怪我人
今日は少し短め投稿です。
「とても素敵なものが買えました!」
紙袋に入れた商品を抱き抱え、「ありがとうございます」とクロードさまにお礼を言う。
「おかげさまで、お礼の品を買えました。露店には、宝石がついたものも売ってるんですね」
「ああ。あそこは露店としては、上質なものも取り扱っていたな」
そう頷くクロードさまの手にも、紙袋がある。私が真剣にお礼のいくつかを吟味している間、クロードさまも何かを買っていたらしい。
女性ものしか置いていなかったから、きっとどなたかへの贈り物なのだろう。
そう思った瞬間、なんとなく胸がもやもやと重くなるような、落ち着かない気持ちになった。
――食べすぎたかしら。
心当たりは充分にある。
こんなこともあろうかと持ってきた胃薬を取り出そうと、鞄に手を伸ばした、その時。
「!」
すれ違いざま、私のすぐ横で人が倒れた。
咄嗟に跪く。倒れた方は十三、四歳くらいの少年で、苦痛に顔を歪めて脇腹を押さえている。
押さえた手からは血が滴っている。ほぼ間違いなく外傷だろう。
「薬師です。診察をさせてください」
一声かける。黒いシャツを捲り上げ、傷口の検分をすると、そこに現れたのは明らかに刃物由来だろう切り傷があった。
その傷口を見て一瞬驚き、少年の顔を見る。
しかし額に滲む脂汗を見て気を引き締め、「見た目ほど大きな怪我ではありません」と励ました。
「処置をします」
鞄の中から、念のためにと持ってきていた殺菌効果と止血効果のあるエンドの葉を取り出し、傷口に押し当てる。固定するため、持ってきていた包帯をきつく巻きつけた。
「す……すみません」
包帯を巻き終えた頃に、少年がそう言った。
銀髪に青い瞳がよく映える、綺麗な顔立ちの少年だ。しかしその綺麗な顔立ちも、まだ苦痛に歪んでいる。
「仕事で失敗してしまって……」
「…………そうでしたか。大丈夫ですよ。角度や位置からして、大事な内臓には傷がついていないと思われますし、出血の割に傷は浅いので」
そう微笑みながら、私は少年に昨日調合したばかりの軟膏を手渡した。
一瞬だけ(王家の管轄……)という言葉が頭をよぎったけれど、これは昨日薬師長と相談しながら作ったものなので、ギリギリのところでセーフ、ということにする。
「三時間経ったら、包帯の下の葉は外して大丈夫です。その後一日五回、この軟膏を塗り込んでください。できれば今日は安静に。それからお腹なので大丈夫かと思いますが、傷口を太陽には当てないようにしたほうが良いです。痕が残ってしまいますので。それから……お家はどこですか? お送りを……」
「……いえ。近いので。一人で帰れます。ありがとうございました」
「しかし……」
「本当に、大丈夫です」
脇腹を押さえながら頭を下げる少年は私の申し出に本気で困っていそうで、躊躇いながら頷いた。
「あの……本当に、無茶はせず、お大事に」
「はい。ありがとうございます。この恩は、いつか必ず。……あの、あなたのお名前は」
「あ……、いえ! お気になさらず!」
慌てて手を振る。勝手に私手作りのお薬を渡してしまった手前、名前を言ってはまずいような気が、とてもする。
「そ、それでは! あの、お大事に……!」
そうぺこりとお辞儀をして、すぐ近くにいるクロードさまに目で合図をする。
クロードさまは何かを言いたげな表情をしながら頷いて、馬車の方へと向かったのだった。
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