プロローグ 俺と女神
よろしくお願いします。
世界は誰のものなのか、どうやって作られたのか、今まで様々な学者が議論してきた。
神、世界の意思、偶然、等々沢山の意見が出たが、尚も決着することはなかった。
そして今日も、どこかで議論が行われている。
「世界は神が作ったもの、人類は神が作ったもの、つまり我々が世界を支配するに相応しい」
「いや、世界は偶然作られたものだ! その世界を人間が支配しようなんぞ愚かにもほどがある! 世界は全生物のためにあるものだ」
議論は紛糾していたが、とある学者が、あるへんてこな学説を出した。
「世界は、誰かの手によって五分前に作られた仮想世界だ! みな好きに生きればよい!」
会議に参加した学者は狐につままれた気持ちだった。その説を支持すれば自分たちは誰かに作られた存在になる。生きる目的が分からなくなる。特に宗教家にとっては絶対に認められないことだ。
その為、その他大勢の学者はこの説を絶対に認めるわけにはいかなかった。
「即刻、この学者をつまみ出せ! 二度とこの会議に参加させるな!」
警備員につまみ出される際、彼はこんなことを言っていたという。
「世界が絶対なんて誰も証明できない! 人類が絶対だなんて誰も証明できない!」
その世界がどうなったのかは、誰も知らない。
気が付けばカケルはあたり一面、白い空間に座っていた。
慌てて自分の手足を確認するが、特に異常はない。
「あれ? 俺はさっきまで学校の中にいたはずなのに」
「気がついた?」
カケルがびっくりして振り向くと、そこにはテレビで見たアイドルや女優とは比較にならないぐらい美人の女性が、そばにたっていた。
「あの、ここはどこなんでしょうか」
「突然だけど、あなたは死んだの」
「え!? あの時普通に校舎の中を歩いてただけなのに!」
「あの後野球のボールが飛んできて君の頭にあたったの」
カケルはその後のことについて想像し、ため息をついて座り込んだ。
「君の過去を少し見てみたけど、野球部とは浅からぬ因縁があったみたいだね」
「勘弁してくれよ」
カケルの高校の野球部は、甲子園に何度も出場している学校の期待の星だ。
対してカケルは、無意識のうちに何度も野球部の邪魔をしている。
「なんか思い返してみればだんだん腹がたってきた」
カケルが憤るのもむりはない。
野球部員の乗っていた自転車と衝突したり、野球部員と付き合っているマネージャーの女子とは知らずに、告白して野球部の雰囲気を著しく悪くさせたりetc……と、カケルには悪気は全くないのに、悪い意味で全校生徒の注目を集めてしまう。
そんなことを繰り返していく内に、カケルは完全に学校の敵になってしまった。
「俺は別に野球部になんの縁もなかったのにどうしてこんな目に合うんだ」
「運が悪いとしか言いようがないわね」
「ふざけるなよ! 俺が野球部のせいでどれだけ大変な目にあったと思うんだ!」
カケルは更に語気を強くして女性に詰め寄り、自分の過去を語りだす。
「最初は皆静かで知らない人ばっかりだから、出だしが好調なら二.三ヶ月後には喋れるようになるかなぁと思ってたら、いきなり野球部の先輩の自転車が突っ込んできて衝突して骨折させてしまうし、折角できた友達候補も、マネージャー告白事件で全員いなくなってしまうし、最終的には教師までにも目をつけられてしまったんだぞ!」
カケルは一気に自分の中の不満を言い切った。
女性は多少興味を持ったのか、女性が続けて詳しい内容を聞いてきた。
「不満はわかったわ。けれど一つ目はともかく、何で野球部員と付き合っているマネージャーに告白なんてしたのよ」
「一年生の時は部活に入ってなかったから帰宅部だと思ってたのに、何故か知らないけど二年生になったら野球部に入ってそこの部員と付き合ってたんだよ。折角二年生になってから、困っているクラスメイトを助けたりして、評価を上げている最中だったのに」
「そして、友達候補が出てきたとたん告白したと」
「勇気出して告白したら、男気が上がると思って」
女性はやれやれという感じで横を向く。
その様子に少しだけイラついたカケルだが、怒りを吐き出し,冷静になったとたん当たり前の疑問が思い浮かぶ。
「今更なんだけど、おまえは誰なんだ?」
「私? 私はこの世界の神よ。女性の体をしているから、女神ってところね」
「え!? す、すいませんでした。無礼な口をきいてしまって。」
「別にいいわよ。最近は直ぐに『異世界転生!? チート! チートくれ!』とバカの一つ覚えみたいな奴が多いし、久しぶりにこの世界に住んでいた人間の感想が聞けて良かったわ」
カケル自身も、異世界チート物の本を持っていたので少し気まずい思いをしてしまう。
「まぁ。分からなくもないですよ。確かに異世界チート物の本はやっているので、興奮する気持ちもわかります。」
「あら、そうなの。まぁ君が異世界チートを知っているなら話が早いわ。君にチートをあげる」
「それって異世界に転生させてくれるってことですか?」
「そうよ。嬉しいでしょ」
カケルは異世界に行った場合、どのようになるかを冷静に考えた。
確かにチートをもらえたら、異世界で楽に楽しく生活できるかもしれない。しかし、最近ではチートを持って慢心した奴が負けるなんてこと普通にある。そもそも、小説の主人公みたいに、俺はコミュ力おばけじゃないし、遠慮しておくかと。
「すみませんが、遠慮しておきます」
「どうして? 異世界でハーレム作り放題かもしれないのに」
「それでも自分は安らかに消滅するか、天国に行きたいです」
カケルがそういうと、女神は明らかに雰囲気を変えて詰め寄ってきた。
「本当に? 本当に行かなくていいの?」
「え、えぇ。本当に大丈夫ですよ」
「そう……気が変ったわ。いつもなら適当な世界に飛ばすけど、君は特別な世界に連れて行ってあげる」
「えー適当って……ってそれはおいといて。自分は異世界に行かないって言いましたよね!」
「言っておくけど、今回君に拒否権はないから。あと、六歳になったら意識が復活するから、そのつもりでね。」
女神は微笑みを浮かべながら、何もない空間を指で押し始めた。
カケルがそれを見て身構えると、何処からともなく声が聞こえてくる。
「転生システム、起動。秘匿名【フィガロの結婚】発動します」
「は!? ちょ、ちょっと待て!」
そう聞こえると急速にカケルの意識が遠のいていく。
「畜生……こんなことならチートもらって、別の世界に行きゃあよかった」
カケルが言い終える間もなく、カケルの体は消滅してしまう。残されたのは、女神の微笑みだけ。
「さて、君はこれからどうなるのかしら。今までとは違う結果になることを期待してるわね。フフフ」
女神は今日も仕事を始める。
自分の望む結果がでるまで。
つい最近まで読み専でした。釣り人です。
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