第十二話 俺と強化服と優先度
シンジとレティシアがイリスの能力に驚愕している間に、イリスは強化服の調整を終わらせていた。「用件等」
「強化服の調整が終わりましたので、次は対モンスターライフルの試射をしましょう」
「お! やっとか!」
シンジの中には負けた悔しさも残ってはいたが、今は大金を払って買った強化服を使いたいという気持ちで一杯だった。
「レティーは狙撃銃の練習ですね。使ったことはありますか?」
「あっ、はい! 何度か使用したことはありますが、特段得意というわけじゃないです」
「そうか、今まではイリスは俺に付きっ切りに訓練できたけど、今はレティ―がいるんだったな」
今まではマラソンや銃の組み立てなど、イリスがレティシアよりもシンジを優先していたのでシンジの訓練は今までとそう変わらなかった。
「そうだよな。レティシアは完璧人間じゃないもんな」
「私のことをどう思ってたんですか!? 別にシンジさんより経験が豊富なだけで、才能は多分シンジさんとそう変わらないですよ」
そう、レティシアにも分からない事や、不得意な分野はある。只、スタートラインが違うだけで、中身は普通の女性だ。
何処かレティシアのことを何もしなくても成長すると思っていたシンジは、その考えを恥じ入るとともに、もうイリスの専属訓練は受けられないと考えると少し残念な気持ちになった。
「何考えているんですか? 私はいつでもマスター優先ですよ?」
「え?」
シンジは混乱していた。
「だって、レティ―に対して狙撃の訓練をするんだろ? 俺が最初アサルトライフルの訓練をしたみたいに」
「しませんよ」
凄く単純な回答だった。これにはレティシアも驚愕している。
「じゃ、じゃあ私は何をすればいいんですか?」
レティシアが心配そうにイリスに聞く。
「別に何もしないでほっとく訳ではありません。前方を見てください。」
そう言われたレティシアが言われた通り、前方を見る。
「あ! モンスターがいなくなって、的が映っています!」
「あれに向かって百発百中で的の中央を狙撃できるまで撃ってください」
そう言った後、イリスは興味を無くしたのか改めてシンジのほうを向く。
「さて、強化服の使い方を説明しましょう」
「いや待て待て、もっと詳しくレティ―に教えなくてもいいのか!?」
シンジからは、レティシアに対しかなり杜撰に対応しているように見えた。
「今はマスターが優先です。時間が余りましたら確認しますが、それまでは放置です」
「でもそれだったらレティ―が可哀想だ――」
「貴方は私のマスターですよ?」
そこにシンジは強烈な自負を感じた。
「大丈夫です。幸せな人生になることは私が保証します。私はそう言いました。それは当然何よりもマスターを優先することと同じです。いざとなれば、レティ―を肉の盾にすることも私は厭いません」
実際そういう状況になったらイリスは迷わずレティシアを切り捨てるつもりでいたし、今後もそうするだろう。シンジと契約している限りは。
「元はと言えば、死ぬ命だったのです。別段気にする必要もないでしょう」
「それは余りにも――」
「大丈夫です」
シンジがイリスに抗議しようとしたところ、レティシアが止めに入る。
「イリスさんの言う通りです。別に私は捨て駒になっても構いません」
「そしたらレティーは……」
「私はシンジさんに助けられた身、本来なら奴隷としてこき使われても文句は言えません。それをお情けでイリスさんは暇があったら訓練してくれるのです。これほど名誉なことはありません」
シンジはこれを聞いてイリスに反論する気を失った。当の本人が納得しているのだ。俺だけが抗議しているのも滑稽だと思ったからだ。
「レティ―も言った通り、私は何もしない訳ではありません。時間があれば教えます」
「……分かった。じゃあ時間を作るために、さっさと強化服を着よう」
そう言ってシンジはイリスを急かした。
「分かりました。では、このチャックを開けて――」
シンジは多少手こずったが、何とか強化服を着用することが出来た。
だが、強化服を着用するとすぐに超人的な力を得られるのかとシンジは思っていたが、今の所ただ重い服を着ているだけだった。
「これ、ほんとに強化服なのか? パチモンじゃないだろうな」
「そんな訳ないじゃないですか。それだったら私が知らせます」
先程のイリスの話を聞いているシンジは、イリスのことを疑いもなく信じた。
「この強化服は電源を入れる代わりに、スイッチオン! と言います」
「分かった。スイッチ、オン!」
「別に叫ばなくてもいいです」
イリスに指摘され恥ずかしくなったばかりか、何も強化服に変化はない。
「おい! さっきはあんな事を言っておいて騙すなんてどういう了見だ! お前は俺を最優先して――」
「堪え性のないマスターですね。今はエネルギーパックからエネルギーを充電している途中です。後十数秒ほど待ってください」
イリスにそういわれたので、シンジは大人しく十数秒待った。
すると、強化服に青い線が走り始め、蒸気を上げ始める。
「……これ、壊れたりしないよな」
「大丈夫です」
シンジはイリスの言葉を信じ、まだ待った。すると、電子レンジの『チン』という音が聞こえた。
「何で『チン』なんだよ! もっとかっこいい出来上がりましたのサインはなかったのか!?」
「そんなことに突っ込まないで、さっさと動いてください。強化服の性能が確認できますよ」
シンジは、性能を確かめたかったことを思い出し、試しに走ってみた。
「うぉお! 早!」
一瞬でシンジの体は加速し、大地を駆け抜けた。走れば走るほど速度は上がっていき、それでいて全く疲れを感じず何処までも走れるような感覚さえ感じた。
「やば! 早く戻らないと」
シンジは余りの気持ちよさに既にレティシアとはぐれそうなくらい遠くに来ていた。このままこの感覚に酔っていたら確実に離れ離れになっていただろう。
そうして、また凄いスピードでレティシア達の所へ戻っていった。
「これ凄くないか!? こんなものがあったなんて!」
シンジは終始興奮しっぱなしだった。シンジは確実に三千万以上の価値があったと確信していた。
「効果は存分に感じたようですね。でも、一応効果の程を伝えさせて頂きます」
「あぁ! 頼む!」
今のシンジだったら何だって許せるだろう。それくらい浮かれた気持ちだった。
「効果は持久力増強、筋力増強ですね。これは先程痛いほど実感したと思います。ですが、欠点もあります」
「欠点?」
シンジには欠点など何も感じられなかった。むしろ、これより素晴らしいものがあることのほうが信じられなかった。
「エネルギーパックです。余りに無茶な行動をすると、エネルギーは急速に失われるでしょう」
「ちょっとまて! 今のエネルギー残量はどれくらいだ!?」
シンジは急速に夢から覚め、金の心配を始めた。
「大丈夫です。あれくらいの使用の仕方だと……一週間は今のエネルギーパックで持つでしょう」
「そんなに持つのか!?」
シンジとしては、持って一日くらいだと思っていた。
「勿論、性能が低いものだとエネルギー効率は変わります。マスターがこれがいいのではと言った四百万の物だと、マスターが思った通り一日でエネルギーパックを全部使いきるでしょう」
「……高いものを買っておいて良かったな」
シンジは心底そう思った。一息ついたところで、シンジに新たな疑問が思い浮かぶ。
「じゃあ、筋トレの意味はあるのか? 今の所、筋肉の必要性が全く感じられなかったんだが」
「それは先程言ったエネルギー効率の話に繋がります。単純なことです。超人に近づけば近づくほどエネルギーの消費が抑えられます。中にはそれを求めすぎて、強化服無しでも強化服を付けたような動きをする人がいます」
「そんなこと可能なのか!?」
シンジはそうなれるとは到底思えなかった。
「あくまでごく一部の人です。ですが、その道は辛いですよ。何度も筋肉を壊し、回復薬で再生する。それの繰り返しです」
「……遠慮しておこう」
いくらシンジといえども、ロマンの為に痛い思いはしたくはなかった。
そうして、シンジが存分に強化服の凄さを感じ取ったところで、イリスがまた新たな指示を出す。
「これで対モンスターライフルを撃てますね」
「お! 遂にか」
腕が折れるのは嫌だが、一度撃ってはみたいと思っていた。
強化服を着ている今、その願いは叶う。
「良し、持ち方を教えてくれ!」
「了解しました。ここはこうして――」
イリスが丁寧に教えてくれたおかげで、意外とすぐにもてた。また、ライフルの持ち方と一部共通するところもあったので、前ほどシンジは怒られずに済んだ。
「では、早速撃ってみましょう。的を出します」
またどこからともなくモンスターが出てきた。それは、シンジを瀕死の状態にしたあのモンスターだ。
「……悪趣味だな」
「何を言っているのですか。今までの意趣返しが出来るチャンスですよ」
そう言われたシンジは俄然やる気が出てきた。
「よっしゃ! あのクソモンスターをぶち殺すぞ!」
「その引き金を引けば撃てますよ。あ、一発だけにしておいてくださいね。腕が千切れる可能性が出てきます」
シンジはその言葉に反応して、少し闘志を弱めた。だが、シンジには初めから弾を連発して撃つ気はなかった。弾の値段だって馬鹿にならない。
「……分かった。一発だけだな」
「はい。ではどうぞ」
そうイリスに促され、息を止め特殊弾を発射した。
「な!」
「きゃー!」
一瞬物凄い力が掛ったかと思うと戦艦の大砲のような音が聞こえて弾は飛び、着弾して爆発した。
遠くの方で黙々と銃弾を撃っていたレティシアも驚くほどの音だった。
勿論近くにいたシンジも驚愕の表情で固まっていた。想像より遥かに威力が高かったのだ。
「死にましたね」
「え、もう?」
正直シンジは二、三発当てないと死なないと思っていたが、目に映るモンスターをよく見ると、確かに上半身を完全に抉り取られ、絶命していた。
「……やっぱり持っていけば良かったかな」
「後悔は後にしましょう。では、時間もできましたし、マスターは向こうに見える的を当てる練習をしていてください。マスターの他の頼みなのでしょう? レティ―の面倒を見ることは」
「あ、あぁ」
シンジは空返事をした。そうして、暫く呆然とし、慌てて射撃の練習を始めた。
明日も更新できます! やった!
それはそうと、短編ばっかり書いててすいません……
でも、書きたい欲求が出てきてしまうんですよね。




