第750話
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2017年7月28日午後5時8分。駐車場から車に乗り込み、エンジンを掛けて、アクセルを踏み込む。そして発進させた。肉体にも精神にも疲労がある。ある意味、疲れは慢性的に溜まっていた。月井も無理が利くにしても、極力体力を温存する。昔から仕事になると、全力でやっていたのだが、そんな真似をしなくても経験で分かっていて、今は気を抜くことも多々あった。
午後5時31分。千代田の街を走る。車の運転にも十分気を付けていた。特に大都会は交通網が複雑だ。この街は変転に満ちている。いつもそう思っていた。とにかく焦らないことだ。焦ると、危ない目に遭う。それは自分自身に対しても、絶えず言い聞かせていた。
難しい事情は把握している。デカというだけで、特別視されることもあった。実際、月井も歌舞伎町交番勤務時代は、いろんなことを経験したのである。決して楽な道じゃなかった。むしろ険しかったのである。だが、考えてみれば、当時は充実していた。きついことの繰り返しでも、その艱難を乗り越えたのである。実に貴重な体験だった。
午後5時54分。帰庁し、一課へと向かう。午後6時からの会議には、ギリギリ間に合いそうだ。警察官も会議ではいろんなことを学ぶ。記録を録るだけだったのだが、様々なことを学習していた。いろいろあって、刑事の仕事が成り立つ。一筋縄じゃいかないのだ。
午後6時ちょうどに会議室に入り、参会した。タブレットを立ち上げて、キーを叩き出す。疲労で指先に力が入らないこともあった。でも、経験的に分かっている。取るべき対応策というものを。改めて姿勢を正し、キーを叩き続けた。一課のデカたちは絶えず議論している。今現在捜査中の案件について、だ。もちろん、月井だって関心があった。現役の警視庁捜査一課の警察官として、である。何も考えないことはない。むしろ視野は広がっていた。以前よりもずっと。一課の刑事でも、上から命令されない限り、捜査には参加できないのだが……。(以下次号)




