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終末世界の方程式  作者: 釣り人
第一章 冒険者
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第一話 俺と学校と試験

 あれから十六年ほど、カケルの意識が覚醒してからは十年ほどの歳月がたった。

 

「あーあ。異世界って聞いて少しはわくわくしたのに、まさかまた学校に行かなきゃいけないなんて」


 この言葉をカケルは何度繰り返したことだろう。

 カケルが転生した世界は、彼が想像していたような中世風ファンタジーとは似ても似つかない近未来世界だ。

 それに現在進行形で人類の危機に陥っている世界でもある。


「もしも中世だったら現代知識で無双できたのに。あ、でも塩の作り方なんて知らなかったし、今更か」


 などと意味のないことを言っている。

 

「あぁー、あともうちょっとで学校だ。今日はどんないじめを受けるのかな? たのしみだなぁ」


 無論カケルは、全く楽しみではない。

 この世界の人間は中層都市以上の人間に限り、幼少期に脳改造手術を受ける。

 そのおかげで、IQがざっと五十くらい底上げされる。

 なので六歳ぐらいになると大抵の人間は、小学校六年生程度の知識は余裕で詰め込める。


「今日も無能とか言われるんだろうなぁ。これもあの女神のせいで」


 もちろんカケルも脳改造手術を受けた。しかし六歳になってから意識が覚醒したことにより、記憶を移す都合上、頭の中身が前世と同じになってしまった。

 そこから手術しようにも、無理に行うと記憶が消し飛ぶ危険性がある。

 なので、頭の出来は一生このままだ。 

 こんなカケルが学校に行くのは、一人だけ気はいいけど馬鹿なやつが、インテリヤクザの集団に紛れ込むのと一緒だ。確実にいじめられる。


「おう、よく来たな無能! 今日も友達料金、徴収しに来ました! よろしく!」

「払わないわけないわよね。優しい優しいカケル君なら」


 絡んできたのは、同じクラスのアキラとシュリだ。

 払わないとボコボコにされるので、カケルは素直に払う。


「……」

「おー、今日もご苦労。これで今日も俺たち友達だな」

「そうよ。声をかけてもいいんだからね」


 なお友達料金を払っている所を教師に見られても、別段怒られず、むしろ推奨さえされる。

 カケルが住んでいる所は、資本主義が極端に発達している世界。ありとあらゆるものが、金と交換することができる世界だ。


「はぁー、全く一日の始まりから憂鬱な気分だ。次のテストも近いってのに。」


 カケルは、足取りも重く教室に向かっていった。

 教室に着くなり、カケルは顔も見たくないぐらい嫌いなやつに話しかけられた。


「おはよう!カケル君。今日はケガとかしてないみたいだね。やっぱり君のようないじめられっ子は冒険者になったほうがいいよ! 強くなれるよ!」

「ちょっとタクミ、あなた何でこんな奴に話しかけてんの」

「そうよ。突然暴力振るわれるかもしれないのに」

「……」


 カケルは表情を出さないようにして、その場をやり過ごす。

 カケルがタクミを嫌いなのには理由がある。

 もともとカケルは、別にタクミのことが嫌いではなかった。気軽に話しかけてくれるし、なにより、IQ百十の俺を、無能とは呼ばなかった。

 しかし、それも数日間だけだ。

 ある程度弱い奴に同情を見せた後、タクミはあっという間にクラスの信頼を勝ち取った。


「大丈夫。キャロルとカルラは僕が守るよ――」

「お前らの好きなやつ、超遊び人(スーパープレイボーイ)だぞ」


 更にタクミは、自然(ナチュラル)にクラス中の女という女を口説きまくった。

 最初は誰も相手にしなかったが、今では学校にタクミのファンクラブまである。

 まあ、何故か美人な人が多いし、流石にクラス中の女子を口説かないだろうと、カケルはあまり気にしなかった。

 カケルの好きな女子を口説くまでは。


「はぁ、好きだったカルラが、此処までクソなやつだったなんて」

「いやいや、タクミ氏にナンパされて、落ちない女子はいませんって、カケル氏」

「じゃあはアオイは何でタクミファンクラブに入って、『キャー! タクミさまー!』とかしないんだよ」

「拙者はカケル氏のような、卑屈さと優しさが混在して尚且つ近年まれにみる馬鹿という、()()()()()のほうが注目に値するのでござるよ」

「何だよ、その褒めているのか馬鹿にしてるのかわからんようなセリフは」

「馬鹿にしているでござる」

「この野郎!」


 アオイはカケルの、タクミを除く唯一無二の話相手だ。

 普通の人ならば、絶対カケルには話しかけないが、アオイは例外的にカケルと話している。

 それにアオイには、普通の人にはない()()()()力がある


「で、カケル氏はいつになったら我が社のホルマリン漬け要員(モルモット)になるでござるか?」

「死んでもごめんだ。まぁ死ぬ前に連れ去られそうだけど」

「大丈夫でござるよ。カケルの父上と母上には、たんまり保証金を支払うでござる」

「待て待て! その条件なら本当に親父に売られかねない!」

「またまた冗談言ってぇ」


 本当に冗談ではない。

 アオイの家は、都市でも二番目に大きい企業の北沢ケミカルだ。

 都市の化学薬品や超々強化炭素繊維など普段の生活や、都市の防衛になくてはならないものを生産している。

 普通はこういった都市の管理に欠かせない物資は、都市管理会社が一括に親会社から仕入れているものだ。

 しかし、その都市からも直々に契約を結んでいるのだから、アオイの家のコネと力がうかがえる。


「いや、ほんとに俺は家で要らないもの扱いされているから! 今回のテストで赤点とったら、マジで中層都市住居許可証取られて、スラム街に捨てられる!」

「でもカケルを捨てたら、カケルの父上の跡継ぎがいなくなってしまうでござるよ」

「いや、今の様子じゃ妹を次の院長に据え置くつもりだ。親父は最初俺を院長にするつもりで、妹を都市の医療課の課長か係長と政略結婚させるつもりだったらしいが、俺が予想以上の馬鹿で妹が予想以上に頭がいいから、完全に立場を入れ替えたんだ」


 そう、カケルの懸念はここにあった。

 カケルの父親のゲンゾウはアサヒガワ病院の院長、つまり病院の跡継ぎを決めなくてはならない。

 ゲンゾウに必要な子供は、自分の病院を継げる優秀な者だけ。それ以外は所詮スペアだ。

 今のカケルは、スペアとしての役割さえ果たせていない。

 このままでは俺を放置しておけば、親父の病院経営の評判にも響く。だから、カケルを消さなければ。そう考えても不思議ではないと、カケルは危惧していた。


「なんにせよ、今回のテストで上位を取らないと親父に消される。何としても上位を取らないと」

「でも……カケル氏のIQは百十でござるよ」

「うっ……まぁ今回のテストはさほど重要ではないし、みんな手を抜くんじゃね?」

「カケル氏。スズカ殿を忘れているでござる」

「あぁーあいつかー」


 クラスの人数は二十人、その中のトップがスズカだった。

 スズカは都市幹部の娘だ。

 本来ならばこんな中堅の高校にいないのだが、何故かこの高校にいる。

 

「そういえばお前は何でこんな中堅の高校に通ってるんだよ。お前らみたいなやつは上層都市のエリート学校に通うのが常識だろ」

「それは、拙者の企業の秘匿情報でござる。……聞かなかったことにしてね」


 カケルは冷や汗をかいた。カケルはたまに忘れてしまうが、連邦は極端な資本主義。すべてのものが商品だ。ただで情報を聞けるほど甘くはない。

 噂だけなら、妾の娘やら学校のトップを取らせて箔を付けるためやら、いろいろ出ていた。

 ただ、しつこく本人に聞こうとすると、最悪強盗未遂ということで消される危険性がある。

 そうなれば、待っているのは死あるのみ。

スズカやアオイになぜこの学校に通っているのか皆聞かないのはこういうことだ。

 

「くそ、こうなったらアオイ。いくらでクラス順位二位の座を譲ってくれる?」

「そーでござるなー……一億エールくらい?」

「おい!それはちょっと高すぎだろ!」

「この間、柳川重工業が追加で企業通貨を刷ったの知らないのでござるか? そもそも、足元見れるときは足元見るのは交渉の基本でござる」

「ぐ、ぐうの音もでねぇ」


 これでもアオイはクラス二位の秀才。しかも手を抜いてである。

 交渉術は、北沢ケミカルトップから直々に教わっているらしい。


「あきらめて必死こいて勉強するでござる。幸いにも、テスト休みが二週間はあるでござる」

「しゃあーない。アオイ、勉強を教えてくれるのにはいくらだ」

「しゃーなしの友情価格で一万エールでござる」

「おっ、どういう心変わりだい?」

「努力は大切でござる。たとえ恵まれていようと、恵まれていなかろうと、努力を怠るものは等しく死あるのみでござる。まぁカケル氏は努力しても難しそうでござるが」

「おい、最後の余計だぞ! ただその提案乗った!」


 カケルはどうにか勉強会をアオイから安い値段で取り付けることができて、内心ほっとしていた。

 一抹の不安こそあるが、二週間後のテストに向けては少し、明るい未来が見えたきがした。

呼んでいただき、ありがとうございます。

後書きでは、裏話的なことが出来ればなと思います。

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