惨憺たる光景
更新の間が空いてしまいました。すみません…!
願い虚しく、私があの部屋に踏み込んだとき。
私の目の前には、とんでもない光景が広がっていた。
「…………」
先ほどまで見下ろされていたはずの私が、今は一人椅子に座り、屈強な男性陣に傅かれている。
皆一様にヴァイオレットさまに平伏していて、中でもリーダー格だと思われる金髪の男性――私の髪を掴んで切ろうとした男性などは、下着姿一枚だ。
もしもここに街の風紀を取り締まる騎士さまがいたならば、即座に連れて行かれるに違いない。
もちろん連れて行かれるのは、強要した側の私のはずだ。
「なっ、なななっ……なっ……⁉」
最悪だ。予想の斜め上をはるかに突き抜ける光景だった。
強欲な悪女という呼び名も嫌だなあと思っていたのに、この上破廉恥という文字までついてしまったら、さすがに私は泣くと思う。
「ふふっ、服! 服を! 着てください!」
金髪の男性の横に綺麗に畳まれていた服を取り、あわあわと目を瞑って男性に押し付ける。
その人が顔をあげた気配がしたかと思うと、一瞬の間を置いて息を呑んだ気配が伝わり――「うわ!」と叫ばれた。
その言葉を皮切りに、男性陣が私に気付いたのか口々に「ひい!」「やべえ!」と小声で囁きあっている。
「う、嘘だろ⁉ なんでエルフォード公爵令嬢が来るんだよ、もっとやべえのが来たじゃねえか……!」
「いや毒使いよりはましだろ! もはやあれは人間じゃねえ……!」
人間じゃないレベルの毒使いとは、まさか私だったりするのだろうか。
一体全体ヴァイオレットさまは、どんな話をしていたのだろうか。
私が言葉もなく、絶句をしていると。
「――失礼」
聞き覚えのある、しかし何故か悪寒が走るような禍々しさを宿した低い声が、後ろから聞こえた。
いつもは安心する声なのに、今日は聞いているだけで体が勝手に震え上がる。
「ソフィア・オルコット――彼女を攫った暴漢が、ここにいると聞いたのだが」
「ク、クロードさま?」
後ろを振り返り、どうしてここがわかったのだろうと、まじまじとクロードさまの目を見る。
珍しく髪や服装や呼吸が乱れているクロードさまは、私とヴァイオレットさまを見てしばらく固まり、深くため息を吐いたあと。
「――……なるほど。理解した」
そう小さく呟いて、じろりとヴァイオレットさまを見た。
◇
一目で入れ替わりを見抜くなど、さすがはクロードさま。
私が感動していると、そんなクロードさまはそんな私にちょっとだけ労わりの目を向けて、「暴漢はこれで全員か」と厳しい視線を男性陣に向けた。
基本的に美しい人が怒ると、とても怖い。
なんといっても騎士さま――それも騎士団長を務めるクロードさまの迫力は、私まで震えあがってしまうほど恐ろしいものだった。
暴漢と呼ばれた男性陣に至っては、言わずもがなだ。まるで一切の容赦のない地獄の門番のような視線に睨めつけられ、水を打ったように静まり返る。
特にクロードさまの視線は服を着ていない金髪の男性の前で更に鋭くなった。
最終的にあまり被害を受けていない私としては、金髪の男性がもはやお気の毒で仕方ない。
そんな地獄めいた空気を切り裂くように、凛とした声が響く。
「――ようこそ、ヴァイオレット・エルフォード公爵令嬢。それから……随分と早かったのですね? クロード・ブラッドリー騎士団長?」
くすくすと笑いながら、ヴァイオレットさまの視線がクロードさまに向けられる。その笑い声の合間に、小声で「ひい」「騎士団長」「終わりだ」という声が口々に聞こえてきた。
その悲鳴をたっぷり楽しんだ――と私には見えた――後、ヴァイオレットさまが優雅に笑う。
「助けに来ていただけて光栄ですわ。しかしお手を煩わせるまでもなく、友好的に解決させていただきました。――ねえ?」
「ハイ!」
ヴァイオレットさまの妙に低い「ねえ?」の一言に、その場の全員が大きな声で返事をした。
その様子を見てクロードさまは眉を顰め「一人で来いと、手紙に書いていたな」とヴァイオレットさまに目を向けた。
「捕縛はするな、と言いたいのか」
「ええ」
にっこりと微笑むヴァイオレットさまに、ひれ伏している男性陣がホッと安堵の笑みを浮かべて。
「少なくとも、今は」
その言葉にぎょっと目を剥いた。
その様子を見たヴァイオレットさまが「あら」と目を細め、「役に立つなら、と言ったでしょう?」とにっこり笑う。
「何もせずに救ってもらえるほど、お前たちの命は安いものなの?」
そこまで言ってヴァイオレットさまが、「カーター。説明を」と男性の名前を呼ぶ。
すると金髪の裸の男性が「はい」と返事をし、この事件の流れを説明し始めた。
月・水・金で投稿していましたが、GW明けまでは火・金までの投稿とさせてください(次回は今週金曜の4/28です)(もう5月なんて本当に早いですね)
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