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【休載】戦闘メイドは異世界で魔女を探す  作者: 瑞城弥生
第一章 ようこそ異世界へ
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004 知識としては知っている。

 チョコレートパフェを食べ終わったころ、榛名のテーブルに陰ができた。不審に思って顔を揚上げると、若い男が立っていた。


「おい、平民」


 もとより孤児の出身で以前から平民だけれど、高校はお嬢様学校だったし、職場の同僚にも上司にも貴族のが結構多くいたからそのへんの感覚を失念していた。貴族相手でもどうなることもないし、もとより並の貴族より権力を持っていた。

 しかし、この店はどう見ても高級な喫茶店だ。そしてここは異世界で、ついでに言えば、今の体は平民の代表とも言える村娘。

 正直いって雑魚である。

 貴族に逆らえばその場で切り捨てられても仕方ない。

 まあ、簡単にやられるつもりもないけれど。


「ここはお前の様な貧乏人が来て良い店じゃないんだよ」


 明らかにみくだした態度で話しかけてきた男は、たぶん貴族の御曹司で割とイケメンだった。着ている服もキラキラとしていて高そうだし。何より気品が備わっていた。貴族を見慣れている榛名からしても見た目は立派な貴族だと思う。それに変な言いがかりをつけてくる態度も、しっかり貴族のテンプレだった。


 孤児院で育った榛名にとって、貧乏人という侮蔑の言葉は散々聞き慣れた言葉である。けれど最終的には国内でも有数の高給取りになったから、その言葉も随分と長いこと聞いていなかった。


「おかしいですね。わたしが店に入った時、店の方はまったく嫌な顔をしなかったし、こうやって美味しいスイーツを食べさせてもらっているのだから、たぶん客として認めてもらったと思うのだけれど。ここってあなたのお店なの?」


 そう言ってやったら、イケメンがすごく醜い顔になった。まさか口答えされるとは思っていなかったのだろう。想定外の事態に対応できない程度の頭の悪い貴族だということは理解した。


「ふん」


 言うことがなくなったのか、言うことができなくなったのか、その貴族は榛名を睨みつけて戻っていった。どこの貴族かわからないけどまあいいや。どうせ自分には関係ない。


「またお越しください」


 お金を払った時に、迷惑料が変わりに釣りはいらないよとカッコつけたら、ものすごい笑顔で挨拶された。ちょっと怖かった。

 村娘っぽくない態度だったから、どこかのお嬢様がお忍びで来たと思われたかもしれないが、それはそれで都合はいい。


 居づらくなったからさっそうと店を出たけれど、店の前で途方に暮れた。仕方がないので少し遠くに見える高い塔の方へ向かう。あの上からなら街全体が見渡せそうだった。


「やあ」


 塔へと向かう途中の寂れた路地で、ふたり組の男に声をかけられた。この娘の記憶にもないから知り合いでは無いと思う。


「お嬢ちゃん。悪いけれど、一緒に来てもらおうかな」


 ナンパではないだろう。

 だけれど暇だったし、面白そうなので付いて行くことにした。


 男は脇道に入っていき、廃屋っぽいおしゃれな家の扉を叩く。廃屋なのにおしゃれとかなかなかである。


「連れてきたぞ」


 ゆっくりと扉が開いて、中の男に迎い入れられた。

 思った以上に広い部屋だ。酒場とか、賭博場といった雰囲気だ。

 

 屋敷には見るからにガラの悪そうな連中と、貴族っぽい男がいた。やばいところにつれてこられたなとは思ったけれど、そもそも村娘が無警戒にこんな場所にのこのこと着いて来た事に、コイツラは誰一人、何の疑問も持たなかったのか。

 頭悪いなコイツら。


「随分と肝が座っているじゃないですか、お嬢さん」


 貴族っぽい男の横に立っている執事っぽい男が最初に口を開いた。


「怯えて泣き叫んだほうが良かったですかね」


 そう言う反応を期待していたようで、男たちは微妙な顔つきだった。


「貴族に楯突いた奴の末路を知っているかな」

「知識としては知ってる」


 たぶんボコボコに痛めつけられるのだろう。幼い少女であっても遠慮なく、ひどい扱いをされるのだ。異世界者の小説にはそう記されていた。間違いない。


「そうか、ならば話がはやい」


 執事と反対側にいる巨漢の男が一歩踏み出した。

 宿屋の娘のような普通の少女であれば、この男の一撃であの世行きだろう。さり気なくスマホを出して目の前の男のステータスを確認する。


 名前:イワノフ

 種族:獣人

 年齢:三十四歳

 職業:貴族の護衛

 レベル:四二

 H P:一二〇

 M P:二〇

 攻撃力:二五

 防御力:四〇


 普通にレベルが高い。どうやらレベルは年齢により上がるらしい。でも攻撃力は同じだし、それ以外は問題なくこの男より上回っているから、多分、ガチで戦っても勝てるだろう。

 だから心配はしていない。


「覚悟はいいかな、お嬢ちゃん」


 ゆっくりと、イワノフが剣を抜いた。その構えを見た限りそれなりの腕だとわかるけれど、こんな悪事に加担しているんだから、大した人間ではないだろう。


「ところで、わたし用の武器はないの?」

「あると思うのか」

「あるといいな」

「残念だったな」


 それだけの腕なのに一方的な殺戮がお望みらしい。鬼畜な性癖なんだろうけれど無抵抗な少女をいたぶる趣味には賛同できない。


 もとより武器があろうが無かろうが、榛名には関係ない。一番の得物は日本刀だけど、無手でも十分に戦える。それに、榛名には奥の手があった。


 ショルダーバックから金属製のキューブを一つ取り出す。使えるかどうかまだ試してはいないけど、MPが結構あるからたぶん大丈夫だろう。


 そのキューブを上に向けて指で弾いた。

 それは空中で日本刀へと姿を変える。

 良かった、どうやら使えるらしい。これで攻撃力がかなり嵩上げされるはず。


 驚く男に剣先を向ける。


「覚悟はいいかな、おっさん」


 傍観者である連中が笑い出す。

 村娘の格好で凄む自分の姿はとても滑稽だったに違いない。

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