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君は得体がしれないな

 



「私が命じられたのは、殿下に魔術隠しの薬が入ったお菓子を食べさせて、ヴァイオレット様を挑発すること。だけどそれを、悟られないこと。そして殿下が亡くなったあと……私が、自首をすること。大公に脅され、仕方なしに殿下に毒を盛ったのだと」


「……!?」


「――私も、大公が何を考えているのかわからないの。ただ復讐と、それから……」


 目を見開いて困惑する私に、リリーさまは涙に濡れた瞳を向けた。


「ヴァイオレット様を次期女王にするためだと。そう言っていたわ」


「――……!」


 リリーさまのその発言に、今までの違和感が音を立てて消えていった。


 塔で渡された、『王者』を意味するピオニーの花。それからヴァイオレットさまのお母さまを連想させるすみれの花と、『触れるな』という意味合いのアザミの花。


 神父さまが『大公も私も、ヴァイオレットさまこそ次期女王に相応しいと思っている』と言っていたこと。それから優れた魔術の使い手であり、一番厄介なヴァイオレットさまを殿下よりも先に殺さなかった理由が、これでわかった気がした。


 わからないのは、その動機だ。


「これでわかったでしょう? 大公は、ご自身の保身を考えていない。それに復讐を止める気は無いのだと、さっきも……っ、……きゃあああ」


「リ、リリーさま!? どこか苦しいのですか!?」


 急に胸を抑えて悲鳴を上げたリリーさまに、駆け寄った。肩で息をする彼女は、とても苦しそうだ。

 何か薬になるものはと、震える指で懐をさぐったり、あたりを見渡す。どういう病かわからず診察しようとした時、後ろから低く平坦な声が響いた。


「……レッドグライブ伯爵令嬢。君がそんなにお喋りとは知らなかったな」


 振り向くと、そこにはいつの間にか大公がいて、冷たい微笑を浮かべていた。


「先ほど君は、揺らいだ決意も新たに最後まで私を手伝うと明言したじゃないか」


 リリーさまが青ざめて震える。私が思わず彼女の前に出ると大公は私に視線を向けて、目を細めた。


「……君がヴァイオレットと入れ替わらなければ、今頃全てが終わっていただろう。ヴァイオレットが投獄されている間にヨハネスは殺しているはずだった。そしてリリーが渡した花束を見て、私が犯人だと気づいただろうヴァイオレットが出獄と同時に私の元へきて、私はありもしない毒草の話をする予定だったんだ。古文書にさえ残っていない、古の毒草。もう魔術でも蘇らない毒草で、人を使いヨハネスとオリヴィアを殺したと」


 プラウニやレプランがなくなったら困る人間もいるからね、と大公が微笑んだ。


「どうして、そんなことを……」


「言っただろう? 復讐だよ。私から大切なものを奪った王家の、大切なものを奪いたかった。――私の恨みは深いのだと、奪われたものは戻らないのだと、そう伝えたかったのだよ」


 そう言う大公が、私に困ったような目を向けた。


「さて。ソフィア・オルコット。改めてその話を踏まえると……どうも君は得体がしれないな。君を生かしておくべきかどうか、この私がまだ判断をつけられないでいる」


 そう言いながら大公は、残念そうな目を私に向けた。


「……アーバスノットの最後の血、その希少な才。殺したくはないが……仕方がないな。君は、危うい」


 そう言って、大公が私に手をかざす。その大きな手のひらに淡い光がぽうっと輝き始める。リリーさまの悲鳴を聞いた瞬間、私は咄嗟に目をつむった。


 その時、聞き覚えのある綺麗な声が耳に響いた。


 ――パリィィン!


 激しい破裂音のようなものが聞こえて、強風が吹く。だけど、私の体は何の痛みも衝撃も感じなかった。

 目を開けると、腹立たしそうに眉根を寄せ、私の後ろに目を向ける大公の姿があった。


 振り向くと、そこにいたのは淡い金髪を風になびかせているヴァイオレットさまと、剣を携えるクロードさま。

 それから神父さまと、他にも――殿下と、国王陛下の姿もある。


「――ソフィア!」

「クロードさま! ヴァイオレットさま!」


 クロードさまに名前を呼ばれて、駆け出そうとする。

 だけどその瞬間、右手を取られて、首筋にひやりとした鋭いものが当てられる感触がした。


「今のは良い攻撃だった、ヴァイオレット。――私の術を破ったことも、素晴らしい」


 私の背後に立つ大公が、そう微笑んだ気配がした。


「さすが王に相応しい。どこかの卑劣な者よりね。そう思わないか、ラッセル」

「兄上……まさか、本当に……」


 陛下の名前を呼ぶ大公に、陛下がうめく。横にいる殿下も青い顔をして、私や大公や――そしてリリーさまを、見つめていた。


「しかしヴァイオレット。ただ一度攻撃を与えただけでは不充分だ。――こういう場合、不意打ちを加えたらすぐに無力化させなくてはならない。例え、身内であっても。甘さはこうした逆転を呼ぶ」


 そう淡々と言う大公が周りを見渡す気配がする。目があったらしい神父さまが青ざめておろおろとし、その姿を見た大公が「――ソフィア・オルコットの差金か」と嘆息した。心臓が飛び跳ねた。


「…………薬師と国王、王太子。それから騎士と神父。……そうだな。国王陛下と神父には、証人として生き残っていただこう。英雄である大公閣下は王家から不当に虐げられ、大切なものを奪われ続けた。……よって、復讐を遂げたと」


 大公の言葉に、場に緊張が走る。


 ――一瞬。一瞬だけ怯ませれば、きっとヴァイオレットさまやクロードさまが何とかしてくれるはず……。


 チャンスは一度だ。問題は、ちゃんと入ってくれるかどうか。

 そう思いながら左手をぎゅっと握った時、「申し訳なかった!」と国王陛下が、頭を下げた。




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