警戒しつつ部屋の中に入った。


瞬間、泰明の肩からガリゴリが再び石礫を放ってきたのだ、それを避けながら横から旋回していくと、ガリゴリの口が大きく開いた、口角の様子からかなり大質量の物体を吐き出そうとしている、勝乎は警戒の為部屋の角に後退した・・泰明とガリゴリは。


ニヤッ・・。


と、笑んだ・・そしてガリゴリは。


ゴァッ!!。


大きな岩石を入り口に向けて吐き出したのだ。


グシャ!。


入り口は岩で塞がれてしまった、もう一方も。


グシャ!


完全な密室・・。


(!?しまった・・これはまさか・・うん!勝乎急げ!奴を今のうちに・・。)


勝乎は部屋の角から、中央付近まで一足跳びで間合いを詰めた・・が、少々遅かったようだ、ガリゴリが再び粉塵を巻き上げた、勝乎が身構えた一瞬の隙に必勝戦術は組まれてしまったのだ、視界が奪われ、テルセントで泰明の位置を探ろうと意識を集中させる勝乎だが・・。


「!?なんだ!?気配の数が・・、この部屋だけで何人いやがんだ!?、おいマンチン!?何なんだこりゃあ、一体何が・・!?、ちぃっ!!?。」


左から超高速の魔羅の接近反応、石礫である、勝乎は先程までと違い、反応が遅れ頬を抉られてしまった、頬から血が、ドバドバと出ている。


(うん・・油断しちまったな、多在不可視(タベシブル)だ、テルセントの周囲探知能力が逆効果だな、これじゃあ何処に本体が居るのかわからない、うん。)


「タベシブル?成程な、木を隠すなら森ってやつだな、オマケにこの視界の悪さどうすりゃあいい?狙い・・!?。」


再び石礫、今度は先程入って来た入り口の方向からだ、顔面スレスレ、反射的に手で弾いたが魔羅の纏う力が弱く手の甲をパックリ切ってしまった。


(うん勝乎!テルセントを余り広げずに、円形をイメージして密集させるんだ、サークル内に飛翔した魔羅に素早く反応する為に、うん!。)


他方向からの石礫攻撃・・、勝乎はマンチンの指示通り、石礫を最低限、対処出来るギリギリのラインでテルセントを張った、本来、大雑把な空間内の魔羅探知を行うテルセントだが、距離を限定し精度を圧縮させれば、陣の様に使う事も出来る。


勝乎は周囲2メートルの位置に、テルセントの結界を張ったのだ、成形する技術はまだまだだが、マンチンがバックアップ、調整を行った、それでも、周囲2メートルの低範囲探知、反応が遅れればそれだけ傷を負い精神力、集中力も膨大に消費していく、何れにせよ短期で決着しなければ勝乎の肉体が持たない、窓から出ようにも下手に動けば狙い撃ちであろう。


マンチンは、この状況下を再確認した、部屋の広さは約200㎡、シングルスのテニスコートと同じ位である、この広い空間の入口は大岩で塞がれている、逃げ場はないが、逃げ場を無理矢理作る事はできる、だがその前に、確めなければならない事が1つある。


それは、この真下の部屋の作りである、部屋の作り次第では、余計な労力を被るであろう事は容易に想像できる、マンチンはこの多忙かつ、危機的状況の中で更にもう一手、行動を起こした、魔羅のコントロールや指示を飛ばし、勝乎のバックアップをしつつ、更には肉体内での魂と精神が混ざらないように努める、大忙しのこの状況で、更にマンチンは自身の魔羅を酷使した。


勝乎の足元から魔羅を音波の様に飛ばし反響を探り、下の空間の大体の広さや形状を感知する、勝乎には出来ない芸当だがマンチンなら可能なのだ、部屋はこの部屋と全く同じ作りだった。


「おい!?マンチン何やってんだ?足から魔羅が・・うぉぉ・・響くぅ・・。」


勝乎にも伝わったらしい、下の空間状況が、マンチンは指示を飛ばした。


(うん勝乎、良く聞け、これからはシンパシーでの会話を心掛けてくれ、これからお前の拳に魔羅を集束させる、その拳で床をぶっ壊して、一足先に着地、この部屋の床ごと落下してくる奴等を神速の体術で叩きのめす、わかるか?うん?。)


(・・一部屋丸々床抜きして下の階で奴等を潰すのか?・・むちゃくちゃだな・・建物崩壊しねぇか?。)


(うん、建物が全壊するにせよ、しないにせよ、それしか手は無い、この密室から逃れなければ撃ち殺されちまう・・覚悟を決めろ勝乎、うん?。)


(・・わかったよ、お前の判断に任せる、もういい加減限界だぜ、一発勝負にかけちまおう。)


(うん、ほんの一瞬だ、サークル型テルセントを解いた瞬間に、魔羅を急速に右手に集束させる、そしたら床を思いっきり拳で叩くんだ、俺が上手く魔羅を床全体に流してごっそり崩してやる、そしたら、後はお前が決着を着けろ、うん。)


勝乎は泰明の攻撃パターンをしっかり観察していた、攻撃が止んでから、別の場所に移動するまでほんの数秒間、かならず時間が開くのを確認済みである。


石礫攻撃は1回の攻撃で平均、大体10個ほどの石を飛ばしてくる、攻撃が来た。


ヒュパパパパパン!。


勝乎は、8個全ての石礫を凌いだ瞬間、テルセントを解いた、そのタイミングに合わせてマンチンが、右手に魔羅を集束してくれた、その間、テルセントを解いていた勝乎は気が気でなかった、時間にして2秒間、圧倒的に短い時間だが、勝乎には1分にも感じられた。


(うん、よし!叩きつけろ勝乎!うん!。)


勝乎は床に拳を叩き込んだ、拳から放たれた魔羅はマンチンの意思の元に、床全体を駆け巡った。


ピシピシ・・ドン!・・。


部屋の床が抜け落ちた。


「!!・・なっ!!これは・・!!?。」


泰明とガリゴリは、突然の事態に困惑した、床が抜け、身動きの取れない滞空状態、一瞬硬直したが、直ぐに意識を取り戻した、崩れ行く床の瓦礫の中を探知する為、ガリゴリはタベシブルを解いた、そしてテルセントで探知を開始したのだが、それは意味を成さなかった。


砂埃の無い2階(正確には3階と2階の空中)に引きずり出された時点で、タベシブルを継続しようとテルセントで探知しようと結果は変わらない、視覚情報の遮断を突破されてしまった事と、滞空状態時の対処法が攻撃以外に無い事、その時点で人間を超越した・・全4種類の化身中、最強最速のリブドーラ種の独壇場である。


勝乎は泰明とガリゴリが、テルセントを広げる前に、それより早くテルセントで、泰明とガリゴリの探知、及び迎撃を開始した、泰明とガリゴリが反応出来ないように、凄まじい闘志と集中力、瞬発力で壁を、崩落中の床を、跳び移りながら既に間合いを詰めていたのだ。


泰明が・・否、ガリゴリがテルセントを使用した瞬間、自身等の直ぐ右横に高濃度の魔羅の気配を探知した、勝乎である、直ぐに泰明と感覚を共有しようとしたが、まるで間に合わなかった、言葉も。


「右・・。」


ゴシャ!・・。


左ストレートで泰明の顔面をぶち抜いてから、胸ぐらを。


ガシッ・・。


と掴んだ、そしてそのまま。


ごちゃっ!ごちゃっ!・・。


顔面頭突きの2連発、泰明は既に意識が飛んだようだ、勝乎は空中で泰明を振り回し壁に叩きつけた。


ぶんっ!・・。


グシャ!。


泰明は壁に、頭から突っ込み、後頭部から血が吹き出した、勝乎は落下途中の瓦礫を、避けながら壁際の泰明の前に飛び降りた。


(うん、勝乎・・よくやった、お前の瞬発力や空間認識能力には驚かされる、まさかこんなに上手くいくとは、うん。)


(・・スゲー疲れた、フラフラだよ・・早く帰って寝てぇよ、でっ?コイツはどうすんだ、気絶すりゃあ化身も消滅・・。)


その時だった、泰明に付いているガリゴリが再び石礫を射出した、が、先程までと比べるまでもなく勢いがない、まるで豆鉄砲である、勝乎は軽く払った。


どうやら、契約者である泰明の意識が飛んだので、それに合わせてガリゴリの力も弱まっているようだ。


本人の意識が無い時は、化身も力を発揮出来ないようだ・・、ガリゴリは破れかぶれになったのか、勝乎に噛みついて来た。


ガブっ!。


・・その力はあまりにも弱々しく、噛みつかれた勝乎が同情を感じる程だった。


「・・寄生型と違って消滅しねぇんだな、コイツは・・どうする。」


(うん、依存者をこれ以上追い込むのも無意味だ、依存者が死んじまう・・勝乎コイツを・・ガリゴリを捕まえるんだ、うん。)


勝乎は腕に噛みついたガリゴリの口を、上手く押さえながら引き離した。


「・・始末するのか、ちょっと心が痛むんだがな、やっぱやらないと不味いよな、マンチン・・。」


(うん・・勝乎解ってるだろ?、ここでガリゴリを始末しないと、松田が回復したらまた同じように悪さをして、俺達と再びぶつかるのは目に見えてる、松田が回復しなかったとしても、他の人間に巣くい、また同じ事が繰り返される事も考えられる、根源であるコイツは間違いなく始末しなきゃならないんだ・・抵抗が出来ない今の内にな、うん。)


勝乎は葛藤した、マンチンの言うことは間違っていないが、人間と同じ知恵や知識があるこのガリゴリを始末する、もし仮に人間以外の他の生物に知恵や知識、感情があり親しい間柄だったら・・糧にする事も、絶滅まで追いこむ事も、果たして出来るだろか。


勝乎の鼓動が速くなった・・。


ドクンっドクンっ・・。


ガリゴリを始末する事に、恐怖を覚えたのだ、人間と同様に知恵や知識、高度な意志疎通が可能な命・・これは、道徳的な意味で、正しいのか、始末する事で確かに多くの被害拡大の防衛に貢献できるかもしれない。


そもそも自分は人間で、自分達の生活領域を守る為同族を優先し守り、脅威に成りうる他種族を排除するのは当然の選択だろう、それが種を存続する事だから・・だが、本当にそうなのか?。


少なくともマンチンやこのガリゴリは、今し方、泰明が気絶した際に逃げる素振りすら見せなかった、契約上の厳しい制約は無いとマンチンは言っていたし、寧ろ・・ガリゴリは泰明を守ろうとしている様にさえ見えた、勝乎は自身の価値観を信じる事にした。


パッ・・。


勝乎はガリゴリを離した。


(!?おい!何の真似だ勝乎!!せっかく奴の武器である口を封じていたのに!力が弱ってるからといって危険すぎる!直ぐに・・うん?。)


ガリゴリは警戒しながら勝乎をじっと見ている、時折、泰明の方にも注意を向けて、先程の様に攻撃を仕掛けてくる訳でもなく、様子を伺う感じだ。


「コイツと話がしてぇ・・、少し待ってろ・・。」


勝乎はマンチンに待つように言った、

そしてガリゴリに質問した。


「ガリゴリって言ったな、お前何でコイツを置いて逃げねぇんだよ?、コイツ置いて契約前みてぇに、その辺漂ってればてめえの魔羅は幾らか回復すんだろ?、何で逃げねぇ?逃げ切れねぇと観念してんのか?。」


「・・こっちの台詞だ、何故俺を殺さねぇ?、俺を殺す・・イヤ、消滅させればてめえらの勝ちだろう・・、俺は今さら命なんざ惜しくねぇぜ?、煮るなり焼くなり好きにしろ、ここで始末しねぇなら女、後で必ず後悔するぜ・・。」


(うん勝乎、コイツ自身の言う通りだ・・、依存者と魂が繋がっている今がチャンスなんだ、生物と繋がってるこの機を逃す手はないぞ、うん。)


マンチンの言う通りだが、勝乎はどうしてもガリゴリがそこまで非情な化身だとはどうしても思えなかった・・そこで。


「俺は別に・・、テメぇら化身を根絶させてぇ訳じゃあねぇんだよ・・、寧ろ・・てめえらに適合するダメな糞野郎共を片っ端から潰してけば解決すんじゃねぇのか?あ?。」


勝乎は拳を握り、意識の無い松田に振り下ろした、その拳をガリゴリは身を呈して防ごうとした。


ピタっ。


寸前で勝乎は拳を止めた・・。


「・・やっぱ、気のせいじゃなかったんだな、お前、コイツを守ろうとしたよな?何故だ?お互いの見返りの為の協力関係だろう?、命が関われば時として見捨てるのが自然の筈だぜ?、コイツが目を覚ましてもロクに動けねぇ訳だし、助けるのは自身の延命を危険に晒す行為だろ?、何故そこまでコイツを守ろうとする?。」


「・・てめえには関係ねぇだろうが、さっさと始末すればいいじゃねぇか!、俺達化身は消滅してもこの世界の何処かで、別の形に生まれ代わり存在し続けるんだ、別に恐怖は無え!。」


「・・てめえ自身が消えるのはいいが、大切な相棒が消えるのは我慢できねえか?。」


「!!てめえ・・さっきからウダウダと・・殺すならとっと殺りやがれ!!。」


その時だ・・。


「おい・・ガリゴリ、あ、あんまり無茶すんなよ・・俺・・との約束忘れたか・・お互いヤバくなったら恨みっこなしでって話しじゃねぇか・・何故逃げなかった・・。」


泰明は辛うじて意識を取り戻し、少し前から勝乎とガリゴリの会話を聞いていたのだ、マンチンは肝を冷やした・・依存者の意識がハッキリしてくれば、それだけ化身にも力が戻ってくる、戦闘可能とは到底思えないが、先程の粉塵目眩まし等を使い、逃げを打ってくる可能性はありえるだろう、マンチンは勝乎に再び言い募った。


(うん勝乎!、今ならまだ回復してないからこの男と化身を引き剥がせる!、逃げを打たれたら厄介だ!色々思う事もあるだろうが割り切らなきゃ駄目だ!、心を鬼にして・・。)


(マンチン・・お前は化身の暴走を止めたいとは言ってたがよ、進んで始末したいなんて言っちゃいねえよな?お前ら化身はよ、人間としっかり意志疎通ができるじゃねぇか、少なくともコイツ等からは、しっかり話を聞かなくちゃなんねぇんじゃねぇか?。)


(勝乎・・だが。)


(心配すんなよ・・俺達の動体視力なら妙な真似は直ぐに見抜ける、ガンパン入れりゃ万事解決だぜ、だから様子見だ。)


マンチンは勝乎の言う通り、少し様子を見る事にした、勝乎の言う通り、自分は自身の格を証明したいだけで、化身達を絶滅させる必要はない・・。


後々の事を考えると、協力者の存在は必要不可欠、話が通じる相手とは、やはり話し合いで解決するのが望ましい、人間と本当の意味で信頼し合える化身なら或いは・・、協力関係を結べるかもしれない。


「目ぇ覚ましてたか・・、松田っつったな・・どうすんだ?まだヤンのか?お前がやりてぇんならやってやるぜ?おっ?。」


「いや・・勘弁してくれ、俺の敗けだ、コイツを殺さないでくれて感謝するぜ・・何故始末しなかった・・?、お前の事は全く心当たりがないが、俺をつけて来たのは何かしら理由があんだろ?。」


「昨晩、駅に隣接するモール襲ったろ?てめえ等・・、俺も偶然居合わせたんだよ、てめえが・・イヤ、あれは大和の能力か?兎に角、店内で暴れた寄生型潰して追ってたら、てめえ等がどっかに飛んでっちまうからよ、今日駅近くで、犯人探ししてたらお前を見つけて、着けて来たって訳だ。」


「成程な・・昨晩、大和が渋りだして急に帰るとか抜かしやがったからな、どんな野郎かと思ったが、まさか女だったのか・・。」


「何であんな真似しやがった・・つっても、お前に言っても仕方ねぇか・・怪我人にムチ打ってるみたいでみっともねぇからな・・。」


「・・俺達を始末しないで許す気か?甘いな・・普通ならここまでやりあった相手を無事に返すなんて事はしない・・、変な女だ・・。」


「変で悪かったな・・、本当はてめえが気絶した時点で、てめえの化身消滅させて終わらせる筈だったんだがよ・・、なんつーか、気変わりしちまったんだよ、その・・嫌な感じじゃなかったから・・、・・何でもねぇ・・兎に角、次関係無ぇ人間巻き込むやがったら問答無用で叩き殺すからな・・、肝に銘じとけよ・・わかったな?。」


松田とガリゴリはお互いを見合った。


「・・だってよ、ガリゴリ、俺達もバカやってねぇで仕事に専念するか、俺もお前もこの女に1つ借りが出来ちまったし、言われた通り大人しくしといた方が身の為かもな・・。」


「!!本気かよヤス・・お前、デスサイズ抜けんのかよ、あいつらは相当ヤベェぞ・・大丈夫なのかよ?。」


「別に、たまたま中坊の時世話になってた人に誘われたからつるんでただけだ・・、以前は、まだましな組織だったが今は駄目だ、ここいらが潮時だろうな、女にもやられちまうしな・・怖いのか?ガリゴリ・・。」


「・・別に怖くねぇよ、お前と一緒なんだしな、まぁ俺もあの連中の大半は見ててムカッ腹が立つからよ、敵に回すのも面白ぇかもな・・まっ、お前の好きにしろよ、ヤス。」


「おう。しっかり着いてこいよ。」


泰明とガリゴリを見て勝乎は思った、このペアは口には出さないが本当の意味で通じ合い信頼し合っているのではなかろうか・・少し2人が羨ましかった。


(うん勝乎・・俺は目が雲ってた様だ・・諭してくれてありがとう、これでもしかしたらガリゴリも・・うん。)


(まぁ、コイツらを完全に許した訳じゃねぇが、そんなに悪い感じでもなさそうだろ?それに・・コイツらはデスサイズの情報を幾らか持ってる筈だ、情報収集は必要だよな?。)


「おい松田・・?だっけか、デスサイズの事色々教えろよな?どんな組織編成でボスはだれだ?。」


「ふん、勘違いするなよ女、お前には敗けたが教える筋合いなんてのはない、俺を倒した程度でいい気になってる様だがお前じゃあ幹部連中には到底及ばない・・、ガリゴリの件は感謝するが俺にだって組織には多少の思い入れがある・・、抜けるからには最低限のルールは守らないとな、いけ好かねぇ連中ばかりだが所属していたよしみだ、告げ口はしねぇ・・。」


勝乎は大きく息を吐いた。


「はぁ・・そうかよ、まっ、しゃあねぇか、情報聞けねぇなら俺は帰る、まぁ死なねえようにな、病院行くなり帰って休むなり好きにしろよ・・じゃあな。」


「まて・・、お前名前は?さっき名乗ったかもしれんが、俺の名は松田泰明、コイツはガリゴリだ・・、最後に名前教えてくれ。」


勝乎は困った、名前、三浦勝乎と名乗りたいところだが、名前がおもいっきり男である・・仕方がないので、名乗らせておいて悪いとは思ったが適当に答える事にした。


・・正直、勝乎もかなりギリギリで、早く帰って融合を解きたかったのだ。


「・・本名は明かせねえ、わかるだろ?リブドーラだし、じゃあな松田・・あんま悪さすんなよ・・。」


勝乎はヨタヨタとふらつきながら部屋を後にしようとした、が部屋の出入口が岩で塞がっていた、上層階と下層階の作りがたまたま同じだったので、出入口も全く同じ、床抜きの際に下にそのままスライドし、落ちてきたのだろう、体力的にしんどいが右手に魔羅を溜めて岩を粉砕した、そして何事もなかったようにその場を後にしたのだ、その光景を見ていた松田とガリゴリは。


「・・とんでもない女だったな・・、だがまぁ人の良い女で助かったぜ、傷は大丈夫かよ?ヤス?、」


「鼻の感覚がねぇ・・、頭がガンガンで意識が直ぐにでも飛びそうだ、お互いよく殺されずにすんだな、めちゃくちゃな女だった・・、結局名前を聞き出せずに行っちまった・・が、なんつーか・・悪い気はしねぇな、お前はどうだ?ガリゴリ。」


「・・正直、死を覚悟したんだがな・・、俺もお前もこうして無事でいられたんだ、確かに悪い気はしねぇな・・これからどうすんだヤス?。」


「ここ数日仕事行ってねぇから勤めてた土建屋どうせクビだろうな・・また違う土建屋探すぜ・・お前もそうしてぇだろ?。」


「おう!!お前が掘削した石食うのが俺の生き甲斐だぜ!また鱈腹食わせてくれや!。」


「・・お前本当に石ころ好きだな、ああ・・頭がボーっとしてきた・・まずは病院だなこりゃあ・・。」


松田泰明、通称岩男(ロックマン)はその日のうちにデスサイズを脱退、幹部直属の部下ということもあり敗北、脱退のニュースはデスサイズ内を駆け巡ったのだった。


一方、勝乎は建設途中の廃墟の階段を下っている途中。


(はぁ・・マジでしんどい、身体中傷だらけで意識が遠退きそうだ、他の依存者がこんなに強いとは正直考えてもみなかったぜ、大和の野郎は逃がしちまったな、あの野郎は絶対に許さねぇ、明日学校来てたら粉々にしてやるぜ。)


(うん勝乎、大和だかにはお前の能力はバレてない、お前が2つの姿を持っているという利点、そのアドバンテージを生かしきるんだ、さっきみたいに考え無しに戦陣に入ってったら、勝てるものも勝てなくなっちまう、お前は少し我慢を覚えろ、うん。)


(ふん・・まぁ、そこは悪いとは思ってるよ・・、俺はどうせ我慢の効かねぇ男・・っと、今は女か、それよりもよマンチン、いい加減体力的に限界だから一度融合解いていいか?。)


(うん、そうだな・・とりあえず人目の無いこの屋内で、融合を解いてノビシブルで俺を探知出来ない様にするか、ネックになるのは先程の戦いで、かなり目立つ振る舞いをしたから他の依存者が張っている可能性がある・・、って事だが、・・どうするか、敵に襲撃される可能性は無くは無いが・・悩むな、うん。)


(融合は1日1回って話だったな・・、解いた後に敵が襲撃してきたら確かに都合悪いな、まあ男の俺が依存者だってバレてなきゃあ問題はねぇ訳だろ?、ちなみに今回のインターバルはどの位掛かりそうなんだ?。)


(うん、断言は出来ないが一晩では終わらないと思う、今回の戦いで幾つか肉弾戦の弱点を浮き彫りにされたからな、恐らく・・30時間位は見ておいた方がいい・・。)


(30時間!?、今からだと、明日の深夜いや、明後日くらいか?、もう少し早くできないか?。)


(うん、こればかりはどうにも出来ないな、言ったろ?能力のアップグレードは、戦い抜く為に絶対に必要なプロセスだと、きっちりと時間の使い分けをしなければ駄目だ、お前自身にも言える事だ、融合や魔羅の扱いはお前が考えている以上に、お前の肉体を酷使しているんだ、アップグレードに合わせてお前も肉体を安静にするよう、習慣にした方がいい、万全の状態以外では我慢して隠れるのが基本だ、うん。)


(はぁ・・わかったよ、融合出来ない状態では無茶はしねえよう心掛けるよ、明日は丸1日動けねえな・・でっ?今はもう解いていいか?。)


マンチンは少し思案した、人目の無いこの廃墟内て融合を解き、ノビシブルを使えば本来なら然程問題はない、先述した通りノビシブル以外のサバイバルスキルは本来、日常ではなく戦闘時に効果を発揮する、日常に使わない事はないが滅多な事では使わない。


理由は探知可能範囲がそこまでではない事と、魔羅を探知する為に魔羅を使うと、その使った魔羅を他の依存者達に探知されてしまうからだ。


故に、今回警戒しなければならないのは一点集中型のミルセント、ミルセントは主にドメニティーの化身の得意分野だが、ミルセント1つでも特徴が様々だ。


同じ観察でも見れる距離や視野の範囲が違ったり、魔羅の濃淡や内面、性質やら特徴を探る等、使用者の熟練度や着眼点等にもより得意な観察は異なる。


ノビシブルの看破にしても、使い手により大きく結果が異なる、ミルセントを使うと化身の目、依存者の目、問わず魔羅を集中させるなりして観る事が出来るようになる。


遠距離からの視認が可能だが、その分精度は下がり魔羅の多寡を正確に判定出来なかったり、遠距離は不得手だが、近距離は得意で、対象が纏う魔羅の多寡や委細な情報を観察する事が可能な者もいる。


・・つまりはミルセントでの観察は、依存能力同様、十人十色である、最低限警戒する必要はある。


(うん勝乎、解除は待て、恐らく外には野次馬が集まっている筈だ、男の状態だと表からだと色々都合が悪い・・別の出口からコッソリ出て色々経由して帰ろう、うん。)


(わかったよ、裏口探しゃいいんだな?・・日が落ち始めてるしコッソリ帰れそうだな。)


勝乎は裏口を探し、何とか屋外に出る事が出来た、埃っぽい廃墟から外に出ると空気が新鮮に思えた、身体中の傷が疼く・・少し冷たくなった風が傷を撫でてくる、工事現場の3メートル前後の囲いを飛び越え、勝乎は旧市街の方向へ歩き出した・・。


閑静な住宅街、マンチンは一瞬だけ広範囲にテルセントを広げた、本当に一瞬、これは出来ればやりたくない、魔羅を膨大に消費するし、持続時間が文字通り一瞬だけだからだ・・が、今回はそれで十分である。


確認の為・・、周囲半径約1キロメートルの範囲を音波の様に・・、ミルセントで此方を遠距離から、直視している者の確認である、反応無し、マンチンは勝乎に断言した。


(うん勝乎、ミルセントでの監視は大丈夫そうだ、今なら人の気配も無いし薄暗くなりつつある、どっかの物陰なら問題ない、解除してもいいだろう・・うん。)


(・・そうか、実はかなりキツくてな、助かるよ、お前の魔羅もかなり減ったんじゃねぇか今ので?・・あの沢山ある自販機の裏で良いな。)


勝乎はそこまで移動すると融合を解いた、肉体は光の粒子に変換され2人の命に戻った。


「・・やっぱスゲーな・・頬の傷も、手の甲の傷も、血まで止まってやがる・・、失った体力?倦怠感?は変わらないけどな、それに服・・、投石で突き破られた服もなんか修復されてんだけど・・血の跡も無え、これも魔羅で再構築されてんのか?。」


(うん、そうだ・・体力に関しては回復しないが衣類に関してはそうだ、魔羅である程度再構築による修復が可能だ・・、今日は本当に疲れただろう?、今ノビシブルを使って抑えてるから、敵が襲ってくる事はまずないだろうが、一応警戒しなががら帰ろう、今日は良く戦ったな、街中を歩いてゆっくり帰ろう、俺も疲れた、うん。)


「そうだな、急がないでノンビリ帰るか、何か腹減ったな、ジャンクでも食ってくか・・。」


(うん!バーガー食おう!うん。)


勝乎達は、少し寄り道をして、駅付近のファストフード店に寄り、持ち帰りでバーガーとポテトを購入した、2人は昨晩利用した公園で間食を楽しんだのだ。


(周りにはお前は見えないけど、あんまりガツガツ食べんなよ、一応は俺のスカジャンと店の紙袋で、死角作ってるから大丈夫だろうけど、最近は犯罪防止の為か防犯カメラまで設置した公園もある、まあ見当たらないし大丈夫だろうがな・・。)


(うん!ありがとう勝乎!これでアップグレードが捗るぞぉ!多分だがなぁ!いただきます!うん!)


異常にマンチンのテンションが高い、ジャンクフードはマンチンのお気に入りの様だ。


(どういたしまして、めしあがれ。)


数分後、計5個のバーガーとポテト2つを平らげた2人、そこそこ元気が出てきた所で長居は無用、歩いて帰宅する。


(うん勝乎、お前はやはり勘も優れてるようだな、うん。)


(あ?、勘だと、なんの事だ。)


(うん、ガリゴリを始末しなかっただろ?、再戦の可能性もなくもないが、上手くいけばアイツらなら協力関係を結べるかもしれない、好判断だったな、うん。)


勝乎は少し意外だった、廃墟からの去り際も、マンチンは何も言ってこなかったが、ガリゴリを始末しなかった事に異論はないようだ、勝乎は理由を尋ねた。


(怒らねえのかよ?始末しなかったんだぜ?競争争いする化身を、1匹でも多く始末してえのがお前の本音じゃねえのか?。)


マンチンは、格を証明する為に、化身を始末すると言っていた、始末出来る化身をみすみす見逃したのだ、自分がマンチンの立場なら不満を抱きそうなものだが、マンチンは。


(うん、俺は格が証明されればいい、一番になりたい訳じゃあないんだ、俺とお前は今は単独で動いているが、何れは他の依存者と、協力していかなければならない時が来る、アイツが仲間になるかは別だが、可能性は増やしといた方が良いのも事実だ、まあ、感触だが、アイツは味方にはならないかもしれんが、敵でもない感じだな、うん。)


(・・仲間か、確かに単独で戦い続けるのは現実的じゃあねえよな、さっきの、大和と松田の会話でも、デスサイズ内に依存能力者が、他にも居るって言ってやがったからなあ、デスサイズ内に何人いやがるかわかりゃあしねえな。)


(うん、名前は思いだせないが、ドメニティーの依存者が居るって話しだったな、化身ってのは欲に忠実で行動的な生物を好み易いからな、不良グループなんてのはうってつけだろう、まだまだ出てくるだろうな、うん。)


デスサイズ内に何れだけ依存者がいるのか、勝乎は途端に不安になってきた、自分の事もそうだが、デスサイズを探る為に動いている透の事が心配になってきたのだ、仲間も欲しいが、やはり情報も欲しい、色々なモノが足りてないのだ。


(まあ、何れにせよ、今の俺達には足りない物だらけだな、戦力、情報、経験、色々だ。)


(うん、経験に関しては、これから嫌でも積まれてくだろう、ただ・・戦力はな、敵意の無い依存者が、都合良く現れて仲間になるってのは、難しいだろうな、うん。)


(・・まあ、しゃあねえよな、デスサイズの奴ら潰してきゃあ何とかなんだろう、仲間もそのうち・・。)


その時だ、駅の広場の人混みを、何となく眺めて歩いていると、見覚えのある人物が目に止まった、間違いない、私服で化粧をしている為、普段学校で見る印象とはかなり異なるが、隣席の伊勢原房子である、駅の広場に隣接するロータリーに向かって歩いている、隣にはスーツを着こなし、仕事も出来て金回りのよさそうな30代半ばの男、イケメンだが、危険な雰囲気を纏った男である。


勝乎は疲れていたのか、一瞬、邪な事を想像してしまった、普段学校で見る彼女も化粧っけが少なく、なかなか可愛げだが、今日の彼女は化粧乗りが良く、服装も大人の女性のそれだ、何より相手の男との年齢差を考え、容姿を使いあらぬやり方で小遣い稼ぎでもしているのでは?と勘繰ってしまったのだ。


暫く観察していくと、2人はロータリーに停めてある高級車に近づいていった、2人に気付いたのか運転席から20代半ばの眼鏡をかけた女性秘書風の女が降りてきた、回り込み、スーツの男に一礼、左後部座席側のドアを開け、2人を乗せ、運転席に戻った。


車はそのままロータリーを後にした・・。


勝乎は何とも言えない、居たたまれないような、ムズムズするような、甘酸っぱい様な、おいてけぼりを食らった様な、思春期特有の敗北感にも似た何かに、苛まれていた。


(うん勝乎?何をボーっと突っ立ってんだ早く帰るぞ、しっかり休むのも必要だぞ・・どうしたんだ?うん?。)


(あぁ・・な、なんでもねぇよ、そうだよな、俺達が石投げ合って汗水流してるように、どっかの一室で汗水流して小遣い稼ぐんだよな、なーんも可笑しくなんかねぇぜ!ほら帰るぞマンチン!。)


(うぅん?お前頭は怪我してねぇよな?イカれたか?、大丈夫か勝乎?。)


(うるせぇ!何でもねえよ!とっとと帰るぞ。)


本当は気になって仕方がないが、他人のプライバシー故に、これ以上の詮索は不要と判断した、2人は自宅マンションまで戻っていったのだ。


マンチンは1つだけミスを犯した、それはミスと言うより認識不足である。


融合を解く直前、テルセントを音波の様に周囲半径1キロメートルに広げ一瞬だけ探知した。


その際、その範囲内で自分達を感知している依存者を、マンチンは確認している、結果はゼロ、その範囲内でテルセント、ミルセントを使用している依存者は居なかった。


喫茶店で勝乎が使用したノビシブル+ミルセントは恐らく、自分にしか使えない技術なので除外しても問題無い、テルセントも本来、戦闘向けの能力で、多くの依存者にとっては尾行や見張り目的では使わない・・。


と、なるとやはりミルセントによる長距離からの視認による探知である、が、距離に関しては元々の動体視力が影響する為、限られてくる、文明が発展しているこの世界の人間達の視力は、日に日に低迷を続けている、魔羅を駆使したミルセントの眺視でも、良くて1キロメートルだとマンチンは予想したのだ。


勿論、元々視力の優れたジャングルの原住民や動物等が依存者で、ミルセントを使っていたらそんなレベルではなくなってしまうが、住宅街故に家が立ち並び、隠れ蓑があった、日没も間近という時間帯、ましてや、戦闘後故にありとあらゆる可能性を考慮する警戒心をそこまで保っていられなかった。


均等に1キロを探知したわけではない、あくまで人間の依存者、対地表対策、実の所、自身等の真上、上空にはそこまで意識を配っていなかったのだ、上空に関しては削って200メートル程しか探知していなかった、上空の探知を削ったからこそ地表1キロという広範囲を探知出来たのだ、上空には敵が居ないという前提である。


・・だが、地表から約300メートル上空では、先程逃げたと思われた、竜二がディスサイクルで作りあげた、人間バイクでホバリング(空中浮遊)し、単眼鏡の様な物で勝乎達を観察していたのだ、不思議な事に風の抵抗をものともせず、空中に


ぴたっ。


と静止している。


「・・出てきやがったか、あの糞アマ、松田のバカは返り討ちにされたわけだ、それにしても脳筋とはいえあの松田を倒すとはな、信じがたい戦闘能力だぜ・・、なぁ?グインド?。」


単眼鏡の表面の一部から、グインドは顔を覗かせた。


グインドはドメニティーの化身で、竜二のパートナー、グインドは残虐な笑みを浮かべ答える。


「ええ、あの松田という人間とガリゴリという化身、奴等は中々のコンビでしたよ、私の目から見てもかなり厄介な奴等でしたから、それを凌いでしまうとは流石はリブドーラ種、驚愕の一言ですね。」


「リブドーラ・・性愛種だったな、ムカつく糞アマの前だから、小馬鹿にしてやったが、あの身体能力は驚異だな、一瞬で俺や松田の前にまで移動しやがった、あの速度は何なんだ?魔羅を纏う程度じゃ到底不可能な領域じゃねぇか・・。」


「当然でしょう・・他の3種族には性愛種程の高度な魔羅の制御は出来ません・・、あれは融合さえしてしまえば、神経を使う魔羅の微妙な調整を体内で造作なく行えます、それどころか魔羅を体外に表出させず、逆に体内で魔羅を循環させる事に長けている、故に、肉体の強度は他種族とは比べるまでもない・・、リブドーラ種は接近戦闘のスペシャリストなんですよ。」


「・・要は電気を貯め込んだ発電所みてぇなもんか?確かにあの糞アマからは信じられない位の魔羅が見て取れた・・、体内に激流の渦が巻いてる感じだったぜ・・。」


「良い喩えですね・・確かに・・、リブドーラ種は体内で魔羅を淀み無く循環させ常に高エネルギーの状態維持をする為の言わば意思の有る装置の様なモノでしょう・・。」


「装置ねぇ・・けったいな事だ、生物なのに装置かよ、まぁ喩えとしては分かりやす・・はっ!!?。」


「どうしました?竜二?何か・・!!?あれは・・。」


グインドは再び、単眼鏡のレンズに魔羅を込めた、そのレンズの先には・・先程の女と同じ服装をした男、どことなく女の面影がある男だ、その肩には・・。

そうかこの男が・・そしてあの化身はまさか・・。


「・・竜二、見えますね?あの男の肩の上に乗っている化身、あれがリブドーラ種の化身です、リブドーラは私の知る限り全員自立型で、しかも、アイツはあの4兄弟の・・・竜二?聞いてますか?。」


竜二が唸るように呟いた・・。


「三浦ぁ・・あの野郎かぁ・・、本当につくづく思うぜぇ、あの野郎はいつもいつも俺をイラつかせやがる、まさか糞アマの正体がアイツだったとはなぁ、絶対に許さねぇ必ず後悔させてやる・・。」


「・・あの男、君の知り合いですか竜二?デスサイズ・・ではないですよね?敵対してるスターディングとかいうチームの子ですか?。」


「ああそうだ・・、スターディングの幹部で学校も同じ、あの野郎を見てると古傷が疼いてきやがる、野郎につけられた傷がよぉ・・今直ぐ殺してやるぜ!。」


「待ちなさい竜二!、君らしくありませんよ!、君の依存者としての素質は大変なものがあります、洞察力、狡猾な思考、恐怖での支配力・・、どれも素晴らしい素質です・・ですが、相手はリブドーラの化身と依存者ですよ?、考えなく飛び込めば返り討ちにされてしまいますよ・・。」


「じゃあどうするってんだよ!!あの野郎の授業中にでも狙えって言いてぇのか?あっ?」


「ですから落ち着きなさい・・、我々は洞察力に長けたドメニティーの化身とその依存者なんですよ?、先ずは相手を観察し調べ挙げましょう・・、相手の居住地、家族構成、ライフスタイル、性格、趣味、好き嫌い、得て不得手、仕草や表情等・・じっくり観察し、じっくり考えて手繰り寄せていくのです。」


「・・何か考えがあんのか?。」


「いえいえ・・考えと言う程の事ではありません・・が、リブドーラ種の依存者は大抵は反吐が出る程のド甘揃いですからね、付け入る隙は必ず見つかるでしょう・・わかりますね?、急ぐ必要はありません、今日の所は引きましょう・・竜二。」


「・・ちっ、まぁグインド、お前が言うなら間違えねぇな・・、確かにじっくり観察してから、アイツにとって最大の屈辱を与えてやらなきゃあ、俺の気が収まらねぇが・・決めたぜ、お前の言う通り先ずはじっくり観察だ、あの野郎を最大級、苦しめる為のな・・。」


「それが賢明です竜二・・リブドーラ相手にわざわざ真っ向勝負の必要はありません、じっくり考えましょう・・じっくりとね。」


「・・行くぞ。」


幸運な事に、竜二とグインドは勝乎に手を出さずその場を後にした・・、グインドの警戒心と情報不足故の幸運、仮にここで襲撃されていたら勝乎に勝ち目はなかったのだ・・。


そんな事とは露知らず、幸運にも、2人はマンションに戻って行ったのだった。






前書きに記した通り、文字数が嵩張り、申し訳ありません。

次回は、勝乎の里親、啓子の話しを書いて行きたいと思います。

お読み頂きありがとうございました。

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