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そ、それが牢獄……!?

 



 騎士さまが話し始めたのは、この塔の生活についての説明だった。


「君がこの塔で過ごす三か月。食事は一日三食、軽食もつく。湯あみは三日に一度、宝飾品やドレスなどの贅沢は許されないが……身に着けているその腕輪だけは認めよう。必要なものがあれば言え。問題がないか俺が慎重に判断するが、本や文具といったものなら用意する」

「そ、それが牢獄……!?」


 驚いて思わず大きな声が出た。なんてことだ。オルコット伯爵家のほうがよっぽど牢獄らしいではないか。

 そんな私に騎士さまは胡散臭そうなものを見るような眼差しを向けながら、そのまま説明を続ける。


「それから。神父が日に一度、君の元へくる。君が反省するまで神の教えを説くとのことだ。少しはマシな倫理観を学ぶといい」

「神父さまから直接教義まで教えて頂けるのですか……!?」


「いい加減にしろ!」


 天国ではないかと私が目を輝かせると、騎士さまが耐えかねたように怒りを露わにした。


「なんなんだその演技は! 本来の君は気に入りの使用人以外は罵詈雑言を浴びせ、運んだ食事がフルコースでなければ「こんなものを食事と呼ぶのはお前のような犬だけよ」と投げつけては神の教えを『くだらない』と鼻で嗤うような人間だ。こんな状況に感謝するような人間ではない!」

「そっ……」


 それはもう、絵に描いたような悪女だ。


 使用人や騎士さまの反応でなんとなくわかっていたけれど、ヴァイオレットさまはジュリアの言う通りとんでもない人だ。三か月どころではなく、一年は幽閉されていた方が良いのではないだろうか……と思って、今幽閉されているのは私だったと思い返す。


「いいか、今すぐにその演技をやめろ。わかったな」


 騎士さまがきつく私を見据える。きびすを返して、扉を開けて出て行った。




 ◇



 とりあえず、温かい食事は温かいうちに食べるものだ。食事をすませ、お腹がくちくなった私は真剣に自分の状況について考えてみた。


 まず、私は何故かヴァイオレット・エルフォード公爵令嬢に、少なくとも姿かたちはなっている。おそらくこれは、間違いない。


 彼女は何らかの大罪を犯して幽閉の塔に投獄されている。最初に騎士さまが「殿下の婚約者に無体を働くなど」と言っていたので、殿下――おそらく王太子殿下の婚約者に何かしらの失礼なことをしてしまったのだろう。


 王太子殿下の婚約者といえば、白百合の君と謳われるリリー・レッドグライヴ伯爵令嬢だ。彼女の噂は、ジュリアから聞いたことがある。


 美しく心清らかで、側にいると頭がぽうっとなってしまうほど可憐な方だと、ジュリアが心酔している方だ。誰に対しても優しく広い心を持っていて、殿下はそんなリリー様に夢中なのだとか。


 その方にとんでもなく失礼なことをして、この塔に投獄されることになっただろうヴァイオレットさま。想像だけれど、きっとさぞお怒りになっただろう。


「魔術が得意と騎士さまが言っていたし……もしかして、投獄がお嫌で魔術で私の体と入れ替わった……?」


 魔術について基礎的な本しか読んだことがない私だけれど…そんなことが可能だとは、とても思えない。思えないけれど、ものすごくしっくりくる。


 けれどもしそんなことができたとしたら、醜女のひきこもり悪女と名高い私ではなく、リリー・レッドグライヴ伯爵令嬢と入れ替わるのではないだろうか、と少し思う。そちらの方が、ヴァイオレットさまにとっては諸々有利に動けるし、最高の嫌がらせになる最善の一手だと思う。


 そう考えこんで、ハッと思いつく。


「……引きこもり悪女ならいなくなっても大した騒ぎにはならないと考えて、私の体をヴァイオレットさまとそっくりに変えて成りすましをさせたとか!」


 これが一番ありそうだ。本物のヴァイオレットさまはきっと、今ごろ何かすごいものを食べているに違いない。


「謎が解けてすっきりしたわ。じゃあ騎士さまに報告を……したところで、聞いてくれなさそう……」


 不信感でいっぱいの彼に、こんな話をしても信じるとは思えない。チーズに生えたカビを見るような目を向けられそうだ。


 私としても、オルコット伯爵家に戻りたい気持ちは全くない。三ヶ月だけといえども、もう少し……この天国でしかない、監獄ライフを楽しみたいという邪な気持ちがある。


「オルコット伯爵家の状況をそれとなく聞いて、もしも探してなさそうだったら……このままでもいいかしら。いえ、人としてだめかしら。一応、お伝えした方が……」


 悩んで頭を抱える。その時腕につけている、ギラギラした宝石がたくさんついた太い腕輪の内側に、何かを入れられるような細工があることに気づいた。


 その腕輪を外し、中を開けてみると小さな白い紙が入っている。そこには美しい文字でこう書かれていた。



『お前に名誉を与えてあげるわ

 その体を、傷一つつけずに守りなさい』






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