第九話 俺とハーレムと勇者の存在意義
キャロルの店を去ってから一週間、レティシアを助けてから三日が立った。
訓練を行うと、改めてレティシアの凄さを思い知った。
「お前ほんとに凄いよな。俺が苦労したマラソンを涼しい顔してこなすなんて」
「いえ、私はズルみたいなものですから」
「それでもあれは凄いけどな」
レティシアは通常の訓練のほかに、イリスから様々な課題が課せられた。交渉術、縄抜け術、冒険者ドクトリンなど、シンジが聞いてもさっぱりな物ばかりだ。
「俺ならあれ聞いただけで頭パンクする」
「私でも大変ですよ、あれ。申し訳ないですが、シンジさんのことが羨ましくなってしまいます」
「……俺ももっと頑張ろう」
さすがに、女子ばかりにつらい思いはさせたくなかった。まぁ、女性と男性の差など、連邦ではほとんどないが。
「でも助かったな。後一日でも伸びていたら食料足りなかったぞ」
「それも計算済みです。無用な心配はしないでください」
イリスが心外だとシンジに言外に訴える。
『済まなかったな』
「全く、マスターももっと私に頼ってほしいものです」
『お前、俺が頼ると『もっと自分で考えなさい』っていうじゃねぇか』
「それはそれ、これはこれです」
イリスに助けを求める水準はシンジにはいまいち理解できなかった。
「シンジさん? イリスさんとお話しされているのですか?」
「あぁ、ちょっとね」
「私も念話を覚えられればいいのですが……」
イリスが言うには、それは無理なようだった。
高度にネットワークが接続されてないと念話は使えないらしく、レティシアは念話が使えることは一生ないらしい。
これにはシンジも自分だけの才能と、一人でニヤニヤしていた。後でイリスにキモイといわれたが。
「そんなことより、見えてきた」
「……あれがお店……ですか?」
正直レティシアの反応はシンジには良く理解できた。誰だってあのおんぼろ小屋がお店だと思う人はいないだろう。第一、最初はシンジも行きたがらなかったのだ。
「まぁ、入ってみたらわかる」
「はぁ」
少し不安になっているレティシアを、無理やり押し込みながらキャロルの店に乗り込んだ。
「邪魔するぞ!」
「こ、こんにちはー」
当然呼び掛けてもキャロルは出てこない。
「あれ? お留守なんですかね」
「いや、たぶん向こうで寝てるんだろ」
シンジは前と同じようにずんずんと店の中を進んでいき、カウンターで寝ているキャロルを見つけた。横には箱の山があり、布が被さっている。
「おい! キャロル! 約束のものを取りに来たぞ!」
「ふが!? あれ? お客さんじゃないですか」
耳元で叫ぶと案外早くキャロルは起きた。それと同時に、隣にいるレティシアを物珍しそうに見ている。
「シンジさん。人でも雇いましたか?」
「どんだけ俺に人望が無いと思っているんだよ!」
「だって、一人でしたし。普通複数人で冒険者ってなるものですよ」
それはシンジにとって初耳だった。
『イリス、どうなんだ!』
「その通りですね」
ということは、キャロルからは初めからボッチの人見知り冒険者と思われていたということだ。
「……俺は人見知りでもなければ、ボッチでもないぞ!」
「友達いますか?」
「……ここにいる!」
そう言ってシンジは勢いのままレティシアを指差した。
「あ、私はシンジの先日お友達になり冒険者になったレティシアと申します。以後お見知りおきを」
「そうですか。よろしくです」
そう言ってキャロルはレティシアと握手した後、ジト目でシンジのほうを見る。
「ハーレムでも作る気ですか?」
「はぁ? 何でそう思ったんだよ!」
「最近のニュース見ました? それに影響されたかと思ったんですが……」
シンジはニュースは見ない主義だった。
必要なニュースはイリスが教えてくれるし、流れているニュースも、誰誰が結婚したやら、会社の不祥事がどうこうとか余り自分に関係ないことばかりだ。
「私はシンジさんに助けられました。ハーレム目的かは分かりませんが……」
そこはもっとフォローしろよ! とシンジは思っていたが、実際女性を囲うために助ける無謀な冒険者は結構いる。シンジは冒険者の中でも賢い方なのだ。
それを言った後キャロルは更に追求した。
「命がけですか? 片手間ですか?」
「い、命がけだったと思います。現に銃弾がシンジさんの体に当たっていましたから」
それを追求した後、キャロルは何故か満足そうに頷く。
「なんだ? 俺の実力でも図ったのか?」
「いいや、私はシンジさんが勇者に感化されて使えもしないガキを連れて来たのかと思っただけです。でもその様子ですと、純粋な戦力強化みたいですね。どこで使えるか判断したかは聞きませんが」
キャロルはそういった後、店の奥から珍しい紙の新聞を持ってきた。
「――? 何でデータじゃないんだ?」
「単純に連邦首都が出しているニュースを読む人が少ないからです。勿論ニュースの内容はデータで持ってきますが、それをわざわざニュースサイトにアップするのがエネルギーの無駄らしいですね」
そう言ってキャロルは、新聞の一部分を指差した。
「何々? 『勇者タクミ、早くも三人のハーレム候補を発見か!?』こ、こいつ!?」
シンジは連邦の勇者があのタクミだということに、シンジはやっと気づいた。
「――? もしかしてお客さん、ご存じでしたか?」
「ご存じも何も、俺が学校で同級生だった……あ」
シンジは慌てて口を閉じた。これ以上話すと個人情報がバレまくる。だが、その僅かな隙を逃すキャロルではない。
「ふーん、学校。勇者タクミは確か、中層都市出身だったはず。となるともしや貴方は……」
シンジは焦りまくった。これでは自分がどこ出身だったか隠してきた意味がなくなってしまう。
更に、此処にはレティシアもいるので、彼女にも伝わってしまう。
『イリス! 助けてくれ!』
シンジは最終的に、イリスに助けを求めた。
「助ける必要性が感じられません。 ばれたら困るのは、マスターが見栄を張っているからじゃないですか? 名前さえバレなければいいんですし」
『もし、名前もバレたらどうする!』
「そしたら自動的に手を引くでしょう。名前を消されている人間の過去を暴きたい人はそうそういません」
シンジはイリスの説明に納得し、もう情報を守ることを諦めた。
「まぁ、そこまで深くは詮索しません。お客さんの情報を暴いても何もいいことはありませんので」
「意外だな。俺の過去を赤裸々に分析すると思ったが」
「お客さんの信頼が無くなったら私もう倒産するしかないですよ」
確かに、キャロルの店の客はシンジ只一人だ。そのシンジが不信感を感じたら店が潰れる。良く考えてみれば当然のことだ。
「まぁ、タクミとは昔縁があったんだよ。嫌なやつだったけどな」
「そうなんですか? 見たところ、爽やかそうな好感触の男性ですが」
レティシアが不思議そうに言う。
まぁ、確かに見たところそのように見える。シンジも最初は気を許したくらいだ。
「いや、あいつの周りにはいつも女がいた。現にほら、今も周りに女がいるじゃないか」
「そうですね。だから勇者と言われているんだと思うんですが……」
「――? 勇者って世界を救うとかそういう仕事をするんじゃないのか?」
シンジの想像では、勇者というものは世界と平和のために戦う人という印象だった。
それを聞いたキャロルから指摘が入る。
「それぞれ仕事は違いますよ。同盟の勇者は戦略兵器としての役割、帝国の勇者は魔王退治、そして連邦の勇者は――」
「何するんだ?」
「何もしません」
キャロルから衝撃の一言が出てきた。
「何もしない!? それって勇者の役割を果たしているのか!?」
「連邦は勇者に期待していません。表面上は冒険者のSSランクを目指すように言われているらしいのですが、既存の最前線の冒険者のほうがよっぽど強いです。束になったら魔王も倒せるかもですね」
シンジは勇者よりも強いといわれている最前線の冒険者の強さが全く想像できなかった。
「大抵連邦の勇者はいつも女に溺れていますから。ゴシップネタには丁度いいのでしょうが」
シンジはタクミのことは嫌ってはいたが、これには少し同情した。誰だって自分が勇者だといわれたら舞い上がるに決まっている。
「でも勇者の成長速度は異常です。ぼさっとしていたらお客さんもあっという間に抜かれますよ」
「それは困る!」
シンジは、今の所イリスのおかげで順調な冒険者稼業でさえ、タクミに抜かされることは我慢ならなかった。
「その為にも武器が必要ですね。ではどうぞご覧ください!」
キャロルがついに箱の布を取った。
サブタイトルって考えるの難しいですよね~
どんなことを書いたらその内容を的確に表せるか、今でも全く分かりません。




