新たなる客
遅くなってすみません。
2章『新たなる客』
外の光を全身に受け、アスファルトを踏みつける。
熱を帯びたアスファルトは街の温度をさらに上げる。
遠くを見るとぼやっとした景色になっていた。
ふと俺は何も食べていないことに気づいた。
近くにサッグというジャンクフード店があり俺はすぐさま列に並んだ。
列に並んでいる途中俺は財布の中身を確認した。
すると財布の中身は254円しか入っていなかった....
俺は飲み物とポテトを頼み、所持金は38円になってしまっていた。
ポテトはSサイズしか買えず、飲み物もSサイズという少ない食料だった。
少ししかない食べ物を目を閉じて噛み締める。
そして食べ終わった直後の事だった。
「あっ!俺のハンバーガー返せ!」
「ん?んーん?返す?食べたらその人のもんだろ?」
高校生くらいの男が叫んでいた先には服はボロボロで薄汚れた黒髪の大学生位の男がいた。
黒髪の男は受け答えに食べながら応じる。
「お前が食べたやつの新しいの買え!」
「なんで?そんなの俺に得ないじゃん?」
「普通のことだろ!まず謝れよ!」
「まぁまぁまぁ!まず離れませんか?」
いい争いをしているところにスーツを着た成人男性が話に入り込もうとすると黒髪の男はサッグの窓を壊して、店を出て行った。
俺は騒動を何事も無かったかのように店を出た。
すると目の前に黒髪の男が座っていた。
黒髪の男は俺を見て「チッ!」舌打ちをしてきた。
俺は半ば真顔で黒髪の男を細目で見つめて、俺はその場を後にした。
「変なやつもいるもんだなー....」
背後から視線を感じる。
俺は振り向かずに別の場所に歩き去る。
ずっと黒髪の男が着いてくる。
俺は歩きから競歩になる。
負けじと黒髪の男は競歩になる。
俺はとうとう走る。
黒髪の男は走って追いかけてくる。
全力で逃げたがまだ着いてきていた。
日も暮れてきていた。
俺は遂に後ろを振り返る。
黒髪の男は俺にこう言った。
「お前は俺と似てる匂いがする」
「そうか、じゃあな」
男の発言を聞かなかったことにして、俺は早々に別れを告げた。
流石に黒髪の男は着いてきていなかったが、それよりも今日の夜ご飯どうしようか悩んでいた。
お金も無いしなぁ....
壁に凭れて塞ぎ込んだとき前から物を置く音がした。
前を見ると黒髪の男が俺にコンビニおにぎりを差し出していた。
俺はおにぎりの包を取り、口に運ぶそして袋を見た。
おにぎりの具は昆布だった...
俺、昆布嫌いなんだよな....
その言葉は心の奥底に仕舞いこんで、涙を輝かせて食べていた。
その涙を見た黒髪の男は微笑んでいる気がした。
そして食べ終わった。
時間は7時位でかなり暗くなっていた。
黒髪の男はまだ俺を見ていた。
「ありがとな」
俺がお礼を言うとわかりやすく黒髪の男は微笑んだ。
「ところで名前は?」
「銅鑼だよ」
「そっか、よろしくなドウラ」
「あぁよろしくな。永友 明....」
親睦を深めるために握手をしようとした矢先にまだ教えていないはずの俺の名前を呼ばれた。
「あー、参ったー、しくったなー」
「何言ってんだよ....それよりなんで俺の名前知ってんだ...?」
「んーと....あ、そうだった...お前をこの世界から消すためだよ」
「答えになってねーよ」
「んー、頭回らないなー、そうだ...一石二鳥になりそうだから....お前を....食ってあげる....!」
苛立ちを隠しきれていない俺の問いかけに応じていた。
ドウラは少し考えて俺を食べると言い出した。
瞬時に反射神経のみで避ける。
ドウラが飛んでいった壁を見ると抉れていた。
「美味しくないなー、けどお腹膨れるからいいや」
ドウラはそう言いながら咥えた壁岩の欠片を噛み砕いて食べる。
全て飲み込んだドウラが俺を横目で睨み付けて言葉を放つ。
「やっぱり肉がいいなぁ!」
狂気混じりの声は俺を痺れさせる。
その不安のなか俺は脳裏に浮かんでいた言葉があった。
きっと助かる。
だって主人公なんだから。
負けるわけない。
どうせ死にそうになったら時間が戻る。
世界は俺を中心に回っている。
平気だよ....きっと....
そうだよ。
このままギリギリまで情報を取ればいいじゃないか。
けど、もし時間が戻らなかったら?
まるで卵にひび割れたかのようにピキっと割れる音がした。
そしていつの間にか俺は叫んでいた。
「一方的に殺られて....堪るかってんだ...!」
その叫び声と共に俺はドウラに向かってぶっ飛び、腹の辺りを殴った。
殴ると同時にミシミシ...ベキベキ...と肋骨の折れる音と壁にひび割れる音にドウラの嗚咽が重なる。
その後、壁の崩壊が始まった。
俺はその場を後に、逃げた。
度々、つい触れそうになる既にない右手。
なにかを思いついた。
右手の切断部位を左手の五指に触れさせ、神経を手の形に伸ばした。
神経が剥き出しになっているからだろう、当然の痛みが俺を襲う。
俺は更に筋肉と血管、皮膚を伸ばした。
そして出来上がったのは、神経や筋肉などは通っているが骨が無いせいでただぶら下がっているだけの右手が出来上がったのだった。
俺は比較的軽くまた丈夫な棒状のものを探すことにした。
そして訪れたところは工場だった。
ここは鉄パイプなどがよく転がっていた。
それはここが廃墟だったからである。
扉の上辺りには蜘蛛の巣が張ってあり、足元に虫がサササ....と動いていた。
工場の中を歩くと足音が響く。
しばらく歩くと何かを蹴ってしまった。
月明かりに照らされたものは正しく探していた軽く丈夫な棒だった。
さわり心地は鉄のようで重さはプラスチックの重さくらいだった。
実はこの物質は一年前ニュースで話題になった物質だ。
工場でたまたま生み出され、工場は実は量産していたのだ。
もちろん無駄なものを量産していたのだから赤字で潰れたらしいが、ニュースで工場長は新世代の金属と話していたそうだ。
本当にあるとは思わなかったが、宛にしてよかった。
そう思えた瞬間だった。
俺はぶら下がった右手の真ん中当たりまで鋭利なものを象り、切り開いた。
そして、自分の体の繊維を謎の金属の棒にまとわりつかせ、神経まで通した。
麻酔もなくただの荒治療をやってのけた俺は最後にまた皮膚と肉などを元に戻す。
すると左手と左右対象の形になっていた。
まだ体が馴染んでいないせいか右手は思うように動かせなかった。
後、工場を出た。
そして唐突に俺はもう一度学校に行きたいと思ってしまった。
“あんな辛い出来事”があったのにどうしてだろうかと考えた。
考え抜いた末に俺は
「もう一度学校に行く」
そう口に出して心を決めたのだった。