第711話
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2017年7月25日午後5時56分。警視庁に着き、一課のフロアへと向かう。午後6時からの会議には遅刻しそうだった。月井も昔からずっといろんなことを経てきている。制服警官から背広着用に変わっても、苦労は変わらない。だが、別にいいのだ。気は楽なのである。背負い込むものがないのだし……。
唯一あるとすれば、捨てたアル中のオヤジのことぐらいだ。でも、特に気にすることもない。そう思っていた。オヤジなど廃人で、どうせろくな人生は送れない。長年ずっと、あの人間から散々苦労を掛けられてきた。だが、捨てたのである。自分には直接的に関係ない。そう思ってやっていた。実際、オヤジのいる施設などに見舞いには行かなかったのだし……。
警察学校時代に俺がどれだけ苦労したか、分かるか?真っ先にそう言いたかった。散々あったのである。夜は新宿の飲み屋でバイトして、金を稼ぎながら通った。苦学したのである。今は金銭的に問題がないにしても、あの頃のことは決して忘れない。使う金を惜しむのも、そういった背景があった。昔、たくさんのことがあったからだ。
午後6時からの会議には遅れたものの、参加して、タブレットで記録を録り始める。疲れていても、仕事は続く。気力を振り絞っていた。それに思う。今の苦労など、昔の地獄に比べれば全然マシだと。それだけ、いろいろあったのだ。絶えずずっと。(以下次号)




