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 行く先の知れない道が連なる岐路が在った。幾重にも別れたそれらの集合地点、まるで道を乱雑に重ね合わせたかの様な場所に、一人の少年が茫然と立ち尽くしていた。


 道と道の間は天に届かんばかりの壁が、厳めしく聳えている。或る一本の道を選べば、その他の道の辿り着く地を知る事も、引き返し別の道を歩む事も叶わない。

 少年は四顧し、周囲の道を数えると、先程まで歩んで来た道を含めて十に別れている事が判った。


 太く堅牢な造りの平坦な道。

 七曲がりした勾配の緩やかな道。

 草花の咲き誇る鮮やかな道。

 その有り様は色々である。


 暫しの間思考を巡らせていた少年は、程なくして壁や床から棘の生えた荊の道を選び、確かな足取りで歩み始めた。その背中を見守る者が二人、口角を吊り上げ手を振っていた。


 幾重にも別れた岐路の中心に、傷だらけの青年が蹲っていた。その周囲には道が四本。


 壁や床から棘が飛び出している道。

 其処彼処に亀裂の目立つ粗悪な道。

 樹木生い茂る先の見えない薄暗い道。

 赤い液体が其処ら中に飛散している道。


 青年は身じろぎ一つせず、自らが産み出した血溜りの中で、浅い呼吸を繰り返すばかり。痩けた頬は濡れ、落ち窪んだ双眸からは、誰に憚るでもなく留処ない涙が溢れていた。その涙の理由を、青年が自ら口にする日は永遠に来ない。



 虚空を彷徨う瞳に、在りし日の光景が映る事は二度とない。嘗て青年の背中を見送った者も、今や何処とも知れぬ地で新たな門出を祝っていた。


 忌まわしい記憶を振り払うが如く、青年は衰えた躰に鞭を打ち、勢いよく立ち上った。しかし、その足許は覚束ない。それでも尚、歩み始めたのは過去との決別か、或いは未来を断ち切る為か。


 その道の先は、歩んだ者にしか判らない。




2008/8/19

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