第7話
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2017年5月18日午後4時35分。月井と今村は新宿山手署の捜査本部を出て、歌舞伎町へと向かった。夕方の繁華街は賑わい出す頃だ。月井たちがルール―のある通りに来て、まっすぐに店へと行く。
「こんばんは。警視庁捜査一課の月井です」
「新宿山手署刑事課の今村です」
互いに警察手帳を提示し、そこにいたホステスに挨拶して、店の中へと入る。
「高木梨帆さんは出勤しておられますか?」
月井が訊くと、ドレス姿のホステスの一人が、
「ああ、梨帆ちゃんいませんよ」
と言う。今村が、
「ママの野際仁子さんはいらっしゃいますか?」
と訊いた。
「ママなら奥にいると思います」
ホステスたちがざわつき出す。警察が来たと知って動揺しているのだろう。すぐにジャスト50歳ぐらいの、派手なドレス姿の美人が来て、
「野際仁子はあたしですが」
と言い、表情を固まらせる。月井が、
「警察の者ですが、高木梨帆さんを捜しておりまして」
と言って、同じく表情を引き締めた。
「岡田社長が亡くなったって聞いて、びっくりしてますわ」
「ああ、事件のことはすでにご存じで?」
「ええ。ニュースで見ました」
「野際さん、単刀直入にお聞きしますが、岡田社長のお人柄や普段のことなどは?」
「ああ、そうね。……あの方は気さくな面もあったけど、仕事には没頭しておられました。うちの店でお酒飲むのが唯一の楽しみだったみたいで」
「そうですか。……ところで高木梨帆さんは港区の自宅マンションから蒸発してます。高木さんには岡田社長殺害容疑が掛かってまして、今警察が手配してますが、行く場所などにお心当たりは?」
「分かりませんね。個人的な付き合いって、ホステスの世界じゃあまりないんですよ。あたしもあの子のスマホには滅多に電話しませんし、メールも必要最低限しか……」
「なるほど。そういうことですか。……じゃあ、このお店の他のホステスさんたちも高木さんのプライベートなどはそうお知りにならないと?」
「ええ。梨帆ちゃん一匹狼みたいなところがあったから」
仁子がそう言うと、他のホステスたちも頷く。揃って何かを隠蔽している感じだ。月井も今村も、それ以上突っ込んだことは聞かなかった。店は客が入り始める時間帯で、あまり根掘り葉掘り聞くと、営業妨害になる。
2017年5月18日午後5時20分。月井たちは店を出、街を歩く。辺りは夜の様相を呈していた。歌舞伎町は日本一の繁華街とあって巨大だ。新宿区では人口密度が突出している。月井も今村もスーツを着たまま、歩く。堅気の仕事は格好が肝心だ。もちろん、昨今は暴力団員でもスーツを着ている時代だから、月井たち警察官も与太者と間違われることがあるのだが……。(以下次号)