第十一話 俺とモンスターと初戦闘
遺跡に入って十分ほどたった。未だにモンスターには遭遇していない。イリスが言うに、自分の先導にしっかり従えば、自然と遺物がたくさんあるところに着けるといっていた。どうやら、そのサポート性能は確かなようだ。
だが、いくら何でもモンスターに出会わなさすぎる。
『……なぁ、モンスターってほんとにこの辺りにいるのか? さっきから姿も形も全然見えないんだが』
「マスター。この辺りのモンスターはマスターだけでは到底倒せません。さっきから歩いているルートも私が生きているカメラなどをハックして、モンスターに出会っていないだけです」
『そ、そうか……』
シンジは一匹ぐらいモンスターに遭遇するかも警戒していたが、そのまま何事もなく目的地に着いた。
目的地は何かの駅のようだ。いくつかのビルは倒れてはいるが、複数のビルが連絡通路などでつながり、一つの大きな建物となっている。
「マスター、ここから先は更に道が複雑になっています。迷うと一生この中で暮らすことになりますよ」
『銃で破壊すればいいんじゃないか?』
「これも冒険者の基本知識ですが、今でも残っている壁は非常に頑丈であることが多いです。破壊するには、一発一万エール以上の高級弾が必要となってきます。マスターにも将来的に、高級弾を湯水のように使っていくことが要求されますが」
『……現時点で、壁の破壊はあきらめよう』
旧人類技術で作られた壁を破壊するくらい強力な弾を使うことなんて、シンジには想像もできなかった。
迷子にならないように、シンジはイリスの後ろを影のようについていく。
『なかなか奥が深いな』
「ここは旧世界人も迷宮と呼称していた場所です。当時は自動道路で迷うことはなかったそうですが」
『なんでそんなもんを作るかな』
シンジはわざわざ迷いやすい駅を造る旧世界人の思考が、よくわからなかった。道を右に左に上り下り、崩れている所があると、一回転してから元来た道を戻る。そんな摩訶不思議な行動を繰り返す。
『なぁ このよくわからない行動に意味があるのか?』
「ないと思ったら、好きに行動してみたらいかがです?」
シンジにはそんな度胸はなかった。
そうして行動を繰り返していく内に、現在どこにいるかすっかり分からなくなってしまう。けれど、ここでイリスに逆らい自主行動をするという選択肢はシンジにはなかった。
「つきました。この部屋です」
『よし、この部屋だな』
シンジは部屋の扉を開け、中に入る。中には埃がたまっており沢山の遺物が転がっていた。
「ここは当時の駅長室のようです。今から遺物の選別を始めます」
『あぁ、頼む』
正直なところシンジにはどれが高価でどれが安物かがまったくわからず、どれも等しくごみに見えて仕方がなかった。その中からイリスは遺物を選別し次々と指示を出していく。そうしていく内に、シンジのリュックはもう一杯になってしまった。
『え!?、これだけしか持ち帰ることができないのか!?』
「はい。車やバイクなどがあればもう少し持っていけますが、モンスターに襲われた際、逃げることに支障をきたすぐらい持ち出すことはできません」
シンジはイリスの言っていた、遺物の選別が大事ということがよく理解できた。
『あぁ! だから高くて小さい遺物から真っ先に持ち去られてしまうんだ』
「そういうことです。未だ、すべての遺物が回収されないのは回収できないのではなく、回収するコストが高すぎるだけです」
シンジはまた一つ、冒険者になるための必要な知識を得られたことがとてもうれしかった。
今までの勉強は、所詮大学や企業へ行くための資格を得るために過ぎず、勉強しても企業に就職したら全く意味のないものばかりだった。
しかし、冒険者の知識は、生きるために必要な知識であり、さらに学校の勉強よりはわかりやすくシンジの頭の中にすぐ入ってきる。また、このような知識を詰め込む度に生存率が上がっていくのを感じると非常に気分がよかった。
『俺もだいぶ冒険者っぽくなってきたな』
シンジはすっかり気をよくしていた。
勿論シンジは、池沼といってもIQ百十。帰り道も集中力を維持しなければいけないのはわかっている。けれど、遺物を実際に見つけられたことへの喜び。帰り道もイリスが導いてくれることへの安心感。さらに、行きの道にモンスターが全く出てこなかったことが、否が応でもシンジの警戒心を下げさせていた。
『……おい、イリス? どうしたんだ?』
シンジの集中力が少し切れそうになっているときに、さっきまで指示を出していたイリスが急に黙った。
シンジは何度か呼びかけたが、イリスは何も答えない。
本来ならば、イリスの指示が出るまで動かないのだが、油断していたシンジはしびれを切らして一歩足を踏み出す。
『なんだ、何も起きないじゃないか』
シンジがそういったとたん、急に警報音が鳴り響き、武装したロボットのような機械型モンスターが一斉に襲ってきた。
さっきまで黙っていたイリスが急に大声を出す。
「マスター! 今すぐ反転して走りなさい! 死にますよ!」
言われなくても、死にたくないシンジは必死に走り出す。
後ろから銃声が鳴り響くが、シンジには振り向く余裕はなかった。
「その角を左です! ……そのままっ直ぐ進みなさい! もっと急いで!」
シンジは力の限り走り続けた。
心臓が悲鳴を上げているが、死にたくない一心で、なりふり構わず走り続ける。
「そこを右です! ……そのまま前方の扉に飛び込んでください!」
シンジは最後の力を振り絞り、扉の中に飛び込んだ。
直ぐに扉を突破しようと、モンスターが銃撃をかましてくる。
「マスター! すぐに銃を取り出しなさい! 迎撃します!」
シンジには、できない! と叫ぶ心の余裕すらなかった。
無我夢中で肩から銃を下ろし、銃撃の準備を始める。
「マスター! もっと急いで!」
銃撃の音はどんどん変化していき、扉はだんだん耐えられなくなっていく。
シンジの心臓もそれに合わせ、どんどん鼓動が早くなっていくが、前日の地獄の訓練で半ば機械的なまでにスムーズに準備することができた。
「できた!」
「マスター、まだです。まだ銃を撃たないでください」
今度こそ絶対にイリスの指示は聞かなければいけない。そうわかってはいるが、どうしても死の恐怖がシンジを襲い、銃撃の欲求を駆り立てた。
『慌てるな、落ち着け、恐怖を力に、慌てるな、落ち着け、恐怖を力に』
シンジはこの言葉を繰り替えす。
そうしてどれくらいの時がたっただろう。シンジの我慢はもはや限界に達していた。その時、イリスの指示が変わる。
「マスター、まだです……今です!」
その言葉を合図にするかのように、一斉にモンスターが扉をぶち破る。
カケルはあらん限りの力を使い、残った球をすべて吐き捨てるかのように打ちまくった。その瞬間、カケルの瞳に幾何学模様が映る。
『あれ、何か見えるぞ』
シンジは無意識のうちに、モンスターの急所に銃弾を当て続けた。そうして次々とモンスターを倒していく。
モンスターも銃弾を撃っていくが、無意識のうちに当たりそうな銃弾を撃つモンスターを優先的に撃破していった。
「……ふぅー、俺、生きてた」
「生還おめでとうございます」
カケルの足や、胴体は銃弾の傷だらけだし、血も沢山流している。
ただしシンジは生き残ったのだ。驚異的な銃撃のおかげで。
しばらくシンジは放心状態だったが、数分たってアドレナリンが切れたのか、強烈な痛みが襲ってきた。
「痛い! 死ぬ!」
「早く薬を使ってください。この程度だと三粒で十分です」
イリスがあきれたように言う。シンジはやっと薬の存在を思い出して、薬を服用した。
一粒使用した時よりも、強烈な痛みが襲ったが、すでに痛いのでどうってことない。
「よっしゃ! 復活!」
「はい。生還しましたね」
イリスは一度祝ってたので、どことなく冷めた受け答えだった。
シンジは暫く生きている喜びを噛みしめていたが、普通に声を出していることに気づいた。
慌てて念話に戻し、当たり障りの会話に戻す。
『指示、ありがとう』
「いえ、元は私が原因なので」
『そういえば、どうしてさっき黙ったんだ? いや、責めているわけじゃないんだが』
「少し、考え事をしてまして」
それは違う。イリスがこのような行為に走ったのは、シンジのイリスへの信頼度確認のためだ。
中途半端なら、自分勝手に動く。絶対の信頼があったら、何があっても動かない。
「やはりこの試験は危険なのでしょうか……」
「どうした? 考え事以外に何かしてたとか?」
「いえ、別にそんなことはないですよ。純粋に今後の予定を考えていまして」
ただ、このような状況で動かない人間はいない。事実、過去の契約者に、この試験で動かないものはいなかった。
シンジも例によらず、動いてしまったが、五十パーセントの死亡確率を見事に生き抜いた。試練に打ち勝った。
『そうか、それなら仕方ないな。俺も考え事をして、暫く立ち止まることあるし。そういうことなら、すまない。イリスの意見を聞くまで待てばよかった』
「いえ、私は気にしていません。戦場では、少しの間が命取りです。私が早めに指示を出せばよかった話なので」
イリスは、ほんとに気にしていなかった。この試験を生き延びたものは、今後イリスのいうことにほぼ従うようになる。それだけでも、イリスにとって大きな収穫だった。
シンジも、イリスが自分のことをよく考えてくれていることに気付き、とても気分がよかった。
「さて、モンスターから無事逃げきれたことですし、早めに帰りましょう」
『そうだな! 遺物を換金するか!』
「マスター、今度は集中力を切らさず、私の指示を聞いてくださいね」
『もちろん! わかっているさ!』
シンジは今度は過剰なくらいイリスの意見を聞いてきた。それがイリスにとって、たまらなく嬉しいことだった。
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