解答編
殺戮オランウータンは激怒した。
金属の柵の隙間から見える人間が、あろうことか自分の食事であるはずのバナナを食べているからだ。
日に一度、柵の向こうから木の棒を使って差し出されるバナナだけが殺戮オランウータンの現状唯一の楽しみであり、それを奪われたのである。
こんな狭い空間に閉じ込められていること自体が、本来なら殺戮オランウータンにとって我慢ならないことなのだ。
だが、彼は賢い。
仮に鉄柵の向こうへ行っても、そのあと石で囲まれたこの空間を出ることはかなわないだろうことを知っている。
出入り口は二重扉になっており、看守の交代のタイミングを狙ってもそこから脱出はできないのだ。
そのため、殺戮オランウータンは怒りを押し殺して鉄柵の中に留まっていたのである。
しかし……これは許せなかった。
柵の外の人間は食べ終わったバナナの皮をこれ見よがしに振っている。
怒りに支配された殺戮オランウータンはその凶悪な両腕で鉄柵を掴んだ。
人間は嘲るように笑っている。
いかに殺戮オランウータンの怪力であってもこの柵を壊すことができないと知っているのだ。
そして、それは殺戮オランウータン自身もよく知っている。
だから、殺戮オランウータンは鉄柵をおもむろに登りはじめた。
驚愕に引きつる人間の顔をにやにやと眺めながら……。
* * *
――シャン
と再び錫杖の音が響く。
鳳無頭堂の示した推理があまりにも鮮やかに自分たちの盲点を突いていたからだ。
「鉄柵……そうか、鉄柵……」
メグロ警部が頭を抱えてうめいた。
「柵……柵じゃダメなんだ。柵には蓋がない……」
そう、特設留置場の中に設けられた鉄柵はあくまでも柵だったのだ。
それには蓋がなく、殺戮オランウータンの驚異的な身体能力を持ってすれば容易によじ登り、乗り越えることが可能なものだったのである。
「つまり、殺戮オランウータンはこの鉄柵を乗り越えてランポーを殺害し、そして悠々とまた鉄柵の中に戻ったと……」
「そのとおりだよ、メグロ君」
――シャン
錫杖の音が響く。
――この世に不思議なことなど何もないのです
こうして、鳳無頭堂はまたしても難事件を解決し、その名探偵としての声望をさらに高めるのであった。
※石は投げないでください
作者はこんなかんじのまっとうでない短編をよく書いている人です。
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