技師長は絶妙な発明者
「中佐殿」
「何だ、少尉」
だらしなくうつ伏せに寝そべり、中佐殿はスナック菓子を摘まむ。
気の置けない仲になった、という事なのだろうか?
ファンシーな柄のクッションを抱っこし、スラリとした足が上機嫌に揺れる。
身体のラインが浮き出る薄いセーターにホットパンツから延びる健康的な足。
正直目のやり場に困る。
男が皆、理知的な紳士ではないのだが。
まあ本人が自覚してない以上いくら言っても無意味か。
もっと自分の魅力に気付いて欲しいものである。
お気に入りのフィルムを鑑賞しリラックスされている中佐殿。
その隣で、俺は生真面目に正座したまま尋ねる。
「この戦い……
自分達は勝利出来るのでしょうか?」
「分からん」
「即答ですね」
「事実だ。
我々の科学力を以てしても戦況は五分と五分。
奴等――
無数の邪神群に対抗できるかは不明だ」
しなやかな猫の様に起き上がり、中佐殿はお手上げとばかりに肩を竦める。
軍人のステータスが向上してると俺は言った。
それは何故か?
答えはシンプル――実に簡単だ。
外宇宙に乗り出した人類の前に敵が立ち塞がったのだ。
20世紀初頭、偉大なる狂作家<ラヴクラフト>の生み出せし神話。
忌まわしき邪神の名を冠するに値する敵が。
最近の研究で、彼には何らかの霊感があったのだろうと判明している。
そうでなければ何だというのだろう。
あの形状するもおぞましきモノども達を的確に描写した様は。
シールド越しでなければ直視しただけで狂気に陥る、異形の姿。
そして何より神話で語られる邪神の名に相応しい、圧倒的な力。
現行兵器を半ばを無効化せしめたその力に……人類は恐怖した。
蹂躙に次ぐ蹂躙。
敗走に次ぐ敗走。
後退していく人類の生息星図。
急開発された星幽兵器<機神>シリーズが各艦に搭載されるまで、それはもう酷い有様だったらしい。
現在は何とか対抗できる様にはなった。
だが中佐殿の言う通り、戦況は五分五分。
むしろ人的資源の損失などにより、悪化の一途を辿っているといえる。
「唯一の対抗策は<機神>か。
少尉も選考には残ったのだろう?
乗らないのか?」
「適性はありました」
「なら――」
「自分は凡人です。
エリート揃いのパイロット――<リンマスカー>になれるとは思いません」
リンクマインドマスター、通称リンマスカー。
人類の切り札、機神。
搭載された特殊なフォースフィールドにより邪神群の<位階値>を下げる事が出来る人型星幽決戦兵器。
物理法則を凌駕する奴等と戦うには機神の存在が必要不可欠だ。
この新造戦艦<ノーデンス>にも3体の機神が搭載されている。
「……そうか。
しかし自分を卑下するのはよせ、少尉。
人にはその人しか為せない……
為すべき役割が誰しもあるのだと私は思う」
「――はい」
「けど、この状況に甘んじてはいけないのは確かだ。
特に私達は――第三艦橋配属だしな」
苦笑する中佐殿。
上映されるフィルムでは赤の隊服を着た指揮官に「第三艦橋大破!」の知らせが飛び交っていた。
ホントによくもまあ、毎度毎度景気良く破壊されるな。
「私はまだ死にたくない。
やりたい事や知りたい事が沢山あるから。
だから――協力してもらうぞ、少尉」
「了解です。
かの偉大なる戦艦技師長の魔法の言葉。
『こんなこともあろうかと』ですね?」
「彼が実際にその言葉を言ったことはそんなにないがな。
察しが良くて助かる」
悪戯めいた瞳を宿し顔を見合わせると、
同好の士にしか分からない隠語で俺達は笑い合うのだった。