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終末世界の方程式  作者: 釣り人
第一章 冒険者
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第十三話 俺とヒフミと遺物売却

今回はかなり難しかったです。交渉事の場面を書くのは大変ですね……

 シンジはその言葉を聞いたとき、物凄い衝撃を受けた。

 柳川重工業といえば、連邦参加企業。通称、【七列強】の一社だ。列強は独自の経済圏、憲法、法律、軍隊を保有しており、遺物の解析を一手に引き受けている。都市管理企業も、ほぼすべて列強の子会社だ。

 その孫娘ともなろうものなら、一般人なら、触れただけで死刑確定だ。そもそも、こんな辺鄙なところに、孫娘が来るはずがない。


「……何故、その孫娘様が、こんな辺鄙なところにいらっしゃるんですか?」

「ヒフミでいいって。皆が知らないのは、私が柳川から左遷された研究者ってことで通しているからさ。だから、かなり冷遇されていてね……」

「いや、隠す必要はなくないですか?」


 ひつこく聞くと、ヒフミは露骨に嫌な顔をしたが、表情が変わる。何か納得したらしい。


「……そうよね、あなたと私は運命共同体になるんだもの。それでいいわ」

「……運命共同体って?」


 物凄く嫌な予感がしたが、今更しっぽ巻いて逃げ出すわけにもいかない。

 結局の所、遺物を売りたいシンジに、聞かないという選択肢はなかった。


「さっきの質問に答えるわ。私、元は柳川で研究者をやってたんだけど、被検体を殺しすぎてね。まぁ、それはあまり咎められなかったんだけど、重要な遺物を実験でぶっ壊してしまったから、パパに『これでは親父に説明がつかん! 地方の都市に行って一から遺物を集めて研究してこい!』といわれてしまったんだ」


 被検体? それってもしかして……。シンジは一瞬想像しそうになってしまったが、気分が悪くなりそうだったのでやめた。


「それで、このビルの十三階に第七の遺物買取センターを作ってもらってね。私の事を知っているのはこの都市の社長と、幹部、そして冒険者組合の支部長だけだよ」

「……ちょっと待て、それって俺が聞いてもいいことなのですか?」

「当然いいわけないでしょ。今後貴方には守秘義務が発生するし、集めてきた遺物は全てうちが買い取るわ。まぁ、必要ないものは別のところで売ってもいいけど」


 とんでもない貧乏くじを引かされてしまった。


『なぁイリス、これ大丈夫なのか?』

「特段問題はないと思われます。むしろ、守秘義務が発生した代わりに、料金が積み増しになる可能性があります」

「そうなのか!?」


 やばい、思いっきり声を出してしまった。


「何がそうなの?」

「……いや、遺物の料金はここで売ったほうが高くなるのかなって」

「ふーん。……まぁ深くは聞かないわ。良い冒険者は何かしらの秘密があるっていうし。その質問に対しては勿論『はい』よ。じゃないと不公平だもの。ところで貴方への支払いは何処の口座かしら、教えてくれる?」

「口座?」


 シンジは口座というものは勿論知っていたが、今は口座を持っていない。正確には持ってはいたいたが、多分凍結されているだろう。


「あなた口座を持ってないの? じゃあ、冒険者ランクは?」

「冒険者ランク?」


 シンジがもらったものといえば、ただの自分の名前が書かれている紙切れ一枚だ。冒険者ランクとか、聞いたこともない。


『イリス、ここはなんて言えばいいんだ!?』

「正直に言ったらどうですか? 『僕は初心者冒険者です。冒険者ランクなんて知りません』と」

『そんなこと言えるわけないだろ! どうにか誤魔化すしか――』

「誤魔化してもすぐにばれます。ここは素直に言うのが最善策です。さっきの言葉でもいいですよ」


 イリスに最善の策だと言われたら、シンジには素直に言う以外の選択肢はなくなった。それでも、なるべくすまなそうに、馬鹿っぽく言わないように心掛けた。


「えっと、冒険者ランクというものを、説明されたことがないです。貰ったのはこの名前の書かれた紙切れだけです」

「――! そう。なら早く遺物を見せて。それで決めるから。あと、敬語キモイからやめて」


 シンジは軽く女性恐怖症に襲われた。何が好きで、毎回毒舌を吐かれる必要があるのか。


「そういう星の元に生まれてきたのが悪いですね」

『うるさい。お前はその一人なんだぞ!』

「? 心外ですね」


 本当に意外そうだったので追及するのをやめた。こういう天然が一番扱いに困る。

 そうイリスと会話しながら、今回遺跡から強奪してきた遺物をヒフミに見せる。


「はい、ありがとう。……ふむふむ。……ほう! なるほどねー。あー、そういうことか」

「……なにがそういうことなんだ?」

「ちょっと黙って」


 シンジの質問をぴしゃりと切ると、通信端末を取り出し、どこかに電話を掛けた。


「もしもし私。……そう、冒険者ランクを……そうそう。それでねー……あっ、もう来る? あじゃ、それで―」


 また、謎の会話を始めた。


『イリス、やっぱりもう一回問い質したほうがいいんじゃないか?』

「何度も私に確認することは殊勝な心掛けですが、もう少し自分で考えてから頼ってください」


 イリスにすげなく断れてしまったので、シンジは仕方なく自分で考えた。そうして、考えている間に、ヒフミの会話は終わっていた。


「何考えてんの、凄く馬鹿そうな顔してたよ」

「うるさい」


 なぜ俺の周りの女子は何故、こうもおかしな奴ばかりなのか、シンジはまた女神を呪おうとした。けれど、また仕返しされては堪らないので、今度からは自分の運を呪うことにしておいた。


「ただいま参りました」

「ご苦労様」


 部屋に入ってきたのは、さっきの受付の人だった。


「あんたは、受付の――」

「はい。普段は受付をしておりますが、ヒフミお嬢様の警護、観察を兼任しております、ズーシュエンと申します。以後お見知りおきを」


 シンジは一瞬驚いたが、ヒフミがお嬢様だということを思い出すと、普通にあり得る話だと納得した。


「それで、ズーシュエンさんは、どのようなご用件で?」

「今から、貴方の冒険者登録を行います。略式ですが」

「え? 俺はもう登録してあるはずだが……」

「スラム街の得体の知れないものを、そう簡単に公的な身分の保証にもなる冒険者にするはずがないでしょう」

「それもそうか」


 あの登録者センターの野郎も、俺を所詮スラム街のガキだとしか思ってなかったからあんな態度をとったんだ。それに、今ここで正式な冒険者と認められる事はむしろ都合がいい。これでスラム街から脱出できる! そうシンジは考えた。 


「それなら、なぜ今本登録をするんだ?」


 シンジには思い当たる節がなかった。あるとすれば、ヒフミの電話くらいだ。


「本来なら、クエストをこなして頂くことによって、ランクは上がっていきます。ですが、今回は特例。貴方が、スラム街で登録してきたことは、あの紙を見てわかっていました」


 あの紙? シンジはあのボロ紙にそんな価値があるとは思えなかった。


「あんな紙をみて、何がわかるんですか?」

「通常スラム街出身の冒険者は、最初期の段階で死にます。ですが、その死線を潜り抜けたものは、大成しやすいんです」

「それで、俺がヒフミの管理している第七センターを紹介したのか」


 ヒフミは腐っても列強の長の孫。生半可なやつと合わせたくはないのだろう。


「そうです。本来なら実力者を選ぶのですが、みな勘が鋭いのか、なかなか第七センターを選びません。仕方ないので、大成しそうな初心者を選ぶことにしたのです。貴方がもし、ヒフミ様の期待に沿えないような遺物を持ってきた場合は、情報秘匿のためにそのまま処分していました」


 シンジは、何で俺には死ぬ危険が遺跡外でもあるんだと、また自分の運を呪った。


「そんなビビらなくていいわよ。なんにせよ、私があなたを専属に選んだんだからしっかりやりなさい。じゃないと殺すから」

「恐ろしい応援ありがとう」


 また死ぬ確率が上がってしまった。


「さて、では貴方のお名前と、ついでにこの第七遺物買取センターへ優先的に遺物を売却するという契約も結んでおきましょう」

「わかった」


 そうして、細かい調整をイリスの助けを借りながらも、本登録と遺物の売却を順調に進めていった。


「はい、登録完了しました。貴方には都市から情報端末、口座、そして冒険者ランクFが与えられます」

「ちなみに、そのランクってどのくらいまで上がるんだ?」

「一番下がG、そこから同盟公用語の語順を逆走していき、最後にSランクとSSランクがあります」


 同盟公用語とは、英語のことだ。

 他にも、帝国の公用語は、グレモリー語という名のロシア語だ。少しロシア語を覚えてみたいと思ったことはあったが、中世真っ只中みたいな帝国を知ってからは、覚える気は消滅した。


「マスターには将来的にSSを目指してもらいますからね」

『改めて見ると、先は長いな……』


 先が遠すぎて、シンジは具体的な想像ができなかった。


「次に、遺物の売却値は百万エールです。よろしいですか?」

「……百万って言ったか?」

「そうですね、失礼しました。二百万で手を打ちましょう」

「……そう、それでいいぞ!」


 受付員は、値段が不服だったから聞き返したものだと思っていたが、シンジは内心焦りまくっていた。

 シンジの予想としては、せいぜいが五十万。安くて三十万エールくらいだと、高をくくっていた。


「マスター、本来その遺物の値段は、最高額二百五十万が付くものです。あまり命の値段を過小評価しないでほしいものです。冒険者というものは、値段交渉を真剣にやるものであって、マスターみたいに間抜け面晒して行うものではありません」

『――! そうなのか!?』


 シンジは凄く損した気分になってしまった。だが、値段が決定した以上契約を破るという行為は、資本主義世界では一番タブーな行為だ。


「マスター、次からは気を付けてくださいね」

『……わかった。』


 シンジは、泣く泣く五十万エールを諦めた。


「よし、これで契約成立ね。シンジ、これからよろしくね」

「……あぁ、よろしく」


シンジは、遺物の売却先を手に入れたと同時に、高い授業料を払うことになった。

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