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女王ソフィアの金運爆上げアミュレット

今回短め更新です。

 


 窓から差し込む朝日を受けてきらめくそれは、とても綺麗だけれど。私の目には何の変哲もない、ただのガラス玉のように見える。


「これに『女王ソフィアの金運爆上げアミュレット~これであなたも大金持ちに~』という名前をつけまして」

「…………!」


 限界まで目を剥く私にカーターさんが「それをソフィア様の横で売っただけで、ウッハウハのがっぽがぽ!」と歯を見せて笑った。


「なんとこれまでいいとこ固いパン一個だった朝飯が、一夜にしてこれだけの肉が出せるように!」


 そう言いながらカーターさんが両手を食卓に並んだご馳走に向けると、先ほどから直立不動のまま両脇に立っていた男性陣が「おおおー!」という野太い歓声をあげる。

 眉を顰めたヴァイオレットさまに蠅を見るような目を向けられ、歓声はぴたりと止んだけれど。彼らの目もカーターさん同様、キラキラと輝いていた。


「今夜からも売り出し続けていく予定ですが、他にも新商品を考案中で……」


 昨日まではあんなに死んでいた筈の目に、輝く希望を宿したカーターさんが小声で、次々に思いついた商品をあげていく。

 切実に、やめていただきたい。

 あまりの出来事にカラカラになった口でやめてほしいと、そう言おうと思うのに。


「これでようやく、腹いっぱいに食べられる、食べさせてやれる生活が手に入ります」


 そんなことを言われてしまうと、やめてほしいなどとは言える筈もなかった。

 うなだれながら案内されるままに席に座り、カーターさんが甲斐甲斐しく取り分けてくれた朝食を一口食べる。

 こんな時でも美味しいものは美味しいものだ。食べ物に感謝しつつ、黙々と食べ続けた。

 しかしそんな私にも上機嫌に、カーターさんは興奮した面持ちで話し続ける。


「カジノ場の前で『これで勝つ! 女王ソフィアの心理戦術』なんて本を出したら売れそうじゃないですか? ぜひヴァイオレットさまにも一言寄せていただけると嬉しいです。友人である匿名公爵令嬢から見た、カジノの女帝の特別秘話! ソフィア様が普段どのような生活をしているのか、普段から社交界でどのような舌戦を繰り広げているのか……」


 普段のソフィア・オルコットは、必勝とは縁遠い世界にいる引きこもりです。

 そんなことが言える筈もなく、私は「ははは……」と乾いた笑い声をあげた。そもそもこの国に公爵令嬢は一人しかいないらしいので、匿名公爵令嬢は全然匿名ではないと思う。


 どんな手を使ってでも、本だけは回避しよう。そしてヴァイオレットさまには、これ以上私の二つ名を増やさないでほしいということを、なんとかしてわかっていただこう。


 そう思いながら目の前のヴァイオレットさまに、若干湿り気のある視線を送る。

 するとヴァイオレットさまが涼しい顔を私に――、いや、三つ目のパンを取ろうと手を伸ばす、私の手元に目を向けて。


「――……」


 ヴァイオレットさまがゆっくりと目を細めて、私のお腹に視線を動かした。


「…………」


 何が言いたいのか、わかりすぎるくらいよくわかる。

 私は一瞬の葛藤の末、伸ばした手を泣く泣くずらし、紅茶でお腹を膨らませたのだった。





土曜日から新連載を開始します。

その都合でこちらはしばらく火・金の週二更新となります…!(すみません)

次の更新は19日の金曜です!

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