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終末世界の方程式  作者: 釣り人
第一章 冒険者
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第四話 俺と追放とスラム街

 かっこよく去ったはいいものの、俺はこれからどうなるんだろう。カケルはそんなことばかりを考えている内に自宅についてしまった。


「お母様、ただいま帰りました」

「学校から話は聞いています。ゲンゾウさんが来るまで部屋にいなさい」


 カケルはこの展開を予想していたが、いざ対面すると言いようのない不安に襲われた。

 部屋に戻る途中妹がすごい目をしてカケルのほうを見ていたが、付き合う気力も起きず、無視して自分の部屋にかえった。


「はぁー。俺の人生、どこでミスったのかな」


 カケルは今回の事件を未然に防げた方法をいくつも考えた。スズカと違うクラスなら。あの時保存館に行かなければ。カフェに行かなければ。そもそも、()()()()()()()


「やっぱりあの腐れ性悪女神に出会ってからかなぁ」


カケルがそう呟いたとたんエミコがカケルを呼ぶ声がきこえた。


「カケル、ゲンゾウさんが来ました。早く来なさい」

「わかりました」


 カケルは女神へ非難しなければよかったと、少し後悔しながらゲンゾウの待つ部屋に向かった。





 

「カケルです」

「入れ」


 カケルがゲンゾウの部屋に行くと、そこには家族全員が座っていた。机には短機関銃が一丁。リュックサック。そして、十万エールがおいてある。


「理解しているとは思うがお前が退学になった以上、家にはおいておけない。それは手切れ金と思ってもらえばいい。あと、おまえの持っている物は携帯端末も含め、全て没収するからそのつもりでいるように」

「分かりました」


 カケルは理解していた。自分の存在を証明するものは全て消し去ることぐらいは。

 ただ、いざやられると心に来るものがある。


「兄さん! 本当にいいんですか!? 貴方という存在を証明するものは全て無くなるんですよ!」

「それくらい理解している。アイリが思っているほど俺は馬鹿ではない」


 アイリは何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに黙ってしまう。それを見て、ちょっと普段の嫌味への意趣返しができたとかと思うと、カケルは少しすっきりした。


「荷物をまとめたら、即刻家を出るように。それか、まだ家族の中で話したい奴がいるなら、別室で五分間だけ待つ」


 カケルは特に話したい人がいるわけでもない。むしろ、全員嫌いなのでさっさと拒否しようと思った。

 しかし、意外な人物からの希望が出た。


「私、兄さんと話したいです」

「……わかった。五分だけだぞ」


 ゲンゾウは表情には出してはないが、内心意外に思っていそうだ。

 カケルも内心驚いてはいたが、拒絶しようとは思っていなかった。

 そうしてエミコとゲンゾウが部屋を出て行った瞬間、いきなりアイリが抱き着いてくる。


「お、おいアイリ!。お前そんな奴だったか!?」

「……死なないでください兄さん。私が後を追うまで」

「おいそれって――」

「お父様、もういいですよ」


 カケルにアイリの真意を聞かれる前に、アイリはゲンゾウを呼んでしまった。


「よし、それじゃあマンションの前に運び人がいるから、そいつについてけ。運び人に何も話すんじゃないぞ」

「……わかりました」


 カケルは家を離れる前にアイリの行動の真意を聞きたかったが、ごねると手切れ金まで取られかねないと考え、カケルは動揺させるためのいたずらだと決めつけた。

 マンションの前に出ると一人のスーツ姿の男がいた。


「やぁ。君かい? 一人でスラム街へ行こうとする馬鹿は」


 カケルは黙って頷く。内心ビビッてカケルは応える元気がない。

 青ざめた顔を見た運び人は、何故か面白そうに質問した。


「君、どうしてスラムなんか行くんだい? あ、もしかして親子喧嘩でもした? いやー、最近の子供は猪突猛進の馬鹿が多いね~」


 カケルは何も言わなかった。


「あれ? 緊張して言葉が出ない? ……まぁいいや。車に乗ってくれ、話はそこでたっぷり聞くから」


 カケルは運び人のことが嫌いになりそうだったが、無用な争いを起こさない分別は持っている。

 そのまま黙って車に乗り込んだ。

 しばらくは二人とも黙ってはいたが、運び人がカケルの緊張が解けたと判断したのか、また話しかけてきた。


「君。さっきまで黙ったまんまだけど、もしかして別の理由? 捨てられるとか? 企業に売られるとか? あっ、もしかして、()()()()()()()()()()()


 この言葉は、冒険者絡みでトラウマのあるカケルの心の琴線に触れた。


「なるわけあるか! 冒険者なんてクソみたいな仕事、金輪際絶対やらないぞ!」

「そうかい。まぁ捨てられた理由は聞かないけど、お前みたいな慎重な癖にやらかす奴が、一番冒険者になるんだよな。じゃあ冒険者になったらこの連絡先へ連絡してくれ。『都市はいつでも勇敢な冒険者を募集してる』。なんてな」

「……お前は何者なんだ」

「俺か? 俺は、只のしがない都市職員だよ」


 それだけ言うとそれっきり、黙ってしまった。

 カケルは更に話しかけようとしたがゲンゾウとの約束の手前、それはできない。

 結局二人は黙ったままスラム街へ着いた。


「よし。これでお前とはお別れだ。面白おかしく生きてくれ」

「言われずとも、直ぐに死ぬ気はない」

「ははっ、おまえ絶対冒険者になるな。そうだ、これをもってけ」


 職員は何かの錠剤をカケルに放り投げた。


「回復薬だ。高いんだぞ? 一つ五十万エールだ。高いと思うか? けどこれでも安くなったほうなんだぞ。全く企業は、努力してるよな?」

「……そんなものを、俺にくれていいのか?」

「いいよ。俺はもっといいものを腐るほど持ってるし、お前がこれを使うときは冒険者になる時だ」

「うっさい。……ただ、これはありがたく受け取っておく」

 そう言ってカケルはスラム街の奥地に向かった。


「せいぜい俺を稼がせてくれよ? カケル君」








カケルがスラム街について一時間がたった。いまだ、カケルは噂に聞いていた住民の襲撃にあっていない。


「でも実際問題、冒険者になる以外、此処でどうやって生活するか全く見当がつかないんだよな。今襲われてないのも、俺が武器を持っているからだし」


 カケルはそう言っているが、今の今まで襲われないのは、ただの幸運にすぎない。カケルが運よく弱小勢力の組織の間を通っているだけである。もし有力勢力の縄張りに踏み込んだら、遠かれ早かれカケルは死んでしまっただろう。


「勉強ばっかりで、スラム街で生きる方法、なんていう気の利いた本なんて読んでないしな。はぁー、これから十万エールでどう生活していけばいいんだ」


 しかし幸運は長くは続かない。

 カケルは認知していなかったが、スラム街なら一万エールでも少し武装した相手から、命がけで奪う金額に十分値する。それが十万エールともなると、十分武装した冒険者でも、素人そうなら命がけで奪いに行く。つまり、今のカケルは体のいいカモだ。

 カケルがその発言をしたとたん周辺にいた、武装している住民が一斉に取り囲んだ。


「おい、いきなり何するんだ!」

「おい兄さん。こういう言葉を知っているか。『持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っている物でも取り上げられる』。つまり俺たちのような持っていない人間は持っている奴から取り上げるしか生き残れねぇんだよ!」


 一人の男の言葉を合図に一斉に襲い掛かってきた。カケルは包囲網を突破するため敵の一部に突っ込む。

 住人たちの弾丸が降り注ぎ、カケルは何とかかわそうとした。けれど、カケルはもちろん戦闘なんぞやったことはないため、当然腕や足に銃弾が当たる。それでも銃弾をばらまくことで何とか包囲網を突破し、休むことなく住人にめがけて、銃弾をばらまき続けた。


「ほらほら、もう弾薬がきれそうだぞ?」


 カケルには喋る余裕が待ったくない。住人の言葉を無視し、力の限り戦った。

 しかし、あと二人! というところで、カケルの胸に運悪く当たってしまう。

 あと少しなのに、ここで俺の運も尽きたか。もう少し生きたかったな。と考えながら、カケルは意識を失った。






 カケルが目を覚ますとカケルが倒し損ねた敵が言い争いをしていた。


「おい! この小僧を殺ったのは俺だ!」

「いや、俺の球が足に当てて機動力を奪ったんだから、俺にも分け前をよこせ!」

「はぁ? ふざけんな! 俺の金だ!」

「あ? やるか?」

「上等だ!」


 カケルはこれ幸いと残る力を振り絞り、ふたりが言い争いをしてる内に逃げ出す。


「今回ばかりは、悪運に助けられた。昔から俺の悪運には世話になってるなっ、くそ、血が出すぎた」


カケルに当たった弾丸は、奇跡的に全弾貫通しており、唯一胸に当たった弾丸も臓器を傷つけてはいなかった。

 しかし、痛いものは痛い。そして、多数の銃弾が当たったことによる流血はすさまじく、カケルの命はこのままでは遠かれ早かれ死ぬだろう。

 カケルは這う這うの体で何とか建物の陰に隠れることができた。そこは偶然にも死角になっており、ちょうどカケル一人が隠れられる広さだった。


「いよいよ、これは女神さまを信仰しなきゃいけないかもなぁ」


 カケルがそうつぶやくほど、今の状況は奇跡的だった。

 カケルが死ぬ場面はいくつもある。スラム街に入った瞬間、スラム街の住人との銃撃戦、逃げている途中、寝床探す時。どれも一瞬でもタイミングや位置が悪かったらカケルは死んでいただろう。

 カケルは血が止まらない体を見て、止血剤がないかカバンの中を調べると、職員から貰った回復薬が出てきた。

 カケルは一瞬迷ったが、背に腹は代えられないとその回復薬を口にする。するとたちまち激痛が走る。


「あいつ、だましやがったな」


 カケルは悪態をついたが、驚くことに傷はもう治っている。

 それを見たカケルは、どっと疲れが出てきて倒れるように寝込んでしまった。

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