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頑張りますね!

 



「……可能性は、ゼロではありませんが……」


 クロードさまの言葉に、私は眉根を寄せて考えた。


「正直に言って……わかりません。実際に殿下から症状をお聞きし、怪しいと思われるものを検分しなければ」

「……確かに、それはそうだろうな」

「何か心当たりがあるんでしょうか?」


 私が首を傾げるとクロードさまが悩ましげに眉を寄せた。証拠もなく、感覚だけで疑いを口にすることを躊躇っているようだ。

 改めて真面目な騎士さまだなあと思っていると、クロードさまが「あくまでも俺の勘だが」と重そうな口を開く。


「俺が違和感を持っているのは三つだ」


 そう言ってクロードさまが、指を一本立てる。


「まず、ヴァイオレットが婚約発表の場で殿下とレッドグライブ伯爵令嬢に暴挙に及んだこと。通常の彼女ならばどんなに激昂したとて、そのような振る舞いはしない」


 あ、やっぱりそうなのか、と少しホッとした。人を平手打ちして土下座をさせるなんて酷すぎる。もしも私の体でそんなことをされていたら泣くしかないので、思ったよりもヴァイオレットさまに人の心があったことに安堵したのだ。


 しかし安堵も束の間、「彼女ならもっと狡猾に、相手の精神を砕き折る道を選ぶ」と言われた言葉に真顔になる。泣く準備を始めた方が良いかもしれない。


「そんなヴァイオレットがそこまで我を忘れるほどの怒りを覚えた理由が何なのか、俺も含めその場にいた誰もがわからない」


 そう嘆息したクロードさまが、「次に二つ目」と指を二本立てた。


「王宮薬師の見立てでは過労とストレスということだが……違和感があるとしか言いようがない。殿下は元々、体も心も強いお方だ。時折瞳に力がなくなることも気になる。……しかしここは、薬師の知識がない俺の思い違いかもしれない。そして……」


 躊躇いつつも、クロードさまが「三つ目は」と口にした。


「……レッドグライブ伯爵令嬢は殿下に、毎日のように手作りの菓子を差し入れている。ただ彼女は菓子だけでなく、飲み物などにも万が一のことがあってはならないと毎回必ず毒味役を頼んでいるし、自分も同じものを毎回食べているから……これは違うだろうな」


 花とヴァイオレットの行動を結びつけてつい疑ってしまった、とクロードさまは自分を恥じているようだった。


「しかしヴァイオレットの行動に何かの目的があるとしたら、君のその薬師の才を見込んだのだろうとは思うが――しかし、ヴァイオレットは直接会ったことのない人間の才能を盲信する人間ではないから、他に目的があるのか……」

「ヴァイオレットさまにしかわかりませんね……」


 けれど、これだけはわかる。


「もしも殿下に毒が盛られたと仮定して。きっと犯人か犯人の手の内の者は、殿下の側にいるはずです。王宮薬師長の目を誤魔化せるほどの知識を持つ薬師を抱えているのか、もしくは……」

「王宮薬師長も懐柔しているか、だな。どちらにせよ、かなりの権力を持った人物に違いない」


 そうクロードさまが頷く。


「もしも私とヴァイオレットさまが入れ替わったと殿下に申告したら、きっとその方の耳に入りますよね」

「その可能性は高い」


 ヴァイオレットさまの手紙の引っかかる文言を考えて。

 もしもの身の危険――この場合、私の体に入っているヴァイオレットさまの危険を考えて、私とクロードさまは話し合った末にあと二ヶ月半。もしくは問題が解決するまで、このままでいることにした。


 ここにいれば私の――ヴァイオレットさまのこの体の安全は、間違いない。

 それにここならクロードさまの承認があれば薬に関する全ての材料が手に入る。ミルクが少しだけ効いたということだから、それから考えられる毒物や不調の原因を探り、微力ながらに体調改善の手伝いができるはずだ。


「君にこの塔の中にいてもらうのは心苦しいが……」

「とんでもありません! むしろ嬉しいです!」


 申し訳なさそうなクロードさまに全力で首を振る。

 私は内心、ものすごく安堵していた。


 殿下の体調不良ももちろん気になるけれど、例のカプセルの実験も、おそらくオルコットの家ではできないだろう。現在進行形で問題を起こしまくっているであろうヴァイオレットさまは――きっと、二ヶ月半後の社交界デビューを終えたらすぐに嫁がされることになる。


 もう十六歳。少し早いけれど、家のために嫁いでもおかしくない年齢だ。

 夫となる人がどういう人物なのかはわからないけれど。結婚したらきっと、薬作りばかりすることは許されない。

 そう考えると、こうして薬作りに没頭できるのもあと二ヶ月半しかないのだ。なんとしてもこの期間内に殿下の体調不良の原因を見極めて、カプセル作りまで終わらせたい。


「あと二ヶ月半。私――、お薬作り、頑張りますね!」


 そう闘志を燃やす私に、クロードさまは一瞬驚いたように目を開く。そうしてふっと、「頼りにしている」と優しく微笑んだ。







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