第624話
624
2017年7月19日午後1時22分。歌舞伎町を歩く。疲れていた。日々、新宿を見張るのはきつい。月井にも、限界や限度といったものがあった。もうちょっと楽にならないかなとも思う。あまりにも苦痛が一点に集中し過ぎていた。
昔からこの街ではいろいろあって、逃げ出したくなることも、たびたびあったのだ。ただ、逃げなかった。それは実に勲章ものなのである。苦しいことに向き合い、決して放り出さない。月井にはそういった行動を実行する力があった。確かに、足掻いている時は苦痛そのものなのだが……。
警察官の労苦は実に甚大だ。でも、それを抱え持ち、受け入れることは大事である。3K労働も、ある意味慣れてしまった。いろんなことがあっても、どう対処したらいいか、指針を立てる。実際、その繰り返しだ。難しいことはない。こなすだけなのである。一つずつ。
昔からハードボイルド小説などはたくさん読んできたのだが、刑事の理想像はあっても、実地ではそう行かない。葛藤があった。本来なら、苦労せずに済むところを苦労してしまう。ただ、年齢を経ていくごとに面白くなっても来るのだ。月井も40代というのが、こんな年代だとは思ってもみなかった。いろんな経験が積み上げられて、上手く生きてくる。まあ、取り巻く現実は過酷なのだけれど……。
午後2時11分。夏の太陽が中空の高いところにあった。蒸し暑い。暑さ対策のハンドタオルは汗が染みていて、ペットボトルの水は生温くなっている。思う。地獄だと。街は道路のアスファルトが焼けるようだ。
内勤のデカだって、こんな暑い日はクーラー病になるだろう。楽じゃないのである。だが、過去の経験値は活きてくるのだ。なるだけ直射日光を浴びないよう気を付けていて、水分もこまめに補給する。7月の陽気は疲労を誘発してくる。まあ、気にし過ぎても、仕方ないのだが……。(以下次号)




