第七話 俺と念話と謎の声
今から、武器屋に行って銃器でも買ってくるのかと意気込んでいたカケルだったが、イリスが要求した行為は想像とは違っていた。
「さて、早速ですが念話を覚えてもらいましょう」
「念話? 装備じゃなくて?」
カケルは今まで、元の世界で見たマジシャンや超能力の類を今まで一度も見たことがない。ましてや、念力なんて尚更だ。
「あのですね、いつまでも何もない空間に話しかけていたら、変人扱いされることぐらい理解してください。大丈夫です。念話ぐらい、覚えている人は沢山います」
「あの、俺が見てきた中で使っている人は見たことないんだが――」
「失礼しました。冒険者の中でという言葉をつけないと、あなたは推測できないことを失念しておりました」
「いちいちうるさいなぁ」
けれどカケルは、確かにこのままでは変人扱いされるな。というか、俺超能力使えるようになるの!? スゲー! というのがウソ偽りのない本心だった。
「大変低俗な理由ありがとうございます。では、その低俗な気持ちを心の中で叫んでください」
「低俗低俗って……わかった。やってみる」
カケルは言われた通りに、超能力使いたいと心の中で叫びまくる。
「……だめですね。もっとです」
「もっとって……ていうか、イリスのほうから念話をすればいいんじゃないか? そうしたほうが、俺も感覚がわかるだろうし」
「私がですか?……私が念話で喋っても全く意味はないのですが、仕方ありません。……『ほら、どうですか?』
しばらく間が開いた後、イリスの声が、頭から直接聞こえるような不思議な感覚が広がった。
「――! これが念話か!」
「はい、これが念話です。マスターにはこれができるまで、冒険者になることは許可できません」
「……大体何日かかるんだ?」
「安心してください。一日ぐらいです」
カケルとしては、イリスのすごい力であっという間に能力が身に着けられる事を期待していたが、あっさり破られてしまった。
「これから大丈夫なのか」
カケルはこれからの冒険者人生への不安が高まった。
「ん? なんだこの感覚は?」
それはカケルが、挑戦し始めて七時間後のこと。カケルは、何か不思議な感覚にとらわれた。
「――! 今ですマスター! 思いを私に伝えてください!」
「わかった。……『俺は、胸を、揉みたい!』どうだ! やったか?」
「……えぇ、やりました。やりましたとも。この上なく下劣な願いが聞こえました」
そう、カケルは途中までは超能力のことを考えていた。しかし、途中でイリスに『もっと自分の根底にある、魂の欲望を私に伝えてください』と頼まれたので、男なら、皆大好きなものに切り替えた。
「それでは、その下劣な言葉以外で私に念話をしてください」
「下劣で悪かったな。えっと、『イリスは、今日元気か』」
「えぇ元気でした。さっきまでは、の話ですが」
「そりゃどうも」
イリスは、カケルに大音量で男の欲望を聞かされたことを、大変不満に感じているようだったが、とりあえず念話は成功した。
「……はい。これで念話のパスは繋がりました。一応言いますが、これ、他の人には使えませんからね。私とマスターオンリーです。勿論わかってますよね」
『……勿論わかってるよ。これ以上、馬鹿にしてくれるなよ』
嘘だ。カケルは念話を使って、普段嫌いな奴に嫌味をたくさんぶつけてやろうと企んでいた。今見事に破壊されたが。
イリスはしばらくカケルのことを、ジトっとしたような目で見てきたが、話を続けてくれた。
「それでは、明日の予定を説明します。明日は、配給所から朝食を頂いたあと、スラム管理署にある冒険者登録センターで登録します。その後、私がリサーチして選別した冒険者装備を扱っている店舗に行き、あなたの持っている十万エールを使って武器を購入します。そこから、外地に行って射撃訓練をし、一日終了です。質問はありますか?」
『質問。モンスターを倒しに行かないのか?』
「そもそも冒険者とはモンスターを倒すことが専門ではないのですが……マスターが生き残る確率一パーセントを潜り抜けれるのなら、どうぞご勝手に」
『元の予定でいいですむしろそれでお願いします』
「よろしい。ではおやすみなさい」
カケルは気づいていないが、通信機器を介さずイリス念話できることは、十分超人の域に達している。
イリスはカケルに、冒険者の大半は念話を使えると説明していたが、そんなことはない。というか全員使えたら、通信機器が必要なくなる。
カケルに説明したのはイリスの助けがあって冒険者の大半が取得できるという意味だ。
「まぁマスターは慢心したらすぐ死ぬので、思いっきりレベルをあげての確率ですが」
それに、イリスのサポートを受けたら戦闘のド素人でも、遺跡から生きて生還することができる。
イリスが説明したのはカケル一人でモンスター退治に向かった時の生還率だ。
そんなこともしらず、カケルはまだ死にたくないので、そんなギャンブルをする気になれなかった。
それにイリスの命令に違反するリスクも、今のところ取る気にはなれなかったので、おとなしく寝ることにした。
「こちらは契約することができました。ほかの方々はどうですか?」
「おう、こっちも楽に終わったぜ。奴さん、チートという単語に異常に反応してな! いやー簡単だった」
「こっちも簡単だったわ。私が意味ありげな言葉をかけると直ぐにデレデレになってOKしてくれたし。あほそうだったから、力は多めに上げたけど」
「いいよね~ちょろい人たちは。こっちなんか『人の力に頼って威張る人にはなりたくありません。出直してきて。』だってさ。何とか使命やら世界がああだこうだ言って、努力チートっていうの? ぽいものをあげたらやっと納得してくれてね~」
カケルは気が付くと謎の空間にいた。イリスのような声も聞こえる。
他にも人がいるようだが、意識にもやがかかってまともに思考できない。
「とりあえず、皆さん無事に契約できたようですね。何よりです」
「それより、お前さんの契約者大丈夫なのか? 能力何も無しで、組織の保護も受けないんだぞ」
「そうよ。あの方が無理やりねじ込んできて、急遽あなたが担当することになったけど。あなた指導者役、やったことないでしょ?」
謎の声達がイリスに疑問を呈したようだが、イリスには自信があるようだった。
「でもイリスって無意識のうちに相手を罵倒するしね~。愛想付かせないようにしてよ」
「大丈夫です。私の超スーパー人心掌握法でマスターは私にメロメロのはずです」
「おっ、出たぞ! イリスの根拠のない自信と突然の語彙力低下!」
「あなたほんとに契約者を直ぐ殺さないでよ」
全くだ。俺は早く死にたくない。
「二人がそこまで言うなら、私も更に警戒度を上げましょう。では、お疲れさまでした」
そうイリスが言うとカケルの意識も急速に薄れていき、その場の記憶も消えた。
謎の声、誰が喋っているかわかりやすくするの、苦労するんですよね~