013 昇級試験と後始末
数日後、Dランクへの昇給試験のためダンジョンへと向かった。試験監督はアヤセという男だった。いかにも役人風の見た目だったけれどCランクだ。人は見かけによらないのは異世界でも標準だった。
当日はイワノフも一緒に来ると言われ驚いた。昇級試験には、上位ランクの冒険者が立ち会うのが決まりだそうである。そこは同じパーティーのメンバーでもいいらしい。危機管理の一環だろう。実際は榛名のほうが強いだが、イワノフのほうが経験値が高いからありがたい事だった。
しかし。
「なんであんたまでいるのかなぁ」
「使用人の昇級試験に立ち会うのは、雇い主として当然だろう」
当日ダンジョンも受付にはケイン王子もいた。もっともらしいことを言っていたけれど、たぶん嘘だ。それより、突然の王族の参加に試験官が緊張している。そっちのほうが心配だった。
Dランクの試験は最低でも、中ボスの二体目まで行くことだった。単独でそこまで行くのがDランクの最低条件ということらしい。二体目の中ボスを倒す必要も無いらしい。正直言って楽勝である。
最近はラスボスまで一日三周は出来る速度で攻略できている。メイドとしての仕事もあるから、あまり時間は取れないけれど、それでもそれなりの小遣い稼ぎになっていたし、レベルも結構上がっていた。
「じゃあ行きましょうか」
いきなり敬語になったアヤセ試験官の合図とともにダンジョンに向かう。一番最初を榛名が進む。その後をイワノフが続いた。何かあったときのサポートだ。そしてアヤセとケインが並んで着いてくる。出てくる魔物を片手間に倒しながら先へと進む。出現ポイントや魔物の種類なんかは集めたデーターからほぼ予測でた。完全なランダムではなくある程度の法則が認められた。一年ぐらい潜っていればほぼ完璧に予測できるだろうが、そこまでするつもりはなかった。もちろんイワノフにも黙っている。
目標である二体目の中ボスの前で一旦立ち止まった。ここまではほぼ瞬殺だ。
「これを倒せば合格でいいですか?」
「特に倒す必要はありませんが」
「ついでなので」
試験官はすでにやる気を失っている。ここまで無双しているから、試験は確実に合格だろう。けどせっかくの中ボスだ。レベル上のためにも倒して置きたい。
目の前の中ボスを倒してダンジョンをでる。合否の発表は翌日行うからと、その場で解散になった。イワノフとケインは寄る所あるそうなので、榛名は一人で屋敷に向かう。
「折角だから」
今日は試験だから屋敷の仕事はお休みだったことを思い出して、以前寄った喫茶店へ向かってあるき出す。メイド服のままだけど問題はないだろう。
「シヴァ?」
喫茶店に向かって表通りを歩いていたら、突然背中から声をかけられた。
その声に僅かな嫌悪感を覚えながら榛名が振り返ると、そこには見慣れた女性が立っていた。シヴァの記憶にある女性だ。
「お義理母さま」
とっさに口を付いて出てきた言葉に驚いた。そして懐かしい感覚が榛名の感情を支配する。
恐怖だ。
もとから存在するシヴァの感情が爆発して、体の自由が利かなくなった。それは榛名の動きを封じるほどの強力な感情だった。
「何をしているのですか。帰りますよ」
「はい」
シヴァはすでに死んだものだと思っていた。けれど、彼女の体に刻まれた潜在意識のようなものが強力な恐怖の感情に支配されて、榛名の言うことを聞いてくれない。
家族から虐待を受けて居たのは、シヴァ中に転移した時点でわかっていた。考えてみればシヴァの家族を鉢合わせる可能性は十分にあったのだ。それに気づいてなかった榛名の落ち度だ。
いや、恐怖の感情がここまでの精神力を持っているなんて想定外だ。
恐怖なんて感情は、あの女に出会ってから、忘れてしまったていたのだから。
別に同情したわけでもないが、榛名はシヴァの無意識の恐怖に従った。この娘がどんな環境で育ったのかは知りたいと思った。
単純な気まぐれだ。
完全に暇つぶしだ。
体なんてその気になれば取り返すことは簡単なのだから。
シヴァの家は二階建てで意外と大きかった。
職業が村娘だったから長屋にでも住んでいるのかと思ったけれど、案外とお金持ちなのかもしれない。でも、貴族ではないようだった。
「シヴァを連れて帰りましたよ」
「ああそうか」
この家の主人らしい男が食堂で酒を飲んでいる。昼間っから泥酔しているとかなかなか素敵な生活をしているようだ。
「こっちへ来い」
手招きする男の元に近づいた。シヴァの恐怖心は更に強くなる。多分このあと殴られるんだろう。そう思って身構えた。けれど違った。
いきなり腹部に蹴りを食らった。防御力の高い榛名にとってはどうということのない攻撃だったけれど、村娘が蹴られたかのよううまく後ろに吹っ飛んであげた。
いきなり娘に蹴りを入れるとか、まさにクズだ。
「なんのつもりだ」
「申し訳ございません」
震えた声で謝罪しているのは、シヴァの残滓だ。
そうしながらも冷静に、榛名は目の前の男を見ていた。
殺すのは簡単だ。
けれど、それでシヴァの無念ははらせないだろう。
「お前は黙って俺の言う通りにしていればいいんだよ。それになんだそのふざけた格好は、冒険者にでもなったつもりか」
男の手が、首にかかる。
そして、シヴァの記憶が走馬灯のように駆け抜けていった。彼女が心の奥底にしまい込んでいたのだろう。
ここまでしたのか。
虐げられてきたシヴァの記憶は、とても直視できるものではなかった。
そして榛名は理解した。
「何笑ってんだ」
どうやら顔に出ていたらしい。
榛名は右手を軽く振る。
殺さないように。
潰してしまわないように。
「ぐわぁ」
顔を殴られた男は驚いてシヴァの首から手を離す。その隙を逃さずに男の腹を殴りつけた。突然のことに驚きつつ肘をつく男の頭を抑えて、今度は顔面に顔面に膝を入れた。それから後ろに蹴り飛ばす。刀を抜いて振りかぶると、右腕、左腕、右脚、左脚の順に切り落とした。
「なにを、する」
「復讐だよ」
痛みでそれ以上声を出せないようだった。もう意識もほとんど無いだろう。
このまま放っておけば死ぬ。
それでいい。
「何事だ」
別の男が部屋に飛び込んできた。転がっている男によく似た若い男だ。記憶にあったシヴァの異母兄だ。
「シヴァ、お前何を」
彼は、四股を失って転がっている父親の前で、血のついた刀を持っている異母妹を目の前に動揺している。その間に切り捨てた。
それから屋敷の中を探して歩いた。義理の母はすぐに見つかった。
「あなた何を」
「お父様とお兄様はもう他界されましたよ。あなたもご一緒にいかがです」
すぐに何が起こっているのか理解したらしい。血の付いた刀を持っていれば一目瞭然だ。頭の回転が早い人間は嫌いではない。
「ゆ、許して頂戴」
まあ、だいたいそう言うけれど、許すつもりは毛頭ない。
榛名は無言で刀を振り下ろした。
「あと一人」
シヴァの記憶を頼りに二階の部屋に向かう。可愛らしく飾られた扉を開けると、ベットで震えている幼女がいた。
「おねえさま?」
五つ下の義理の妹はシヴァに対して何もしていないだろう。直接的に危害を加えられたわけでもないし、まだ幼いから良く解っては居ないだろう。
榛名はゆっくりとその幼女に近づくと、抱きかかえるようにして、彼女の胸にナイフを突き刺した。
「ごめんね」
発せられた言葉は、シヴァの想いだったのかもしれない。
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