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なんと言えば良いかしら

今日二回目の更新です!

 



「……この部屋をお使いください。中庭に面しており、日当たりもよく広い部屋かと」


 冷ややかな美貌を全く崩さず、神父さまが淡々とそう説明をしてくれた。


「中庭の植物も含め、使いたいものは自由に使っても良いと大公は仰せです。何か必要なものがあればお申し付けください。……と言っても私も日中は勤めておりますので、戻るのは夜になります。その間は侍女をつけ……」


「あ、あの。神父さまは、普段王都の大聖堂にお勤めされていると聞いていましたが……」


 塔にいた時とは全く違う様子に、もしかして双子だったりするかしら……と少し不安になりながら尋ねると、神父さまは表情を動かさず「ええ」と言った。


「それゆえ多忙なのです。大公の命ですので、あなたのもてなしは精一杯させて頂きますが……」


「あの、それならば、ヴァイオレットさまのご様子を教えてもらえたりなどはしますか!?」


 でも彼は大公の味方のようだから、難しいだろうか。でも、監視もちゃんとできていないと言っていたし……。


 そう思いながら尋ねると、神父さまが一瞬くわっと目を見開いた。ヒエっと思わずあとずさると、「失敬」と神父さまの表情が、能面に戻る。


「突然思いもよらないお名前を聞いてしまい、動揺致しました。ヴァイオレット様と仰いましたが……それはあの、エルフォード公爵令嬢でいらっしゃいますでしょうか」

「は、はい! ヴァイオレット・エルフォード様です」


 私がそう言うと、神父さまは青い瞳に警戒心を浮かべ、私を見た。


「……失礼ですが、あの方とどのようなご関係が? それから、あなたのお名前は?」


 大公は、私のことを神父さまに話していないのだろうか。

 少し意外に思ったけれど、同時に私は神父さまの質問にも口ごもる。


 ――ええと。何と言えば、良いかしら。

 関係性がわからないのはもちろんだけれど、神父さまの反応も怖い。下手なことを言ったら八つ裂きにされそうだ。


「あの、私はソフィア・オルコットと申します。ええと……ヴァイオレットさまには以前、大変お世話になりまして……?」


「……………………オルコット?」


「は、はい! オルコットです」


「……オルコット。オルコット……」


 神父さまが私の姓を復唱し、頭のてっぺんから爪先までをじろじろと眺める。若干ライバル心が漂う眼差しを向けられているけれど、一体どんな心理なのだろうか。


「……私は大公に、しばらくヴァイオレットさまに会うことを止められております。命に背くことはできません」


「あ……そうですか……困らせてしまいすみません……」


「ですが……まあ、あなたを丁重にもてなせとも命じられております。会うことはしないまでも、そっと遠くから見守ることは許されるでしょう。ええ、これならばあなたの願いを叶えられ、大公の命にも背かず、ヴァイオレットさまを見守ることができますね。全く問題がない……!」


 そう自分に言い聞かせているような神父さまが大きく頷く。

 そして「お元気そうかお元気そうじゃないかだけは、あなたにお伝えさせて頂きますね」と、じとりとした視線を私に向けた。




 ◇



 そう言ってすぐに出かけてしまった神父さまを見送ったあと、私は一か八かで逃げ道がないかあちこちを探してみた。


 驚くことに、私に用意された部屋と中庭以外、私はどこにも行けなかった。


 鍵がかかっているわけでもなさそうなのに、扉が全く開かない。全くびくりともしないその扉は、おそらく私がどこにも行かないように魔術がかけられているのだろう。


 ……魔力無効のお薬を作って扉に塗ったら効果があるかなあ……と思ったけれど、あれは飲み薬だ。

 それに何より、この部屋には火器がなかった。あれは火が欠かせないので、どちらにせよ作れない。


 こうして待っているだけなんて申し訳ないけれど……あとは信じて待つしかない。

 そう思いながら私は中庭で、採ったばかりの薬草をすり鉢でゴリゴリと削っていた。


 火もお鍋もないのは残念だけれど、ここにはどんな種類の薬草も揃っている。プラウニやレプランを始めとする幻の薬草はきちんと味見して、全て味も匂いも記憶済みだ。


 端の方に実っていた、あの苦すぎるビタビタの実も懐かしさに思わず摘んでしまったけれど、口に入れずに懐にしまいこんだ。これでも私は、意外と学習するタイプの人間なのだ。


 ――クロードさまと食べたチョコレート、美味しかったな。


 同じような自由度で幽閉されているのに、クロードさまがいないと少し心細い。

 もちろん人を殺めた大公の匙加減で、私の命は簡単に吹き飛んでしまう、ということもあるのだけれど。



 そんなことを考えているうちに、いつの間にか手が止まっていた。

 

 いけない、集中しなくては、と慌てて動かそうとしたとき。誰かがこの中庭に入ってくる音がした。


 咄嗟に身を隠す。その誰かは私には気づいていないようだ。何か壁に物を投げつけるかのような音がして、身をすくめる私の耳に、女の人の嗚咽のような声が響いた。


 ――誰か、泣いてる……?

 そろそろと、隠れながら様子を窺う。思いもよらない人物に、思わず息を呑んだ。


「リ、リリーさま……?」

「っ……ソフィア・オルコット……!」


 涙にまつげを濡らすリリーさまの名前を思わず呼ぶと。

 リリーさまは驚愕に顔を染め、「どうしてあなたがここにいるの」と強い視線を私に向けた。







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