婚約者は戦死の第一歩
「こりゃ~死んだわね、あんた」
奇声怒号が飛び交う卒業酒宴パーティ。
笑い上戸に泣き上戸、愚痴上戸に――
果ては脱ぎ上戸(?)でお悔やみを告げる馬鹿共を適当にあしらいながら、
未だ酒やジュースに汚染されていないテーブルを何とか確保し着席する。
時代遅れの行軍訓練後みたいに薄汚れ、疲れ果てた俺。
記念すべきこの日の為にあつらえたせっかくの礼服がボロ雑巾の様だ。
盛大な溜息をつき、供えられていた酔い覚ましの水を一気に煽る。
そんな俺の様子がおかしいのか、秀麗な顔を盛大に赤く染めながら同期にして幼馴染のキサラギ・シュリは爆笑する。
無駄にスタイルの良い肢体をタコのように絡ませてくるのを強引に振り切り俺は応じる。
「うるさいな」
「だってさ――第三艦橋配属でしょ?
なんだっけ、ほら。
あんたが好きな20世紀フィルムの……
トマトじゃなくて、えっと――」
「ヤマトな」
「そう、それ!
あんたの家で上映会やる度、めっちゃくちゃ大破してたじゃない」
「――良く出来てはいるが、あれはフィクションだ。
実際の第三艦橋はかなり頑丈……な筈だ、多分」
自信なく答える俺。
先程から話題に上がっている第三艦橋とは戦艦の底部に設けられた部署の事だ。
旧時代の海軍と違い、広大な宇宙の海を往く宇宙戦艦は360度立体戦闘を想定している。
ただ船の構造上、司令塔のあるブリッジや主砲が並ぶ第一・第二艦橋は恐ろしく強固であるが……
船底部はいざという時のトカゲの尻尾切り、
緊急時にパージ出来る様な予備の燃料や修繕備品の備蓄倉庫を兼ねる事が多い。
俺の聖典といってもいいそのフィルムも、話の度によく大破していた。
「あ~あ。
歴代提督を輩出する偉大な血筋も、あんたで打ち止めか~
っすん、何て悲しいことなのかしら」
「泣き真似しながら不吉な事を言うのは止めろ。
お前が言うと――マジで実現しそうだ」
「そう?
まあ確かに昔からそうだったかも」
「お前に煽られその気になり憧れの先輩に告白、
見事玉砕した時もまったく同じ事を言ってた」
「所詮高嶺の花だったのよ。
いい加減振り切りなさいって」
「るっせ。
もういい、俺はずっと独り身で生きていく」
「それじゃ御両親が悲しむでしょ?
ふう……
仕方ないな~
あんたさえ良かったらさ――
あたしが血筋を受け継いであげようか?」
随分と際どい台詞を言うシュリ。
密接した箇所から伝わる体温がほんのり上昇する。
これが濡れた瞳で真剣に言われていたのなら――
少しは心が揺れるかもしれない。
だが酒臭い息を吹きかけられ、挙句ケラケラと笑う泥酔女に言われても全然ときめかない。
「慎んで辞退しておく。
っていうか、これ以上フラグを立てるな、阿呆」
「艦長~俺この任務が終わったら婚約者と結婚するんです~みたいな?
アハハ、やっぱあんたにはモブ役が似合うわ」
バシバシ俺の背中を叩きながら大爆笑するシュリ。
ここまで率直だと怒りすら抱かない。
その他大勢、十把一絡げ。
この世界が物語だとしたら――自分が主役でない事。
それは俺が一番良く知っている。
出世街道を順調に歩む才能豊かで人格者な従兄達とは違い――
俺はどこまでも平凡な能力しか持たない凡人だから。